第38話「ベリアル登場」
頂上を目指して歩き続ける流駆たち。しかし、山道は今の所モンスターこそ出ないものの、険しかった。
「ふぅ・・・結構距離があるんだな・・・。」
集団の最後尾にいる流駆が呟く。額には汗の玉が浮いている。
「おい、どうしたんだ!?頂上はまだ先だろ!」
5人の先頭・・・いや、それよりもかなり先を行くのは、もちろん炎。
因みに、リュカたちはカードに戻っている。・・・歩きたくないのだろうか。
「え、炎さん・・・歩くの速過ぎですよ・・・。」
流駆のすぐ前にいる麻耶が息切れをしながら応える。
流駆が最後尾にいるのは、あまり体力が無く、ペースの遅い彼女をおいていかないようにするため。
「凄いね、炎は・・・なんであんなに速く歩けるの・・・?」
「・・・全く、いつも無駄に体力が多いんだから・・・。そんなペースだとばてるわよ!」
これは、丁度真ん中を歩いている樹と楓。彼女たちも、かなり息が上がってきている。
「炎!先を行ってるけど、何か変わったことは無いのか!?」
「んあ!?ねぇよ、今んとこは!」
大声で叫ぶ流駆に振り向き、頭が痛くなるような声で応える炎。だが、向き返ると。
「・・・何だ?ありゃ。」
炎が遠くに、何か不自然なものを見つけた。何だかその一点だけ、紅い。
「・・・火、か?」
「炎、どうしたのよ?」
炎がその一点に見入っていると、楓と樹が追いついてきた。
「楓、ありゃ何だ?」
「あれ?・・・どれよ。」
「あそこじゃないの?ほら、何だか紅い・・・。」
3人が見ていると、その紅いものはだんだん大きくなってきた。
「行こうぜ。すっげぇ気になる。」
「流駆と麻耶、待たなくていいの?」
「そのうち追いつくし、何かあってもどうにかなるでしょ。」
楓の言葉で、3人はやや歩くペースを上げた(炎は楓と樹に合わせているが)。
「・・・あいつら、ペース上げたな・・・。追いつけるか・・・?」
「ごめんなさい流駆さん、私のせいで・・・。」
炎たちを見てぼやく流駆に、なぜか麻耶が謝る。
「いや、麻耶のせいじゃないし。ばてない程度に進めばいいだろ。」
「は、はい・・・。」
俯き加減で呟きながら、麻耶は歩き続ける。
『・・・流駆、貴方は優しいのですね。』
「リュカか?・・・何だよいきなり。」
流駆のデックから、いきなりリュカが流駆にだけ語りかけてきた。
『貴方は、麻耶のペースに合わせているために相当体力を消耗しているでしょう?』
「・・・。」
応えない流駆。図星である。普通に歩けば、楓や樹と同じぐらいのペースだったはずだ。
『出来れば、少し休んだほうが・・・。』
「で、前に行った3人を見失えってか?・・・俺は大丈夫だ。」
言い切った流駆に対して、リュカは何も言わなかった。
「流駆さん?」
「何でもない。それより、炎たちはどこまで行ったか見えるか?」
「あ、ちょっと待って下さい・・・。」
麻耶が前方を見る。
「そうですね・・・大体200メートルぐらい先を行ってると思います。」
「200メートル・・・!?有り得ねぇ・・・。」
「さっきばてないようにって言ってくれましたけど、これじゃ炎さんたちを見失っちゃいます。ちょっと急ぎましょう・・・。」
と、麻耶がペースを上げて歩き始めたその直後。
「あっ!」
麻耶が、石に引っ掛かって転んだ。
「おいおい・・・大丈夫か?」
流駆が駆け寄る。幸い、膝と掌を少し擦り剥いた程度で済んだ。
「・・・ペースは崩さないで行こうか。」
「・・・すいません・・・。」
そのころの炎たちは、紅い何かの正体を突き止めていた。
「・・・どうする?」
草むらに潜んでいる樹が横にいる炎と楓に訊ねる。
「そうね・・・。相手がラヴァーなんだから、この間みたいな特攻は出来ないわよ、炎。」
「解ってら。」
楓が言うように、紅い何かの正体は赤鱗の蜥蜴人、ラヴァー。種族共通の特徴として、火に強い。
そして楓たちの前には、クロスボウや薙刀を持つラヴァーの兵士がいる。
「・・・様子をしばらく見てましょう。」
「そうだね・・・。」
楓に応えた樹が改めてラヴァーたちを見ると、ラヴァーたちはある一点に向かって敬礼をしていた。
「ベリアル!・・・こんな所に・・・。」
そう。ラヴァーが敬意を示しているのは、六皇子の一柱『灼熱の王ベリアル』だった。
『はっはっは、お前ら、頑張ってるか!気合入れろよ・・・お?』
ベリアルの視線が、潜んでいる樹の視線と一致した。
「・・・楓、目が合っちゃった・・・。」
「それは・・・見つかったでしょうね・・・。」
楓の予想通り、ベリアルはニヤリと笑う。
『おい、お前。』
『ベリアル様、何か?』
『あそこの草むら、何かいるぞ。』
そのベリアルの言葉に素早く反応したラヴァーの兵士は、クロスボウの矢を数発草むらに放った。
「いっ!」
その矢のうちの一本が、炎の鼻先を掠めて近くの木に突き立つ。
『出て来い!そこにいるのは解っているぞ!』
矢を放ったラヴァーの兵士が、楓たちに勧告する。
「ど、どうするの?」
「・・・仕方ないわね。ルイン、斬り込んでくれない?」
『解った。3人とも、気を付けろよ。』
楓が高くカードを放る。ラヴァーが警戒する中、ルイン・・・即ち、マルドゥークが召喚される。
「・・・行くぞ!」
ルインは自らに『スピード』をかけ、ラヴァーの兵士をまず1体屠った。
「よっしゃ、行くぜ!グラッド!」
「おし!相性悪ぃけど、やってやる!」
「僕だって!レーゼ、やろう!」
「了解!」
炎、樹が突っ込む。最後に、楓が黄金の槍を持って現れた。
「そういえば流駆と麻耶、遅いわね・・・。っと、今はそんな場合じゃないわね!」
飛び掛ってきたラヴァーの薙刀使いを『ティルフィング』で迎撃しながら、楓は呟いた。
『ハッハァ・・・久々に熱くなれそうだな!』
一方の流駆たちだが、彼ら2人の前にも敵が立ち塞がっていた。
『ここから先へは行かせないぞ。』
『大人しく、立ち去るのが身の為です。』
流駆と麻耶の前にいるのは、2体の『ラヴァ・イフリート』。片方は男性の姿、もう片方は女性の姿である。
「・・・帰れるものなら帰ってるところだけど、事情があってな。」
「私たちの仲間が先行しているんです。・・・道を、譲ってはくれませんか?」
麻耶の言葉に、女性のラヴァ・イフリートが失笑で応えた。
『私たちもベリアル様の元へ向かおうと思っています。ですが、貴方達もそうのようですね。・・・向後の憂いは断っておきましょう。』
「だってよ、麻耶。・・・残念だったな。」
山の2箇所で、戦いが始まろうとしていた。