第26話「流駆vsリュカ」
ギィ・・・。
物々しい音を立てて、流駆は扉を開いた。
「いらっしゃい・・・待っていたわ・・・。」
そこに立っているのは、窓の外を物憂げに見つめている金色の髪の女性。
その女性はゆっくりと振り返り、そのディープブルーの瞳を流駆に向けた。
「あんたは・・・確か、リュカ・・・だったか?」
名前を思い出そうとする流駆を見て、くすくすと笑うリュカ。
「そうよ・・・私はリュカ。リュカ=アルヴィスよ。貴方の名前は何だったっけ?」
「・・・聖 流駆。」
「流駆・・・いい名ね。じゃあ早速だけど・・・行くわよ。」
リュカが身構える。だが、流駆は怪訝な表情を浮かべた。
「戦う前に訊きたいこともある。そう焦るなよ。」
「何?訊きたいことって・・・。」
今度は、リュカが怪訝な顔をする番だ。
「まずは・・・これは樹も訊いていたが、なんでモンスターになったのか。」
樹と同じ質問をする流駆に対し、やはりリュカの表情は沈んだ。
「・・・なんでモンスターになったのかはさておき、貴方は1つ勘違いをしてるわよ。」
「・・・勘違い?」
リュカは微笑しながら、言葉を紡ぐ。
「私はモンスターになったんじゃない。元からモンスターなの。」
「・・・元からだって?」
『そうだったんですか?・・・初耳ですね・・・。』
流駆のほかに、月に咲く天使がデックから驚きの声を上げる。
「・・・なら、他の4人は・・・。」
「元人間よ。・・・理由を聞きたいなら、私を倒してからにしてね・・・!」
リュカの体が、眩い光に包まれた。
「・・・その姿は・・・!?」
流駆が視力を取り戻した時、リュカは銀色の軽鎧と羽飾りを身に纏い、その手に大鎌を持っていた。
「・・・採魂の女神、ブリュンヒルド・・・!」
『ご名答。これが私の本当の姿。魂を刈り取る・・・死神よ。』
自嘲めいた笑みをこぼし、リュカは俯く。が、すぐに鎌を構え、臨戦体勢となった。
「死神、か・・・。せめて、勇者の導き手とかそういう風に2つ名を名乗ったらどうだ?」
口では冗談を言っているものの、目はかなり真剣な流駆。
ブリュンヒルド相手では、死ねば「死」では済まされないからだ。
「・・・最悪、魂さえも消滅か・・・。まぁ、やるしかないかな・・・!」
流駆も身構える。いつでもスペルを撃ち込める体勢だ。
『・・・過去に、何人もの召喚術師が私を支配しようと挑んできたわ。』
突如、リュカが話を始める。
『彼等の目的が純粋な戦闘のためか、それとも慰み物にするためか。
はたまた、金儲けのためか。私をどのように使おうとしたか・・・それは解らないわ。』
「・・・・・・。」
流駆は、ただ黙して聞いている。
『中には、心が澄んでいるような人もいた。でもね、私はそのことごとくを斬って捨ててきたわ。』
「・・・一体、何が言いたいんだ?俺を怯えさせたいわけじゃないだろ?」
何だか解らないという表情で言う流駆。
『・・・流駆、さっき自ら言ったように私に負ければ魂も残らないわ。それだけの覚悟があるの?』
じっと流駆の瞳を見つめながら言葉を紡ぐリュカ。
「・・・とりあえず、そうじゃなきゃここには来ない。」
静かに、はっきりと流駆は話す。
「それに、俺は覚悟をするためにここへ来た・・・と言っても差し支えないからな。」
『ふうん・・・。なるほどね。じゃあ・・・もともとする気は無かったけど、遠慮はいらないわね。』
「・・・そりゃ、お互い様だ。」
それを最後に、2人はぴたりと動かなくなった。出方を伺っている。
およそ、3分が経過した。未だにどちらも動こうとしない。
『流駆、どうしたの?そんなに私が怖いのかしら?』
「生憎、俺は自分から攻めるタイプじゃない。どちらかと言うと、防御の方が得意だからな。」
リュカの挑発も、冷静に受け流される。
『そう?それなら・・・これはどうかしら?』
不意にリュカが腕を突き出す。即座に流駆も反応するが、特に何も起こる気配は無い。
『ふふっ。そんなに怯える必要も無いわよ。』
リュカの握り締めていた手が開かれると、その掌から何かの粉塵が宙に舞った。
「・・・あれは・・・『滅びの粉塵』!?」
『その通り。その首にあるロザリオを塵にするわ。さあ、どうするの?』
