「戦いの前に、いくつか聞きたいことがある・・・。」
コウが、エレメントに向かって話し掛けた。
―――私が答えられる質問でしたら、どうぞ・・・―――
「ならば聞こう。エレメントよ、お前は人・・・いや、生きるものに宿ったエレメントを喰ったことがあるか?」
淡々とした口調で、コウが問い掛ける。
―――なぜ、そのようなことを聞くのです―――
「・・・俺とライとフィーナは、エレメントが人間のエレメントを吸収する所を見たことがある。
それはお前がやったのか否か・・・それを知りたいだけだ。」
少し間があいた後、エレメントは答え始めた。
―――その人間は禁呪を使ったのですね。しかも、2度。
あなたたちがそのとき見たのは、おそらくその人間のエレメントでしょう―――
「待って。それじゃあ、どうして姉さんは普通に死ぬことになったの?」
―――それは、禁呪を飽和させる魔力とあなたの姉の魔力が等しくなったからです。
禁呪を飽和させる魔力よりも詠唱者の魔力が格段に低かった場合は、発動すらしません。
ですが、これらの魔力が極端に近い、しかし詠唱者の魔力の方が低かった場合にこの現象が起こるのです―――
「・・・ならば、お前はシェリルの・・・その人間の死に直接干渉しているわけではないのだな?」
―――私は、好んで生あるものを殺したりしません―――
幾分、エレメントの声に怒りが混じる。
「・・・それだけ聞ければ十分だ・・・。」
「・・・私からも、いいですか?」
シフリアが言う。
―――どうぞ・・・―――
「私の父さんは、エレメントに操られていました。あなたがやったのか、それをまず教えてください。」
また少し、沈黙が流れた。
―――それは、頭巾をかぶった人間のことですね。それは確かに、私がやったことです―――
「何故そのようなことをしたのですか?「雷使いを殺せ」、それだけならあなたの目的を考えれば解ります。
ですが、「エレメントを呼び出せ」、「生贄を捧げろ」・・・何故、このようなことを父さんにさせたのですか!?」
―――私は、そんなことするようにした覚えはない!―――
突如として、エレメントは声を荒げた。
シフリアは、その唐突さに呆気に取られている。
―――私は・・・『雷』を消し去るためだけに人間を操った・・・。そんなこと、やりたくなかったのに・・・―――
今度は、この声からの憂い、そして後悔をはっきりとライたちは聞き取った。
「・・・エレメント・・・?」
シフリアが、怪訝な声をかける。
―――もう、聞くことはないようですね・・・―――
「・・・!」
そのエレメントの声に、構えを解きかけていたライたちは再び武器を構える。
「・・・みんな、武器に魔法を。魔技の集中攻撃で一気に仕留めよう。」
ライの声に、全員が頷く。一斉に思い思いの魔法を唱え始めた。
―――魔技、ですか・・・―――
エレメントは、止めようともせずに見ている。ただし、その手には魔力が集中していた。
「行くぞ!」
魔力の増幅を終えたクルクが走り始めた。ライたちも、その後ろについて走り出す。
―――やってみるといいでしょう。それが無駄だということがわかります―――
「黙れ!カオスグレネードっ!」
クルクが放った拳から、巨大な闇が生まれた。『闇』といっても、それはエレメントによる闇ではない。魔力の闇である。
―――これで、終わりですか?―――
「そんな訳ないでしょ!テラサイクロン!」
クルクに続いて魔技を放ったのはフィーナ。魔力の竜巻が、容赦なくエレメントに打ち付けられる。
―――・・・どうしましたか?まだ、続くのでしょう・・・―――
「次は私です!父さんの痛み、受けなさい!シューティング!」
シフリアが杖を頭上で回すと、まるで流星群のような魔力の弾丸がエレメントに降り注いだ。
―――くっ・・・―――
流石に魔技3連発は効いたらしく、エレメントが少し怯んだ。
「ライさん、コウさん、今です!」
シフリアが、後ろにいる2人に声をかける。
「よし!行くぞ、コウ!」
「ああ・・・!」
2人は、同時に走り出した。そして、魔技を放つタイミングもほとんど同時だった。
「エナジースマッシュ!」「プリズムスラスト!」
剣とレイピア、2つの武器がエレメントに襲い掛かる。
―――・・・止めなさい。無駄なのですから―――
エレメントはそう言うと、静かに魔力を込めた掌をライたちに向けた。
そこから放たれたのは、凄まじい衝撃波。ライとコウは、悲鳴を上げる間も無く弾き飛ばされた。
「ライ!コウ!」
―――ここまでの力を身につけたのは立派です。敬意を表して、私も魔技を披露しましょう―――
エレメントはそう言うと、いくつかの球体を飛ばし始めた。その数、6個。
どうにか立ち上がったライたちは魔技を止めようとするが、自らの魔技に全魔力を注いだために、動くこともままならない。
―――・・・エレメンタルブレイク!―――
エレメントがパチンと指を鳴らすと同時に、6つの球体から凄まじい魔力の奔流が現れた。
ライたちは回避できるはずもなく、その魔力に押し流され、吹き飛ばされた。
「・・・・・・。」
流れがおさまったとき、意識を保っているのはライ1人だった。
だが、近くに寄ってくるエレメントの姿を見上げることすら出来ない状態である。
エレメントはある程度の距離を残して止まると、再びその手に魔力を集中させた。
「・・・ここまで・・・か・・・。」
エレメントが止めを刺そうとする雰囲気にあるのを感じ取りながら、ライの意識は闇へと消えた。
