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第241号 雪渓の下り方 2008年6月13日



 ↑小雨にけむるギョウジャニンイクの若芽(ほぼ原寸)とカタクリの花/5月31日/妙高にて。

 谷を登った斜面の残雪の上。根こそぎ崩れおちた樹木つきの小島(3m×5m×高さ1m位)。その上にこの情景があった。
 先回記したように雲台を忘れてきたためにカメラを三脚に取りつけることができない。そこで雪の上に立てた三脚の上に両掌をのせてカメラを構えた。常に息があがっているので手がふるえる。ファインダーのなかは常に小刻みにゆれている。しばらく息がしずまるのを待った。
 こんな状況だからシャッター速度は30分の1秒が限度だろうと判断した。しかしそれだと絞りが浅い。もう2絞りは絞りたい。そうすると8分の1秒になる。手持ち同然のこんな状況では手ブレがおきるのは必定だ。しかたなく30分の1秒で撮影した。あとで考えたら15分の1秒でも撮っておけばよかったなと気がついた。
 三脚を忘れたことで動揺してしまい適切な判断を狂わせたようだ。
 この小島は斜面の残雪の上にのっかっているが、それなりに安定していることはわかる。雪崩でも崩落でも落ちるものは落ちている安定期にある。頭ではそうわかっていても、やっぱりなんだか恐い。ズズッと動きだすのじゃないかという不安がある。下から登って接近するときにはなおさらだ。

 5月31日。曇り時々小雨。
 土曜日(5月24日)は妙高へでかけ
 日・月となんでもなくて
 火曜日にカカトが痛み
 水曜日はびっこをひいて
 木曜日はいくぶん治り
 金曜日はようやく歩け
 土曜日(5月31日)はまた妙高へ
 テュリャテュリャテュリャテュリャテュリャリャ〜、と 「一週間」 が過ぎた。
 痛めたカカトはなんとか回復した。 途中でおかしくなったらどうしよう・・・という一抹の不安はあったが意外に問題もなく踏破することができた。もし奥へ行って再発したら自力での下山は超困難かもしくは不可能。サルカモシカの背中にのって、というのも不可能だ。そしたら・・・救助隊の出動だ。みっともない。もしそうなったら恥じて山から足を洗うしかないだろう。
 などと考えながら進む。入り口は狭いように見えて突き進んでいくと想像よりも広がる谷間。そのままずっと登っていけば絶壁の上に山と山の間をつなぐ鞍部が立ちふさがる。はるかに見上げる鞍部は霧がただよい広葉樹林のあいだに針葉樹がちらほらとまじっていて亜高山帯といったおもむきがにじむ。
 谷の斜面は崩れやすい軟らかい地質のようで、所々に根こそぎ削られたらしい樹木つきの土のかたまりだの土砂だのがころがり残雪を黒く汚している。これまででもっとも不安定な地質の谷間だ。
 谷は両側の斜面から落下した雪ばかりでなく、鞍部直下から発生したとみられるナダレが駆け下り谷間に分厚く堆積したような徴候が見られる。ナダレに巻き込まれて途中で置き土産になったブナやダケカンバの大木残骸が残雪からなかば突き出している。あわれにも小枝からは若葉が広がりはじめていた。そのうち若葉たちはアレレと異変に気づいて、そこで終末をさとることであろう。
 ナダレはそのまま暴走して主流の谷底(表紙の写真。今号だけ)に達し、勢いはとまらずにそのまま対岸の100メートルの斜面を駆け上がり残雪から出ていたブナとトチの木をことごとくへし折り、もとの谷の上部にあったらしいダケカンバ大木(二抱えあった)をまるごとごろりと置き残してやっと止まった――ような状況に見える、そんな谷間周辺である。
 そのあたりだけ、およそ100メートル四方にわたって大木がない。ということはナダレの常襲地帯であることを物語っているのだと相棒と見積もった。そして、そんなすさまじい光景を実際に、安全な地点にいながら見てみたいものだと夢想したりした。
 いつものように、なんのためらいもなく足早に谷をさかのぼるサルカモシカ男。私はかなり慣れてきたとはいえ、頭の隅のどこかには恐怖の意識が根付いているのを感じる。果てしなく分厚い残雪であることはわかる。しかし、足の下は確実に深い谷底がある。「絶対に踏み抜かない」 という保証はどこにもない。そんな恐怖心を完全に払拭することはできないでいる。
 残雪斜面への恐怖というのもある。だいたい30度の傾斜あたりから足がすくむようになる。45度になるともう絶壁でどうにもならない。これは下から見たり横から眺めたりしただけではわからない。実際にそこに立ってみるとまさに恐怖で身体が固まるのが普通で正常。
 私のそんな場面をこれまでになんどか書いてきたが、登るのはわりと平気で(30度以下なら)横渡りは恐くて下りは極度に恐いというのが一般原則になると思う。一方の特殊で異常なサルカモシカ男がそんな場面を、とくに 「下る」 場合にどのように行動するのかを整理してみた。

@スカイダイビング型
 腹這いになって両手両足をのばしてすこしえびぞる。つまりスカイダイビングで降下するときのあのスタイルに似ている。その恰好のまま腹部で滑降していく。45度くらいの斜面でのワザ。
Aカカト滑り型
 スクッと立ったままカカトで滑っていくワザ。45度くらいで距離が短い場合。ハタで見ていると簡単そうだが、やってみようとしても恐くてできない。もう少し緩い斜面でなら大体できるようになったが、そんな緩い斜面ではすぐに止まってしまうので効果があまりない。そのぶん安心 (なので出来る) 。
Bシリ滑り型
 単純にシリをついたスタイル。もっともスピードが出るワザで見ているだけで恐ろしい。スキー場のゲレンデではない。危険がいっぱいの谷間だ。@は普通の山服でやったがこれはカッパズボン着のときのワザであった。

 まあ、ざっとこんな具合なのだが、15年ほど前にはいっしょにスキーをしたこともあった。たぶん読者はスキーの技もこんな具合に絶対的な開きがあると思うだろう。ところが面白いことにスキーではあまり差がないのである。相棒はどちらかというとボーゲンスタイル(ハの字の初心型)でこっちはほぼパラレルスタイル(平行の中級型)。わしの方が少しだけカッコよくてウマカッタのじゃ。ハハハ。おかしいのう。
 念のためスキーなどしたことがない、というひとのために付け加えると、そういう未経験者がゲレンデで靴とスキーをいきなり履かせられたら、もう恐怖でガチガチはまちがいなし。曲がることも止まることもできず 「直滑降の止めナシ」 で直線暴走パニックに。転んで止まるしかないが転ぶのも決断と勇気がいる。
 テレビなどでスイスイと滑っているのをみるとすぐに誰でも簡単にできそうに見えるが、とんでもないのです。

 6月6日。曇り時々晴れ
 前回より距離のながい「秘境A」の最奥まで行くはずが、もうひと山というところまで来て、あえなくリタイア。
 少しづつ体力は回復してきているようだが完全には復活しないことがはっきりした。
 今となっては、去年までのあの持久力が信じられないといったむなしくもかなしい心境。