シフリアの父親が捕縛された翌日。
ライは目覚めてみると、見知らぬ部屋のベッドの上にいた。
「・・・ここは・・・?」
あたりを見回すライ。すると、部屋のドアが開いて誰か入ってきた。
「良かった・・・目が覚めたんですね。」
入ってきたのは、シフリアだった。
「シフリア・・・ここは・・・?」
「町の宿ですよ。ライさん、朝食が出来てますから、降りてきてください。歩けますよね?」
そう言うと、シフリアは部屋を出て行った。どうやら様子を見に来ただけのようだ。
「・・・みんなは大丈夫かな・・・。」
そう呟きながら起きると、ライは1階の食堂へと降りていった。
ライが下に降り、あたりを見回すと、先にテーブルについているコウを見つけた。
「ライか。怪我は大丈夫か?」
「あぁ、どうってことはないよ。」
他愛無い会話を交わすと、ライもテーブルについた。
「・・・コウ。シフリアの父親は、どうして僕を殺そうとしたんだと思う?」
ライが話を切り出す。
「俺に解るわけがないだろう・・・。本人に直接聞けばどうだ?」
「・・・本人に?」
コウの意外な答えに、怪訝な顔をするライ。
「ああ。さっきシフリアから聞いたんだが、どうやらこの町の外れの倉庫に閉じ込めてあるらしい。」
「・・・でも話をしたとして、答えてくれるかな・・・。」
「まぁ、それはお前次第だろうな・・・。」
そこまで話したところで、フィーナとクルク、そしてシフリアが降りてきた。
「よかった。ライも無事だったんだね。」
と、フィーナ。
「う、う・・・なんかまだ身体が痛いな・・・。」
「・・・大丈夫ですか?」
肩を押さえながら歩くクルクと、その傍についているシフリア。
「二人ともたいした事はないね。よかった。」
安堵の表情を浮かべるライ。
「ねぇ、早速で悪いけど・・・これから、どうするの?」
フィーナが話を切り出す。
「皆さんたちの目的地は、どこなんですか?」
事情を知らないシフリアが訊ねる。
ライが説明をした。
「・・・ごめんなさい・・・ちょっと信じ難いんですが・・・?雷のエレメントなんて・・・。」
困惑した表情のシフリア。
無理もないだろう。伝説上の雷のエレメントが実在して、その持ち主が彼だというのだから。
「・・・まぁ、いずれ解るよ。」
複雑な表情で答えるライ。
「とりあえず、出発は明日。今日は身体を休めるなり、装備を買い揃えるなりして旅に備えてくれ。」
外で何かが聞こえる。誰かが話す声だろうか。
「・・・大丈夫ですか?・・・」「心配ないよ・・・」
片方は聞いたことがあるような声だ。この町の誰かだろう。
もう1人は・・・おそらく、私が殺そうとしてしまった少年・・・。
ギィィ・・・。
ドアが開いた。
入ってきた少年・・・ライは、しゃがみこんでいるメガロの姿を見つけた。
「・・・メガロさん。」
ライは、メガロの変化に驚いていた。
自分を殺そうとしたは思えないほど、無気力だった。
悪い言い方をすれば、廃人同然となるだろう。
「君は・・・雷のエレメントを持っているね・・・?」
「・・・知っているはずですが。」
「知らなかったよ・・・。あの、頭巾をかぶる前は・・・。」
「頭巾を?」
オウム返しで訊ねるライに、メガロはゆっくり倉庫の一角を指差した。
そこには、メガロが洗脳の際に使っていた頭巾が置いてあった。
「全てはあの頭巾・・・。あの頭巾をかぶったことから始まったんだ・・・。」
私は、元々はモンスター狩りをしていたんだ。
あるとき、モンスターの巣を駆逐するために遠征をした。
そこで、あの忌まわしい頭巾に出会った。
その頭巾に強いエレメントの力が宿っていることを知った私は、その頭巾を持ち帰った。
おそらくは、エレメントが結晶化したものだろう。
そして私は、その頭巾をかぶってしまった。
しばらくは、何も起こらなかったよ。
私は、その頭巾を気に入って、普段からかぶるようになた。
そんなある日のことだった。
私は、風呂に入ろうとして頭巾を外そうとした。
すると、どこからか声が聞こえたんだ。
初めはその声がどこからきているのか、全く解らなかった。
