あたりを夜闇が支配している。
ここは山間の小さな村。村の数箇所から火の手が上がっている。
この村は今、野盗の群れに襲われているのだ。
「た、助け・・・ぎゃあああっ!」
「ひっひっひ、誰が助けてやるもんかよ。」
また一人、罪のない村人が命を落とした。
この野盗たちは、金品の強奪はもちろんだが、殺しの感触を味わっているようにも見える。
「逃げろ、逃げろ。無駄に逃げて殺されろ!」
残酷な言葉を投げかけながら嘲う男がいた。この野盗の長らしき人物である。
「おっと、金目のものは置いてけよ!殺されるのはそれからだからな!」
あまりに不条理な言葉だが、それでも村人たちは逃げるしかなかった。
「うわっ!」
一人の少年が、躓いて転んだ。
・・・これは、野盗に殺してくれといっているようなものだ。
「へっへ・・・坊主、残念だったな。てめえは金を持ってねぇだろうから・・・死にな。」
野盗の一人が、笑いながら剣を振りかざす。
血と油で刃は汚れている。だが、子供一人殺すには十分だった。
その少年は、恐ろしさのあまり声も出せず、その場に立ち尽くすしかなかった。
剣が振り下ろされる―――。
少年が目を開けたとき、見たものは・・・
地面に落ちている、自らの頭上に落ちてくるはずだった剣。
その剣で、自分を殺そうとしていた野盗。
そして・・・その野盗を地べたに這わせた、銀髪の剣士。
「・・・怪我はないかい?」
その剣士が、少年に優しい声で話し掛けた。
「う、うん・・・。」
「よし、それじゃあ早く逃げるんだ。他の奴に見つかる前に・・・。」
剣士のその言葉を受け、少年は走り出した。
「な、なんだてめぇ!」
「この村のものじゃねぇな!」
早くも、野盗の仲間たちが集まってくる。
あっという間に、剣士の周りを取り囲んだ。
「てめぇ、仲間をやりやがったな!」
「この人数相手だ。いたぶって殺してやるよ!」
口々に野盗が叫ぶ。
銀髪の剣士・・・ライは、いかにもわざとらしく溜息をついた。お前らなど相手じゃない、というように。
そして、口の中で何かを呟き始めた。
「余裕かましてられるのも今のうちだ!殺っちまえ!」
一斉に野盗たちが襲い掛かる。
このとき、ライは魔法の詠唱を完成させた。
「・・・ブレード・サークル!」
ライの周りに、魔力でできた円形の刃が形成される。
野盗の武器は、ことごとくその刃によって阻まれた。
それどころか、その武器の方が真っ二つになっているものもある。
「てめぇ!魔法なんて使いやがって・・・!」
「・・・この世界で魔力がない人物は存在しない。だが、魔法を覚えようとしない人物は結構いるらしいな・・・。」
野盗の言葉に、皮肉めいた言葉を返すライ。
おもむろに、野盗の一人に近づく。
「こ、このやろ・・・」
「・・・これに懲りて、もうちょっとまっとうな仕事につくんだ・・・なっ!」
剣の柄のところで野盗を殴りつける。
その野盗は、白目をむいて倒れた。
「おまえらはどうする。今逃げれば、痛い思いはしなくてすむぞ。」
ライが他の野盗たちに宣告する。
だが、そのうちの一人が唐突に笑い出した。
「ひっひっひっ・・・そんなことを言う余裕はあるのか?フレイム・ショット!」
いつの間に唱えていたのか、その野盗は炎のつぶてを撃ち出した。
・・・ただしその数、たったの2発。
「・・・。」
ライは、無言で剣の腹を前に翳した。
つぶての1発は剣によって阻まれ、もう1発はライの横を通り過ぎていった。
「・・・そっちこそ、悠々と魔法を使う暇があると思うのか?」
「な、何を・・・。」
野盗が、ライに何か言い返そうとした。
ドム。
その野盗の背中に、光の矢がぶつかった。
前のめりになって倒れる野盗。気絶した。
