第65話「風と土、聖と魔」


「うわわわわっ!」

響き渡る樹の叫び声。楓と樹の模擬戦は、楓のライトニング・ボルトから始まった。

「樹、いくらなんでも逃げ回るには早いわよ?」
「そんなこと言ったって!一度に3発も撃たれたらサンド・カーテンも間に合わないよ!」

黄金の仮面をつけた楓が放ったライトニング・ボルトは3発、それも同時にだった。
それが蛇のようにのたうちながら、樹に迫っていた。

「でも、最終的には当たるわ。・・・どうする?」
「・・・確かにそうだよね。じゃあ・・・『エンデュランス』だ!」

自らを強靭化し、ライトニング・ボルトに正面から立ち向かう樹。しかし、楓はニヤリと笑う。

「それなら・・・これならどうかしら?」

そう言いながら、楓は指を鳴らした。すると、3つのライトニング・ボルトが収束し始めた。

「え・・・まさか、威力を強化してる?」
「そういうこと。ブルー・ライトニングを超えてると思う・・・わ!」

楓が手を横に払う。それを合図にして、収束したライトニング・ボルト・・・とは呼べないような代物が樹を飲み込まんと走った。

「マジ・・・?でも、一発なら、『サンド・カーテン』!」

砂の壁が吹き上がり、電撃を受け止める。だが、じりじりと押されていた。

「た、耐えられない・・・うわあああっ!?」

サンド・カーテンを突き破り、電撃が樹を吹き飛ばした。

「『ディスペル・マジック』!そこまで!」

リュカがディスペル・マジックを使うが、まだ電撃が消えない。

「嘘・・・。」
「樹は!?」

電撃がようやく収まると、そこに樹の姿はなかった。

「跡形も・・・無くなった・・・?」

凍りつく空気。だが次の瞬間、楓の足元が崩れた。

「きゃっ!?」

ブライアー・ピットだった。楓はギリギリで黄金の槍を土に突き刺し、底から突き出ている槍による串刺しを回避した。

「楓、油断大敵。」
「樹!あなた、どうやって逃げ出したの!?」

穴の上から見下ろす樹に、楓が噛み付く。

「簡単だよ。サンド・カーテンは破られたけど、威力は削がれた。更にその前のエンデュランスのお陰で耐えられたってこと。」
「じゃ、じゃあいなくなったのは・・・。」
「電撃が残っている時、移動しただけ。・・・それ。」

樹がグラヴィトンを使い、楓を救出する。

「・・・引き分けにしましょう。ライトニング・ボルトの時点で楓は勝ってたけど、奇襲を受けたわけだし。」
「そうね。」
「うん、それでいいよ。」

「じゃあ最後・・・流駆と麻耶。準備して。」


















「・・・流駆さん・・・本当に、やるんですか?」
「何を今更。」

ブラック・ライトニングを持ちながらもあまり乗り気でない麻耶。そんな麻耶に、デクスが助言する。

「そう積極的に戦う必要は無いよ。2人の場合、力の応用を身に付ければいいんだ。」
「は、はい・・・。」

ギリ、と弓を持つ手に力が入る。流駆も、剣の柄を強く握った。

「じゃあ・・・始め!」

リュカの声に応じるように、流駆と麻耶の武器から力が溢れた。
流駆は白い光、殲滅の後光。麻耶は黒い闇、煉獄の矢のエネルギー。

「流駆さん・・・一発ずつ、イメージしたものを放っていきませんか?相手はそれを防ぐ、というように。」
「・・・構わないけど。」
「じゃあまず・・・私からいきます!」

