![]() ↑サルカニ共同作戦・・・ 5月24日。 先回よりもすこし奥まで車で乗り入れることができた。残雪は着実に目減りしている。一見、なにも言わずただ黙って積もっているけれど、底の方から雪解け水がちいさな流れをつくって確実に動いている。今回は近道作戦はやめた。こんどはだまされずに前回のリベンジをしてみたい気もしたが、車が奥まで入れたぶん、近道の意味がうすくなったからだ。 素直に通常のルートを進んでいく。 かつては、こんな時季はアミガサタケを探したりしていたのであった。同じ妙高でも赤倉や池の平の、標高でいえば800メートルあたりをうろついていたのだ。30センチほどに伸びて食用期にあったウドの附近によく見つかったものだ。なぜウドなのかはいまだに謎のまま。柏崎にあるわが工場の近所で一昨年の春に貝殻をまいた草地に去年は1個、今年は3個発生した。自説の「アルカリ説」はいまのところ的を得ているようだ。 妙高のこのあたりにはなぜか梅の木が見当たらない。アミガサタケのあとはハルシメジというのが定番なのだが梅や杏の木がないのでそれがかなわない。それでも高原の空気が気持がいいものだからあちこちぶらぶらと徘徊してすごしていた。 妙高にいた佐藤氏と知り合ってそれが一変した。 ほとんどひとの行かない「秘境」を案内してもらってからだ。 これが病みつきになった。『きのこの四季』がいつしか『山菜ときのこの四季』に変節していった。 山育ちの相棒は子供のころからきのこと山菜とともにあったようなものだったが私は山菜にはあまり心が動かされるものがなくてきのこ一本槍の人生をやっていたようなものだ。タラノメ?コシアブラ?ゼンマイ?ワラビ?ウド? ――そりゃまあ料理として出されればよろこんで食うけれど、わざわざ自分でとりに行くほどの意欲まではないな、といった感じであったのだ。まあ、きのこのついでに見つけても、あああるな、などと横目で見て思うだけ。 「秘境」の山も山菜も、それまでの経験とはまったくの別物であったのだ。 今回はその佐藤氏と相棒との3人連れ。天気予報は午後から雨を告げていたからあまりぐずぐずしてはいられない。 林内の残雪はやや下がり緑がふえてきている。ブナの葉がひとまわりふくらんでいた。「下から見るとばからしくなる木はなーんだ?」というのはまだ小学生だった娘が友達から仕入れてきた「謎々」。そのシラカバの葉もしっかりしてきた。 前回と同じ地点までくると、やはり私の身体は疲弊していた。がんばってがんばれるというような質のものではないようだ。身体の芯のあたりが深くぐったりとしている。去年まではもっと長くてアップダウンのきついルートを何度も往復していたあの体力はいったいどこへ行ったのか。ヒーハーと苦しくてもそれなりに身体が対応できていたのだ。 「やっぱしトシだの」 相棒がヒニクる。 そうなのだ。考えてみたら(考えなくても)この4月で還暦をむかえたのであった。それにしても、そんなにきっかりと区切りをつけて身体にくるものなのか。若いころにやっていたサラリーマンをあのままやっていたら「定年」であったのだ。自分ではまだ40歳のつもりでいたが現実はそう甘いものでもないようだ。元来、体力も運動能力もないヤワな身体のつくりであったのだから仕方がないか。 元気にガケを下りていくふたりを見送った。 佐藤氏は私よりひとつ上なのにあの健脚である。渓流釣りのベテランだから素地は充分にある。サワガニにようにガケを下り川を渡り藪をこいで向こうの斜面に見えなくなった。サルカモシカ男は前回と同じように直進して川の上流から対岸にわたった。それぞれに得意のわざで難所をこえていく。サルとカニはその先で合戦、でなくて合流するはずであった。 (はて、これからどうするかな・・・) 前回とおなじ“置いてけぼり”をくった。情けないのう。 それでもいくぶんの余裕は残っていた。すこし休んでいると前回ほどにはへたってないようだとわかってきた。なにかできそうだ。 (ここまで来て、こうしちゃいられない・・・) 気持をたてなおすとガケを下りた。途中から雪渓に踏み出して100メートルほど横切る。川を渡るコースはムリだが直進ですこし上流にある同じ岸の斜面ならなんとかなりそうだった。 雪が滑りおちて岬のように露出した隆起にとりついた。この隆起の下端が川のすぐそば。川との間にある雪の上を歩けばまた先にある別の岬まで行けるのだが、傾斜した雪は川べりで突然にストンと落ちている。大石ごろごろの川は小さな落差をつくってごんごん流れている。目の前にすると滑落しそうで崩落しそうで身体はかたまり心は凍る。サルカモシカ男はこんな危険箇所をとことこと何事もなく伝って歩いて上流から対岸に渡っていったのだ。危険感覚がマヒしたウマシカ男(わかりますね)でもあるわけだ。 川の水は10秒と手を入れていられない冷たさだ。最初のガケに来るまでの途中でペットボトルに川の水を補充してきたが、500ml入りでも満杯にするのに片手では冷たくてガマンできずに両手で交互にもぐしていた。あったまる間もない雪解け水だからせいぜい3℃くらいなのではないかと思う。こんな川に全身がおっこちたら、いったいどうなるんだか。 「君子危うきに近寄らずだ」 と決めた。 岬を直登した。つかまる潅木があるから急斜面でもなんとかなる。およそ50メートル。ひと足登ってはひと息つくのらりくらりのマイペース。自分でもじれったくなって途中から隣りの岬への雪渓を横切ろうかという誘惑にかられたが、下をみればそんなことができるわけがない。ガマンガマンだ。やっとの思いでガケの上まで達した。 安全なガケの上から水平移動してこんどは隣りの岬へと下りていく。効率のわるいことはなはだしい遠回りだが仕方がない。シラネアオイだのトガクシショウマだのが咲きはじめている。平野部では散ってしまったタニウツギの花がまだつぼみだ。 また登って次の岬へ、というあたりでついに限界がきた。これ以上身体がもちそうもない。ここで敗退というのも惜しいし悔しい。でも仕方がない。またのらりくらりと逆をたどってもとに戻った。 ガケの上からは谷川をはさんで急斜面の尾根尾根が波うつように連なっているのが見通せる。あのどこかに彼らがいるはずだ。去年はそこらに自分もいたんだ。ああ鳥になりたいなと思う。ハリポタの「魔法学校」はどこにあるんだろ・・・。 彼らが現れるはずの方角を見やりながら、前回よりはすこしマシだったなと満足することにした。 |