第66話「黒幕」
「繋がりが完全に開くまで・・・後一週間程度!?」
山から家へ戻って来た流駆たち。同行したアスモデウスから伝えられたのは、そんな事実だった。
『そうだ。もし完全に開き切ってしまえば、もう閉じる術は無い。魔物は、無限にこちらの世界へやってくるだろう。』
魔物ではなく、人間の姿になっているアスモデウス。アスタロトも同様である。
・・・因みに、美男美女だった。
「でも、何でだい?あたしたちは、あんたたち以外の六皇子を倒しているんだよ?」
レーゼが腰に手を当て、更に警戒した口調で訊く。
『・・・確かに、六皇子の魔力はほとんど意味を成さなくなっている。既に、私たちしかいないのだからな。』
『しかし、繋がりはもう完成に程近い。こうなれば、あいつは独力で繋がりを完成させることができるだろう。』
「・・・あいつ?」
流駆の眉が、ぴくりと動いた。
「あいつって、誰だ?」
『・・・私たちに、繋がりを開けと言ってきた存在だ。』
『そして、繋がりを完全に開こうとしている存在。』
アスモデウスは、一拍の間を置いた。
『絶対神シヴァ・・・。それが、繋がりを望む存在。言ってみれば、この一連の黒幕だ。』
アスモデウスによって明らかにされた黒幕の存在。しばし、沈黙が続いた。
「でも・・・どうして突然、私たちに協力したいなんて言い出したんですか?少し前に、あんな戦いをしたばかりなのに・・・。」
麻耶が、その場にいた誰もが思っていた疑問を口にする。
『・・・その戦いの時、お前たちも見ただろう。私の腕を焼いた、あの光を。』
「あぁ・・・アルティミット・レイ・・・。」
戦いの終わり際を思い出す流駆。
『手を焼かれるまで私は、シヴァを協力者だと思っていた。だが・・・まさか、あんな形で切り捨てられるとは思わなかった。』
自虐的な口調で語るアスタロト。
『恐らく、あの戦いでアスタロトがお前たちを全滅させていたとしても、アスタロトは攻撃されていただろう。我々は用無しになったようだからな。』
目を瞑り、こちらも自虐的なアスモデウス。
『私たちは元々魔の存在とはいえ・・・所詮は聖魔判定を下した張本人。その言葉を信じたことが愚かだったんだろう。』
「聖魔、判定?」
聞きなれない単語に、炎が顔を顰める。
「聞いたこと無いのか?かつて、聖十字騎士団という騎士団が様々な種族を聖、魔に無理矢理分けたんだ。」
「あぁ、確かそれで魔って断定された種族は滅ぼされたのよね。」
ルインの説明に、雫が付け加える。
『その騎士団はシヴァの指示で動いた。で・・・私たちと共にシヴァを倒し、繋がりを閉じる・・・これに、同意はもらえるか?』
アスモデウスの目は、真摯そのものだった。流駆は、額を押さえながらその視線を受け止める。
「同意の前に、まず何でシヴァはあんたたちに繋がりを開けって言ってきたのか、聞きたいんだけど。」
『・・・それもそうだな。話そう。』
アスモデウスが手を組み、テーブルの上に乗せる。
『召喚術師から離れて、魔物の楽園を作る・・・それが、シヴァの言い分だった。』
「魔物の楽園?」
オウム返しに楓が訊き返す。
『六門世界には、召喚術師がかなりの数存在する。そんな世界では、魔物の安全は無い・・・らしいな。』
「魔物の安全が、無い?召喚術師が召喚するから?」
『そういうことだろう。それで、新天地を求めて、超大規模な『テレポート』を我々の魔力で行ったんだ。』
「それが繋がりの原因で、繋がったのが・・・この世界、か。」
的を得た、という感じで流駆が喋る。
『だが、この世界にも召喚術師・・・厳密に言えば、その素質を持つ者は存在した。つまり、お前たちだ。』
『その上、この世界はカードを普通に売買している。その上、カードから魔力を抽出する技術まで編み出した。』
「あぁ、ダークネス・・・。そういや、最近はその刺客来ないな。」
懐かしげな目をする流駆。
『その組織は、私が壊滅させた。とは言っても、その魔力を抽出する装置を破壊しただけだがな。』
「壊滅・・・!?槌田夫婦、大丈夫か・・・?」
『人間に怪我を負わせた覚えは無い。大体は私の姿を見て逃走、ある程度は召喚で応戦していたが・・・数だけだったな。』
溜息交じりで話すアスモデウス。
『恐らく、その組織が再び集結するということは無いだろう。もし心配なら、それは杞憂だ。』
「そうか・・・。」