麻耶が弓の弦を引き絞り、放す。煉獄の矢が3発、先程の楓のライトニング・ボルトのような動きで流駆に迫った。

「これを防げば・・・いいんだよな!」

流駆が剣を翳す。殲滅の後光が壁となって、煉獄の矢を受け止め、打ち消した。

「・・・改めて見ても、凄いわね。」
「ホントだぜ・・・。」

楓、炎が驚嘆の呟きを漏らす。

「じゃあ次は、俺だな。・・・殲滅の後光よ!」

流駆が剣を地面に突き刺す。次の瞬間、麻耶の目の前から光が噴出した。

「きゃっ!?」
「・・・しまった、失敗した・・・足元で小爆発を起こして、体勢を崩させようとしたんだけどな・・・。」

思いついた技が失敗したことに苦笑いする流駆。

「麻耶、やっぱり実戦にしよう。どうも、変な感じだ・・・。」
「そうですか・・・それなら、行かせてもらいます!」

麻耶が、ブレイズの矢を番える。そして、煉獄を乗せて放った。

「ハアッ!」

流駆が気合いと共に剣を振り抜く。炎と混沌を纏った矢が、光に包まれて霧散した。

「喰らえ・・・!」

続けて剣を振る流駆。アスタロト戦でも見せた、レーザービームのような光が放たれた。

「これで・・・!」

麻耶も負けてはいない。
煉獄の矢をすぐ下の地面に放ち、混沌の壁を噴出させて攻撃を防いだ。

「流駆さん・・・。」
「どうした?」

混沌の壁の向こうから、麻耶の声がする。

「・・・仕掛けますよ。」

その声の直後、麻耶の真上に煉獄の矢が放たれた。その太さから、エネルギーは膨大だろう。

「何だ・・・?」

怪訝な顔をする流駆。その矢は・・・空中で止まり、分裂した。

「な・・・まさか、さっきの炎のフレイム・ストライクと・・・。」

流駆が考えるより早く、分裂した無数の煉獄が流駆に降り注いだ。

「殲滅の後光よ!」

流駆が、光の壁を展開する。だが、分裂していた煉獄の矢は、その全ての狙いが一点に集中していた。

「・・・くぅ・・・。」

衝撃と圧力の大きさに、流駆は顔を顰めた。

「・・・殲滅の後光よ・・・!」

流駆が叫ぶと、殲滅の後光が輝きを増し、煉獄を押し始めた。

「煉獄の矢、分裂して!」

麻耶の叫び。すると、集中していた煉獄は、再び散乱した。

「おわっ!」

力を込めながら煉獄を押し返していた流駆。急に負荷が無くなり、前のめりに転んだ。
その周りに、無数の煉獄の矢が降り注いだ。

「流駆さん、大丈夫ですか!?」

技を放った本人が、思わず声を上げる。

「大丈夫・・・よっと。」

すっくと立ち上がる流駆。

「やるな、麻耶・・・でも、次辺りで決めにかかるぞ。」
「・・・。」

流駆が改めて構えた剣からは、殲滅の後光が溢れている。麻耶の弓からも、煉獄が迸っている。

「・・・樹、サンド・カーテンの準備はいい?」
「え・・・必要かな・・・?」

デクスに言われた樹のこめかみに汗一滴。

「いくぞ・・・!」
「いきます・・・!」

2人が高めた力を放出しようとした、その瞬間。

「誰だ!?」

流駆が突然、真上に殲滅の後光を放った。その光弾は、中空、何も無い所で弾かれるように消えた。

『・・・驚いたな。私の存在を見抜くとは・・・。』

光弾が消えた空間が揺らめき、何かが現れる。それは、2本の角と4枚の翼、そして巨大な剣を持った存在。

「ア、アスモデウス!?」

麻耶が、慌てて弓を突然現れたアスモデウスに向ける。もちろん、見学組も臨戦体勢になる。

『・・・弓を下ろしてもらうことは出来ないか。私たちは戦うために現れたわけではない。』
「・・・私、たち・・・?」

訝しげな顔をする麻耶。すると、今度は森の中から歩いてくる1人の女性に目を奪われる。・・・とは言っても、大鎌を持ったデーモンだが。

「アスタロト・・・!」
『数日ぶりだな。』

現れたアスタロトには、両の腕がちゃんとついていた。

「・・・戦うために来たんじゃない、って言ったよな。じゃあ何をしに来たんだ?」

流駆が疑問をぶつける。それに対するアスモデウスの返答は思いもよらないものだった。

『・・・召喚術師、お前たちと手を組みたい。そして、繋がりを作る根本となった存在を、共に倒したい。』


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