![]() ブナハリタケとムキタケ/11月3日/妙高にて。 表紙の情景(今号のみ)の一部分。 11月3日(土)。妙高。快晴といってもいいような朝の空。 パステル画のような輪郭のはっきりしない小さな雲のかたまりがふわっと浮かんでゆっくりと流れている。久しぶりの好天であった。あらかた葉を落としたブナやミズナラやシラカバの木々がまぶしげに陽光を浴びている。カラマツの葉がすっかり色づいていた。しかし今年は 「黄金色」 の輝きがないようで、どちらかというと 「黄土色」 といったようなくすんだ色合いに思えた。紅葉は全般に低調の年であったようだ。 この数年、高原の空気がどこかよどんできたように思える。 「気のせいかな」 とよく相棒と話すのだが 「やっぱし、昔のようでないな」 という結論でおさまる。すがすがしく肌を洗って流れていく透明にかがやく空気――が昔はあったのだが、このごろは下界の空気とそれほどの差がかんじられない。 「ナニがちがう?」 と会話してもやはり 「空気」 としか言いようがないのだが、木々の風情、遠い山並みの精気、牧場のたたずまい、といったそれらの高原情景のかがやきがどこかうすれてきたのではないか、と思えるこのごろ。 そんな変化を身体でかんじながらどんどん車をすすめて高度をかせいでいく。 道端に車が多い。雨天だった先回とはうってかわって大盛況のようだがこの週末あたりで終幕であろう。高原は冬にむかって急速に閉じていく。 そんな森に分け入った。先回は別行動だったが、こんどは共同作戦だ。 潅木や笹のひどい藪もその力が半減したように透いてきた。旺盛な生命力で行く手をはばんできた木々たちも半分寝たようにおとなしい。好天の下ではなおさらだ。相棒は傾斜を伝い私はラクな尾根を歩いた。機材はフル装備を背負っていた。 そのうち相棒の 「オーイオーイ」 の声が聞こえてきた。身体は小柄な方なのに野太くてよく通る声だ。 「オー、いま行くぞー」 と叫ぶ。距離にして100メートルほどと踏んだ。さて、ナニが・・・といろんな想像をめぐらせて声のした方向に進んだ。 目の前にブナハリタケが現われた(上と表紙の写真)。ムキタケも上の方に少しと下にはまとまって生えているが全景を写しこむのはムリのようだ。そんなきのこの情況といい背景の木立といい、じっくりと取り組みたい場面だ。少なくみても30分はいるなと計算した。 「なにぃ、30分?」 また病気がはじまったというような顔で相棒が困惑している。彼はビデオカメラのバッテリーを忘れたために、はじめから空身であったから 「採る」 ことだけに集中して動きまわりたい。 「先に行ってるぞ」 と言い残して森の彼方に行ってしまった。早くも共同作戦は破綻したようだ。 側でただじっと終わるのを待っていられる、というのも気になるもので、たとえ相棒といえどもあまり時間をかけては悪いなという配慮がはたらくもので、だから撮影時に単独でいられるというのは、「きのこのある風景」 に対峙する気持がぐっと集中できるのでいいのだ。ただし、それで単純にお気に入りの “傑作” が生まれかというとそういうものでもないのだが。 こうして、ひとりしずかに黙々と撮影行動に没頭できた。 雲は多いながら天気はいいし冬木立のような森の情景はいいしで、ああでもないこうでもない、こうしたいああしたいとカメラをいじくりまわしているうちに1時間がたってしまった。もう行方しれずの相棒のあとを追うことは不可能であった。アテもなくのんびりと徘徊をはじめた。 次のきのこはいっこうに見つからないが透明で明るい森のなかをさまようのはなにより楽しいものだ。これで冬がこなくて春までこんなだったらいいのだかな、などと夢のようなことを考えたりする。いやいやそうではない、きびしい冬があるから木々たちはこんなにも美しいのだ、などとも思ったりする。 その後はたいした成果もなく、けれども森をたっぷりと歩いた満足感は充分にもって車にもどった。 それから30分ほど遅れて相棒がもどってきた。 「どうだった?」 と自分があれからダメだったので相棒もダメであったろうというふうに勝手に決めつけた気持ちで訊いた。 「へっへっへ」 が返事だった。それは 「どうだ!」 といった自慢がこめられた含み笑いのようであった。 「なんだ?」 とふたたび訊いたあとでリュックから相棒が取り出したものは、株立ちになった見事なナメコであった。ビニール袋に丁寧によりわけて、ナメコとムキタケが詰め込まれていた。尾根のずっと上まで登ってきたのだという。深い欲望と果てしない体力だ。 「さすが、欲ばりじいさんだ」 といつものセリフでホメてやった。 帰りの車にのって高度を下げていくと前方にノロノロ走る車がいる。中型のキャンピングカーであった。ナンバープレートを見ると 、なんと 「沖縄」 ではないか。 観光地だし登山者も多いしで遠方からの車はめずらしくもない。北海道や九州ナンバーの車や団体バスもたまに見かける。でも、沖縄というのはこれまでなかった。 しかもキャンピングカーである。車じたいが高価であろうしフェリーの料金も高いであろうしガソリンもずいぶんと食うであろうし、かなりの金持ちなんであろうな、それで優雅にあちこちとさすらっているのだろうな、うらやましいものだ、などと相棒としゃべりながらその車の後ろについてゆっくり走った。 あんな車で 「日本全国きのこ巡り」 というようなものをしてみたいものだ、それで生活ができるんならサイコーだな、なんてバカな話しもでた。うーむ、沖縄の二文字がなんだかオソレオオイものに見えてきたぞ。 そのうちその車が端によって徐行しはじめた。追い越せということらしい。追い抜きざまにドライバーの顔を見やった。そしたら想像と全然ちがって細面でアゴはさらに細い 「ネズミ男」 みたいではないか。昔よく読んだ水木しげるだったかの漫画にでてくる妖怪である。助手席にはだれもいない。 野性的開放的金満的な顔をした男を想定していたが、あれぇと思うようなミスマッチな容貌でわしらのつくったストーリーに合わないではないか、などとまたバカなことを言いながらさらに高度を下げていった。 |