「・・・解ったか?僕は1人でここに来たわけじゃない。仲間がいるんだ。お前達と同じようにね。」
その言葉に、その場にいた野盗たちはヒィと情けない声を上げて逃げ去った。
「・・・さて。コウ、そっちは?」
「フィーナが戦っている。クルクとシフリアには、村人の避難にあたってもらった。」
「よし、加勢に向かおう・・・こいつら、殺してないよね?」
「元々威力が高くない魔法だ。大丈夫だろう。」
ライとコウは、村の別の一角へ走り出した。
「さて、後はあなただけだよ。降参する?」
フィーナが、野盗の長らしき人物に言う。
彼女の周りには、気絶した野盗が何人も倒れ伏している。
「・・・フッ。私は人間などには屈せぬ!」
長はそう言い放つと、急に姿を変えた。
「フィーナ!こいつは・・・!?」
ここで、ライたちが到着した。
「長らしき人物を追い詰めたんだけど、いきなり姿変えちゃって・・・。」
振り向かずに語るフィーナ。
今や、長は人間とは呼べない、アンデッドに姿を変えていた。
「リッチ!・・・なるほど、野盗にぴったりだ・・・。」
リッチ・・・俗に言う、「金の亡者」である。
金に異常なまでの執着を持ち、死してなお金を求めつづける存在だ。
アンデッドにしては知力が高く、魔法や人間の言葉も使う。
「・・・俺がやる。アンデッド相手ならそれが最適だ。」
コウが1歩前へ出た。
確かに、アンデッドは光魔法を嫌う。
「・・・解った。じゃあ僕とフィーナは消火作業に当たる。」
「コウ、気をつけてね。」
そう言い残すと、2人はコウをその場に残して走り去った。
「・・・ひゃひゃひゃ。そんな余裕をかましてもいいのか?」
「お前ごときに、あいつらの手を煩わせる必要はない。それだけだ。」
コウは、腰からレイピアを引き抜きながら言った。
リッチは、自らの腕から自らの骨を突き出させた。先端は鋭く尖っていて、人間の身体など簡単に貫けそうだ。
一瞬の間。
コウとリッチが飛び出したのは、ほぼ同時だった。
お互いの位置が入れ替わる。双方とも、外傷はない。
「・・・ライト・アロー!」
間髪入れずに、コウが光の矢を放つ。
「エビル・シュート。」
リッチも黒い球体を放つが、光の矢と相殺された。
「人間のくせに生意気な。これで死ね!・・・ブラッディ・ゲイル!」
リッチが連続で魔法を放つ。妖しい瘴気の波動が、コウ目掛けて飛んでゆく。
「!・・・ホワイト・ロザリオ!」
コウは素早く魔法を詠唱し、白い十字架を作り出した。
十字架により波動が止まる。だが、いつまでもつかコウは自信がなかった。
「ひゃっひゃははは・・・終わりだな・・・!」
リッチが嘲笑する。だが、コウは十字架の影で新たに魔法を詠唱していた。
「・・・さっきの言葉、そのまま返す。
そんな余裕をかましていいのか・・・?フラッシング・ランサー!」
コウの手から、一条の光が迸った。
その聖なる光は、十字架を、瘴気の波動を、そしてリッチさえも貫通する。
「・・・が・・・グガ・・・。」
「・・・よし、これを最後の一撃にしてやる。死の国へ還るんだな・・・。」
コウは、レイピアを構えてリッチに突撃する。レイピアに、七色の光が見える。
既に、リッチに魔法を詠唱する力は残ってない。尖った骨を、目の前に持ってくるのが精一杯だった。
「・・・プリズムスラスト!」
コウが七色に光るレイピアを突き立てる。
その一撃は、骨もろともリッチの頭部を貫通した。そして、光の魔力がリッチの身体を塵に変える。
「ふう・・・。」
「おーい、だいじょうぶかー!」
その声にコウが振り向くと、村のすぐ入り口にクルクとシフリアが村人を連れて来ているのが見えた。
村の火もほとんど消えている。ライとフィーナもこっちに向かってきた。
いつの間にか、夜は明けようとしていた。