『話を戻すが、シヴァはそんな存在を消し去ろうと思った。それで、まずはパズスをお前たちの元へ送り込んだが・・・返り討ちにあったようだな。』
「あぁ、あの時のパズス。あれは、結構危なかったよね・・・。」
思い出しているのは樹である。
『それ以降は、話す必要も無いだろう。私はお前たちにマレブランケを差し向けたし、お前たちは私たちを討ちに来た。』
「そして俺は、お前に殺されかけた。セネスは、ベルゼブブに殺された。」
『セネス?』
「あなたたちが儀式を行っている時に乱入した、ワルキュリアの1人です。もう1人は、私。」
セネスのことを話すせいか、リュカの目は鋭い。
『・・・返す言葉も無い。だが、それでも私たちはシヴァを討たなければならない。でなければ、死ぬのは私たちだ。』
『今一度言う・・・いや、頼む。私たちに、協力してくれないか。』
「・・・あんたたち2人は、それでいいのか?」
流駆の言葉に、え、となるアスモデウスとアスタロト。
「聞いただけだから想像しか出来ないけど、大規模な儀式をやったんだろ?そこまでした繋がりを簡単に閉じてもいいのか?」
思わず、顔を見合わせるアスモデウスとアスタロト。
『・・・14歳にしては、気配りができる少年だな。』
「誉めてるのか?年寄り臭いって言いたいのか?」
『前者だ。・・・あの繋がりを開きたいのは私たちじゃない。シヴァだ。アスタロトの腕を焼き、私たちを切り捨てた時点で、繋がりなどどうでもいい。』
「そう、か・・・。」
流駆が、周りを見渡す。複雑な心境が顔に出ているものの、満場一致の意見がそこにあった。
「解った、協力・・・いや、一緒にシヴァを倒し、繋がりを閉じよう。」
『・・・すまない、恩に着る。私たちの力全てを持って、繋がりを閉じることを誓おう。』
流駆とアスモデウスが、堅く握手した。
『繋がりの場所だが、結構な距離がある。ここからだと、早朝に出ても到着は夕暮れになるな。』
「となると、出発は明日だな・・・。今日はこれからどうする?」
と、流駆が立ち上がろうとしたその時、轟音が鳴り響いた。
「な!?」
『外だな・・・!』
全員が一斉に外に出る。すると、ある方向から煙が立ち昇っているのが見えた。
「あれは・・・遠くてよくわかんないけど、モンスターだ!」
双眼鏡で状況を確認した流駆が叫ぶ。
「それに、あの方向って・・・。」
「樹さんの家・・・ですよね!?」
「・・・!」
樹の顔は既に渋いものだった。
「樹・・・!」
「解ってるよレーゼ!もう!楓、スカイ・ワイバーン召喚して!」
「もう召喚してるけど?」
楓のからかうような笑み。その横には、スカイ・ワイバーンが鎮座していた。
「借りるよ!」
「俺も行く。どうも、数が多そうだ。」
「あたしもね。あんな状況で親子喧嘩は見たくないし。」
流駆とレーゼが、同行を申し出た。
『・・・私も同行しよう。闇討ちしない、ということを行動で示したい。到着したら召喚してくれ。』
「わかった。炎たちは待っていてくれ。」
「あぁ。でも、よっぽど遅くなるようだったら俺たちも向かうぜ。」
樹、流駆、レーゼ、アスモデウスが飛び立っていった。
「何で、僕の家にこんなモンスターが・・・。」
家に近づいてきた樹たち。そこには、デーモンを始めとしたモンスターが何体も飛び交っていた。
「あの奥、あれだ!あいつが魔物を呼び寄せてるんだ!」
流駆が指差した先に居たのは、醜悪な老人の姿をしたデーモン。
『なるほど、『デカラビア』か。』
そのデーモン、『デカラビア』が展開する『悪魔の魔法陣』は、デーモンやハウンドを無限に呼び寄せる。
「あいつを潰せば・・・!」
『召喚術師、行かさぬ。』
何体かのデーモンが、流駆たちの行く手を阻む。
『流駆!』
「解ってる・・・ここは任せるぞ、アスモデウス!」
流駆が、アスモデウスのカードを放る。剣の公爵が、その姿を現した。
『ア、アスモデウス!?』
『・・・私について来るか?それとも、シヴァを取るか?』
『我々は・・・シヴァ様の手先!』
と、一斉にアスモデウスに飛び掛るデーモンたち。だが、力の差は歴然としていた。
『小賢しい!』
大剣、『天使喰らい』の一閃。一瞬にして、デーモンの群れは両断された。
『・・・『ブラック・フォッグ』。』
下・・・地上の方に人が集まり始めたのを見て、足止めのためにスペルを放つ。
『・・・まぁ、暫くは持つだろう。後は流駆たちに任せるか・・・。』