野盗の襲撃から一夜明けて。
ライたちは、村の酒場兼宿屋にいた。
「で、ライ。これからどうするんだ?」
コウがライに訊ねる。
「そりゃもちろん、行き先は決まってるさ。」
「『果て』、ですか?」
ライの言葉を察したかのようにシフリアが言う。
「そう。果てにいるらしいからね、『共存派』のエレメントは。」
ライたちは今、『共存派』のエレメントとコンタクトを取るべく、『果て』と呼ばれる所を目指していた。
「でも、そう簡単に姿をあらわすものなの?絶対そんなことないと思うんだけど。」
フィーナが口を挟む。
「まぁその辺は、行ってみないとどうとも言えないだろ。」
「それはそうだけど。」
「ここが、『果て』か・・・?」
クルクが呟く。
ライたちの前に広がっているもの、それは『虚無』・・・というよりは、『黒い海』であった。
「エレメント・・・何処に行けば会えるんだ・・・?」
ふらりとライが歩き出したその時だった。
「・・・何!?」「ラ・・・ライさん!?」
「ど、どういうことだよ・・・。」「・・・消えた・・・!?」
そう。ライの姿が突然消え失せたのだ。
「・・・あれっ・・・ここは・・・。」
ライが周りを見渡すと、そこには何もなかった。
あったのはただ一つ・・・『黒』。
―――『雷』を宿らせし者よ。ついに『果て』へやってきたのですね―――
ライの背後から声がする。
「誰だ・・・?」
―――私に名などありません。強いて人間が使う言葉を借りるなら・・・「エレメント」―――
ライは耳を疑った。
エレメントそのものが、姿が見えないとはいえ、自分と話しているのだ。
「・・・エレメント。あなたは何を司っているエレメントなんだ?」
―――・・・愚問ですね・・・。私は全てを統括する存在。
あなた達人間が言う6元素とは、全て私の力を借りたものに過ぎません―――
「・・・それじゃ、父さんが話していた『共存派』と『消去派』の話は・・・誤り・・・?」
―――あなたの父が何を知るかは知りませんが、
少なくとも私は『雷』・・・イレギュラーは消えるべきと考えています―――
その言葉を紡いだ瞬間、今まで見えなかったエレメントの姿がうっすらと浮かび上がってきた。
それと同時に、凄まじい魔力波がライを襲った。
「くっ・・・!エレメントが一つであったとはいえ、それは『消去派』のほうだったというわけか・・・!」
ライはどうにか耐え凌いだ。
そこでライが見たエレメントの姿は、まるで女神と見間違うような神々しさを持つ女性の姿だった。
「やはり、決着はつけなければならない、ということなのか・・・?エレメントよ・・・。」
―――宿命です。決して変えることのできない・・・―――
「・・・ん・・・?」
突如として消えたライを探していたコウが、何かの違和感を感じた。
「コウ、どうした?」
「魔力が・・・歪んでる・・・?」
クルクの声など聞こえなかったかのように、コウは考え込む。
「コウ?おい、何考えてるんだ?」
「・・・クルク、フィーナとシフリアを呼んで来い。手掛かりが見つかった・・・。」
コウに言われるがままに、クルクは走り出した。
程なくして、コウがフィーナたちを連れて戻ってきた。
「コウ、手掛かりって・・・?」
「感じないか?さっきから、この辺の魔力がひどく歪んでることに。」
コウが問い掛ける。
フィーナとクルクは全く気付かず、シフリアも違和感を覚えただけだという。
「ここまで魔力が歪んでいると、魔法で簡単に空間が裂けてしまう。
ライももしかすると、他空間に引き込まれたのかもしれない・・・エレメントに。」
「そんな・・・でも、魔法で空間が簡単に裂けるなら・・・。」
シフリアの言葉に、コウが大きく頷く。
「そう、俺たちも運がよければライがいる他空間にいけるはずだ・・・少し下がってろ。これから、空間を裂く・・・。」
「コウ、大丈夫なの?」
「案ずるな・・・。」
そう言うと、コウは静かに魔法の詠唱を始めた。
フィーナたちは、固唾を飲んで見守っている。
そして、魔法が完成した・・・。
「・・・マジック・ブレード!」
コウが手を横に大きく一振りすると、そこから魔力・・・エレメントの力によらない魔力の刃が撃ち出された。
その刃は耳障りな音を立てながら見事に空間を断ち切った。
「やった!?」
「ああ。一度裂けてしまえば後は魔力干渉で・・・!」
コウがさらに魔力を送り込む。すると、空間の裂け目はさらに大きくなった。
「ここにライが・・・いるかどうか解らんが・・・行ってみるか。」
コウの言葉に、3人は大きく頷いた。
「・・・ボルテック・ジャベリン!」
大きく開かれたライの掌から稲妻の槍が撃ち出される。
しかし、エレメントの魔力壁に阻まれるばかりだった。
―――あきらめなさい・・・。あなたを縛り付けるその『雷』の力、私が封じてあげます―――
そうエレメントの声が響くと、ライへ再び魔力波が押し寄せてきた。しかも、先程とは比べ物にならない威力。
「くっ・・・こんな魔力波、どうかわせっていうんだ・・・!」
それでも、自らの魔力を収束させて魔力波にぶつける。しかし、勢いがあまり衰えない。
「ライト・アロー!」
聞きなれた声。同時に、魔力の刃がエレメントの放った魔力波のエネルギーを少し殺ぐ。
「・・・っ!」
ライはその機を逃さず、魔力を上手く流した。
「コウ・・・どうしてここに!?」
「俺だけじゃない・・・。」
そう言うと、コウは後ろを親指で指す。
そこにはフィーナ、クルク、シフリアの3人もいた。
―――あなたたち・・・空間を裂いて・・・ここまで―――
「この声は・・・!?」
「・・・エレメント、だよ。そこにいる・・・。」
ライの言葉に、4人が一点を凝視する。
そこにいるのは、変わらぬ神々しさを持つ女性。
「あいつが、『消去派』のエレメントか・・・?」
「厳密に言えば違う・・・だが、それが何かを説明する時間はない!」
「まるで、女神のような存在なのに・・・。」
「でも、それは見た目だけかもしれないんだよ?」
「どちらにしても『敵』だ。戦うしかあるまい・・・。」
ライたちが戦闘体勢になる。
エレメントは何をするわけでもなく、その様子を見つめている。
―――人間が、私に牙を剥く、というのですね・・・。
仕方ありません・・・。あなたたちを縛り付けている力から、開放します―――
エレメントは、静かにそう言った。
その言葉に込められた悲しみと憂いを感じることができた人物は誰もいなかった。