第67話「消える心配事」
「あれ、あの黒い霧・・・。」
「アスモデウスか。・・・好都合だ。」
下を見て、人が黒霧から逃げていくのを確認する流駆と樹。
「ちょ、ちょっと、あれ!」
「え?」
レーゼが突然指差した先には、『マルコキアス』に捕まれて連れさらわれようとしている樹の母、理香の姿があった。
「母さん!」
「樹、追え!俺はデカラビアを叩く!」
「追えって言われても・・・!?」
「いいから!レーゼ、頼むぞ!」
言うが早いが、流駆はスカイ・ワイバーンから飛び降り、ホルスを召喚してそれに乗った。
「・・・樹、行くよ!」
「解った・・・あぁもう、迷惑な母親!」
樹を乗せたスカイ・ワイバーンは、レーゼと共にマルコキアスを追った。
「よし・・・『太陽を睨む天使』、頼む!」
流駆がカードを放る。筋骨逞しい四本腕の天使が、久しぶりに姿を現した。
「『太陽の槍』を!」
『解っている!』
魔を滅ぼす槍が構えられる。しかし、デーモンたちから大量の対抗手段が飛んできた。
『封印の札』、『魔法のロープ』、『プラズマ・インパクト』、『ジャスティス』・・・etc。
『流駆、援護を頼む!』
「あぁ・・・聖炎よ!」
流駆が剣を振るう。太陽を睨む天使の前に現れた聖炎のカーテンが、その対抗をことごとく無に帰した。
『散れ!』
その一喝と同時に放たれた太陽の槍は、デーモンたちを一掃した。残るはデカラビアのみ。
「ホルス、『クロスファイア』!」
残ったデカラビアを、十字の聖炎が引き裂く。そのまま、カードへと戻った。
「・・・これで、全部か?」
『恐らくそうだろう。』
「じゃあアスモデウスと合流して、樹を追おう。」
「マルコキアス、待て!」
樹のその声に、しかしマルコキアスは止まる気配はない。先程からほとんど同じ場所を堂堂巡りしている状態だった。
「・・・母さんがいなければとっくに攻撃してるのに・・・!」
「樹、もう一度回り込みな。あたしはこのまま後ろから追うから。」
「了解!スカイ・ワイバーン、速度上げて!」
スカイ・ワイバーンが速度を上げてマルコキアスを追い抜き、その前に立ち塞がった。
『チィ・・・。』
「さっきから似たようなことばかりやらせて・・・こんなイタチごっこ、もう飽きたよ!決着をつけてやる・・・母さんを返せ!」
樹が、何枚かのカードを突きつける。全て、攻撃系の戦闘スペルである。
『こいつを連れて来いと言われたが・・・えぇい、邪魔だ!』
マルコキアスがその足を横に振る。理香の身体はそれと同時に大きく振られ・・・空中に投げ出された。
「・・・!母さん!!」
落下する理香を追い、スカイ・ワイバーンを急降下させる樹。
『予想通りだ。これで殺しやすく・・・』
「・・・あんた、覚悟はいいかい。」
マルコキアスはその声に振り向いた瞬間、フレイム・ストライクによって焼き払われた。
「・・・樹・・・!」
「大丈夫・・・何とか、追いつけたよ・・・。」
「って、無茶だよそのカッコは!」
樹のカッコは・・・理香を片手で宙ぶらりんしつつ、自分も何とかスカイ・ワイバーンに捕まっている状況だった。
「樹、こっちに。」
「・・・あ、流駆!ありがと・・・。」
駆けつけた流駆のホルスに、理香を乗せる。
「・・・それで、これからどうする?あっちは大体片付いたぞ?」
「じゃあ、戻ろう。あの黒服たちに、この母親引き渡すから。」
「OK。」
「奥様は一体どこだ!?」
「この黒い霧はなんだよ!」
流駆たちがまだ気絶している理香を連れて(流駆と樹で肩に担いで)戻って来た時、屋敷の前は黒服たちが慌ただしく動いてきた。
「・・・あんまり行きたくないな・・・。」
「今更・・・行くぞ。」
2人は、手近な黒服に話し掛けた。
「ちょっと。」
「何だ・・・お、奥様!?それに、樹お嬢さん・・・!」
「母さん連れてきたよ。こんな気持ち良さそうに寝てるけど。」
「ど、ど、どういうことですか!?それにお前はいつかの・・・!」
「全員集合させて。それから話すから。」
黒服が全員集められ、経緯が樹の口から語られた。
「・・・でも、解らないのは何で僕の家が狙われたかなんだよ。」
「多分、我々が召喚できるカードを持っていたからです。それらも全部、持ってかれたり燃やされたりしましたが。」
「じゃあ、ダークネスのカードはこれで全滅か・・・。」
あっけないな、と流駆が溜息をついた。
「・・・お嬢さん。奥様を安心させるためにも、家に戻っていただけませんか。」
「え?何を・・・。」
「あれでも、お嬢さんのことを心配されていたんです。どうか・・・。」
黒服たちが、全員で頭を下げる。
「・・・頭を上げてよ。そんな事されたって、僕は戻る気はないよ・・・少なくとも、今はね。」
「今・・・?」
「僕・・・僕たちには、今やらなきゃならないことがあるんだ。それが済むまでは、帰れない。」
「お嬢さん・・・。」
樹のクリアな目。それを見て、黒服のリーダーらしい男が大きく頷いた。
「・・・解りました。奥様には私から報告します。」
「ありがとう。・・・くれぐれも、僕が自分で帰ってくるまでに連れに来させないようにしてよ。」
「誓います。樹お嬢さん、それとそのお仲間も、気を付けて!」
「ずいぶん態度、軟化させたな?」
「う、うん・・・なんか、母さん相手に肩肘張るの疲れちゃったんだ。」
流駆の疑問に、妙に晴れやかな顔の樹。
「・・・やっぱ、心配だったのよね。あんただってさ。」
「そうなのかな・・・。」
「そうさ。まぁこれで、心置きなく繋がりを閉じに行けるってもんだろ?」
「そういうことだ。アスモデウスも、物凄く心強い味方だってことがわかったし。」
『信頼してもらえたなら、光栄だ。』
何ぞと言ううちに、家へ戻って来た一行。家の前には、麻耶が待っていた。
「ただいま、麻耶!」
「お帰りなさい・・・家の方、大丈夫でしたか?」
「大丈夫!ありがとね。」
笑顔で麻耶に応じ、家に戻る樹。それについて、流駆が歩いてきた。
「流駆さん。」
「どうした?」
「樹さん、なんだか晴れ晴れとしてません?」
「あぁ・・・面倒なことに、ケリがついたんだよ。」
麻耶の肩を叩きながら、流駆も家に戻った。
「さ、麻耶も家に戻りな。お腹減っちゃって・・・。」
「あ、ご飯出来てますよ。」
「今日誰だっけ。」
「私です。・・・せっかくなので、アスモデウスも食べてみてください。」
『いや、私は別に・・・。』
「アスタロトは食べてましたよ?」
『・・・何なんだあいつは・・・。』
次の日、彼らが世界に関わる戦いに向かうとはとても思えない光景だった。