だが、そのうちに回りが暗くなっていくのが解った。
そして、それまではっきりとは聞こえなかった声が、急に鮮明に聞こえ出したんだ。
その声はこう言ってたよ。
「雷使いを殺せ」って。
初めは、私は何のことだかさっぱりだった。
そして、そのときは声もそこで途切れたんだ。
だけど、その次の日に頭巾をつけてみると、同じような声がしたんだ。
怖くなった私は、慌てて頭巾を取った。
声は、聞こえなくなった。
でも、その日の夢にも、同じような声が聞こえてきたんだ。
そしてその次の日からは・・・何もないときでも声が聞こえたんだ。
相変わらず「雷使いを殺せ」だったけど。
だけど、その声は日を追うにつれて増加したんだ。
「エレメントを呼び出せ」「生贄を捧げろ」なんて。
そして、最後に「頭巾をかぶれ」。
その言葉攻めにノイローゼになっていた私は、ついに再び頭巾をかぶってしまった・・・。
「・・・そこから先は詳しく覚えていない。だが、自分の妻や娘を、君達を手にかけようとしたことは覚えている・・・。
誤って済む問題ではないが・・・すまなかった。」
メガロは、土下座して床に頭をこすりつけた。
「や、やめてください!そんな・・・。」
ライが困惑しきった表情になる。
「・・・おかげで、今は比較的まともな思考ができる。君達のおかげなんだ。」
顔を上げて、メガロが言う。
「そ、そんな・・・。・・・でも、どうして僕が・・・雷使いが狙われなければならないんですか?」
照れながらも、質問を投げかけるライ。
メガロは少し苦い表情になり、話し出した。
「君が狙われている理由は解らないが、狙っている相手は・・・これはあくまで推測だが・・・。」
「エレメント。」
ライは、そのとき一体何を言われているのか解らなかった。
「君は、エレメントに狙われている・・・あくまで推測だ。聞き流してくれ・・・。」
話が終わり、ライが倉庫の外に出ると、あたりはすっかり夜になっていた。
ライは宿に戻って、その日は早めに眠りについた。
翌日。
ライたち5人は旅の支度を整え、街を出た。
「・・・で、目的地は決まったのか?」
「・・・ああ。」
コウの問いに、簡単に応じるライ。
「光の地へ。いったん、僕らの村へ戻る。」
その言葉に、全員が怪訝な顔をした。
「ライの村にか?」
「そう言えばどんなところか、全く聞いてなかったよね。」
「そうですね。」
しかし、フィーナ、クルク、シフリアの3人と、コウは少し違った反応を見せた。
「・・・どういうことだ?何か気になることでも言われたのか?」
「・・・言われたよ。とても気になることをね・・・。」
ライは、昨日メガロに宣告されたことを話した。
話を聞いた4人に、しばしの沈黙が流れた。
「・・・止まれ。何かいる。」
クルクの一言が、沈黙を破った。
そして、その一言と同時に現れたのは、数体のゴブリンだった。
「ゴブリン、か・・・。ここはこれで・・・。」
ライが一歩前に出て、魔法の詠唱を始めた。
もちろん、他の4人も身構えている。
そして、詠唱が終わった。
「ウォーター・ウィップ!」
ライが唱えた魔法は、しかし発動されなかった。
「・・・あれ・・・?もう一度・・・。」
再び魔法詠唱をするライ。その間に、ゴブリンたちは間を詰めてきている。
「ウォーター・ウィップ!」
水の鞭がライの手から放たれることはなかった。
「ギギャ!」
あるゴブリンが奇声を上げてライに襲い掛かった。
しかし、ライは剣を抜いてはいなかった。刃が眼前に迫る。
「ライト・アロー!」
飛来した光の矢が、ゴブリンを弾き飛ばした。
「ライ、下がってろ!ライト・アロー!」
再び放たれた光の矢が、別のゴブリンを打ち倒す。
その一撃で、残っていたゴブリンたちは逃げ出してしまった。
「ライ、一体どうしたんだ?」
クルクがライに駆け寄る。ライは自分の掌を見つめていた。
「・・・魔法が打てなくなってる・・・。」
ライはしばらく掌を見つめていたが、やがてその手を握り締めた。
「早く村へ戻ろう。雷のエレメントについて、詳しく父さんに聞く。」