「冗談じゃない!『反応月光』!」
流駆が月のアミュレットを翳す。アミュレットから放たれた淡い光が滅びの粉塵を無力化した。
だが、リュカは突き出した手から追撃を放とうとしている。
『ジャスティス!』
裁きの光が、まっすぐに流駆へと向かってくる。
「チッ・・・『ディスペル・マジック』!」
打消しのスペルで、ジャスティスの光も霧消させた。
「危ない・・・って、あれ・・・リュカがいない・・・どこだ?」
と言いながら、流駆が背後に振り返ろうとした瞬間、冷たいものが首筋へと添えられた。
『少しでも動けば、首を跳ね飛ばすわよ。』
リュカの声は酷く冷たく、沈んでいた。
「・・・早いんだな。」
『このぐらい出来なきゃ、採魂の女神は・・・死神はやっていけないって事よ。』
流駆はこんな状況でも、冷静さを失わない。本当に14か。
『・・・私は、貴方なら或いは・・・と思っていたわ。』
「・・・リュカ?」
リュカの言葉に、戸惑う流駆。
『でも・・・貴方も、駄目でした。守ることが得意と言うようでは、あの4人を救うことなど、出来ないんでしょう・・・。』
リュカは目を伏せた。だが、すぐに見開かれる。
『さようなら、流駆。生憎だけど、完全に消滅させるわ!』
鎌に、青白い炎が生まれた。ブリュンヒルドのみが持つ、必殺の『採魂の炎』。
『・・・ごめんなさいね・・・!』
一瞬鎌が引かれ、流駆に襲い掛かり・・・そして、刃と炎が届くことは無かった。
『・・・な、何、これ・・・動けない・・・!』
見れば、リュカの周りを数本の光輪が取り巻いている。
「・・・今度は、あんたが勘違いをする番だったな。」
流駆は、リュカに後ろを向けたまま喋りだした。その手には、いつの間にかカードが握られていた。
「守るなんてのは、別に攻撃しないわけじゃない。守るために戦う・・・と言うのはカッコつけすぎか。」
苦笑しながらも、話を続ける。ゆっくりと鎌の刃から抜け出しながら。
「それと、何人もの召喚術師を倒したなんて言ってたけど、よっぽど弱い召喚術師だったんじゃないのか?ダークネスあたりのレベルの。」
そこまで言った時点で、流駆は振り向いてリュカを見た。そして、カードを放る。
「・・・リュカ、これで終わりだ。『ホーリー・ディスラプト』!」
『聖』を打ち砕く光輪が、リュカを巻き込み、吹き飛ばした。
『――――っ!』
その勢いのまま壁に叩きつけられたリュカは、武装を解いて元の服装に戻った。
「・・・強いわね。倒したと思ったけど・・・。」
「俺が強いわけじゃない。そっちの詰めが甘いだけだ・・・ところで。」
流駆が、白々しい目でリュカを見る。
「何か?」
「あんた・・・やっぱり人間じゃないのか?本当にモンスターなら、今のでカードに戻るはずだろ?」
流駆の問いに、リュカは首を横に振った。
「いいえ・・・。私たち5人は、カードに戻るか戻らないかは自分で選べるみたい。何でかは解らないけどね。」
「・・・なら、そのままダメージを受けつづけたら?」
「4人はどうかは知らないわ。でも、私は・・・召喚術師による送還以外で強制的にカードに戻る時は、私が死ぬ時ね・・・。」
リュカが話し終えて、流駆が気まずそうな顔をする。
「・・・想像したくない事を言わせて悪かった・・・悪いついでにもう一つ。」
「何かしら・・・?」
「・・・俺は太陽を睨む天使や月に咲く天使をそのまま太陽を睨む天使、月に咲く天使と呼んでいるんだけど・・・
実際には個体名があるのか?リュカと言う名があんたにはついてるだろう?」
今度の問いにも、リュカは首を縦には振らなかった。
「固体名は無いわ。リュカと言う名前は、4人につけてもらったのよ・・・。」
「なるほど・・・。じゃあ、とりあえず戻ろう。他も、そろそろ終わっている頃だろ・・・。」
ドアに向かって歩き出す流駆に、リュカが後ろから声をかける。
「人間だった4人が何故モンスターになったが聞きたいんじゃ無かったの・・・?」
その声を聞き、流駆は振り返ってふっと笑った。
「それは、全員が集まってからゆっくり聞かせてもらうさ。・・・すぐ来いよ。」
リュカを残して、一足先に流駆は部屋を出た。