「・・・う・・・。」
ライに、意識が戻った。
ずいぶんと気絶していたせいか、ある程度の体力、魔力は回復していた。
「どうして生きてるんだ・・・。エレメントは、どこに・・・。」
あたりを見渡しながら、呟く。ライ以外の4人は、まだ意識が戻らない。
しばらく見ているうちに、ライは何かの声を聞いたような気がした。
「・・・泣き声・・・?」
ライが声のした方向を見ると、そこには泣き崩れている女性の姿があった。
「・・・エレメント・・・?」
―――う・・・あ・・・う・・・―――
泣き崩れているエレメントには、神々しさの欠片もなかった。
「・・・何故、僕らを殺さなかった?・・・何故、泣いているんだ・・・?」
―――・・・う・・・―――
少し間を置いてから、エレメントはか細い声で喋り始めた。
―――出来るわけ・・・ない・・・―――
「・・・答えになってない・・・何故なんだ?」
―――人間を・・・いえ、愛しい私の子供たちを殺すことなんて、出来るわけない・・・!―――
「子供たち・・・?」
―――・・・知っていますか?この世界を作ったのは私だということを・・・―――
「ああ・・・。エレメントによる、世界創造の話だな・・・。この世界に生きるものなら誰でも知っているはずだ。」
―――私は、ずっと見守ってきました。この世界の、生命の行く末を・・・―――
ライは話すのを止め、エレメントが話し出すのをひたすら待つことにした。
―――自ら作った世界、生命。それを壊すことなど、どうして出来ますか―――
―――私は、この世界のいわば「母親」です・・・―――
―――どこに、自らの子供を殺せる母親がいますか!?―――
―――・・・あなただって・・・本当は私の子供なのに・・・。『雷』のエレメントが、あなたに宿ってしまった―――
―――『雷』は、これまでは人に宿る前に消滅させることが出来た―――
―――でも、今は・・・。あなたに宿ってしまった・・・!―――
そこで、エレメントの言葉は途切れてしまった。代わりに、黙っていたライが口を開いた。
「何故、『雷』のエレメントを消滅しているんだ?」
―――・・・『雷』は、私の子供たちに仇をなすかもしれない。私は・・・自らの子供を守りたかっただけです―――
「・・・どのくらいの時間そう考えてきたかは解らない。だけど、僕はその考えは否定する。」
―――えっ・・・?―――
「僕は、『雷』のエレメントを持っている。だが、僕はこの力を持っている以上、上手く付き合っていくつもりだ。
それに、確かにこの力は人をあっけなく殺してしまう。だが、全ては使う側の人間によるはずだ。」
―――ですが、あなたはその力で人間を殺しているでしょう。やはり仇をなす力ではないのですか―――
「確かにあなたの言うとおりだ。でも今言ったばかりだろう、使う側によるって。こればっかりはあなたがどうしようと、無駄なんだ。」
エレメントは言い返せない。ライはさらに言葉を続けた。
「それに、僕はこの力を持っているとはいえ、好んで人を殺そうとはしない。
それをあなたは、必然的に『雷』の力を使わせるよう仕組んだんじゃないのか?」
言いながら、ライは心の中で思った。自分は、卑怯者だと。
―――・・・私は、今までこの世界、生命を見守っていました。そしてこれからも見守るであろうと思っていました・・・―――
―――でも・・・それはもう、必要ないようですね・・・―――
―――そう思える、あなたのような存在があるのですから・・・―――
―――私に・・・存在意義がなくなりましたね・・・―――
そう言うが早いが、エレメントは先程の球体を6つ、自らの周りに舞わせた。
「・・・何する気だ!?」
ライが言うのを尻目に、エレメントは自嘲めいた笑みを浮かべながら指を鳴らした。
魔力の奔流が、今度はエレメント自身を飲み込んだ。
―――まだ・・・消滅できないようですね・・・―――
「何考えているんだ!」
―――はじめに言ったでしょう・・・?あなたたちを縛り付けている力から、解放すると―――
エレメントの体が、おぼろげになってきている。放っておけば、自然に消滅してしまうだろう。
―――いい機会です・・・。私に雷を打ち込んでください・・・―――
「・・・!」
―――私は、その雷を浴びて、消滅するでしょう・・・私を、消滅させてください・・・―――
ライは、目を瞑って考えた。エレメントを消滅させない方法を。
心当たりはあるのだが、成功率は天文学的数字となるだろう。
「それでも・・・それしか思いつかないなら、やるしかないか・・・。」
そう呟くと、ライは剣を抜いた。
「・・・解った。望み通り雷を放とう。だが・・・。」
―――・・・だが・・・?―――
「エレメント、あなたを消滅などさせはしない・・・。」
―――何を言っているのです・・・出来もしないのに―――
「それはやってみなければ解らないだろう。・・・あなたはこの世界の母親だと言った。」
―――それが、どうかしたのですか・・・?私に、母親を名乗る資格などないのに・・・―――
「資格なんて関係ない。母親を名乗った以上、最後まで見守るのが筋ってものだ。それに・・・。」
―――・・・それに?―――
「母親を殺せるような子供も、いるわけがないんだ!」
ライはそう叫ぶと、ありったけの魔力で作り出した雷撃を剣に宿らせた。
―――あなたが何を考えているのかは解りません・・・。でも、好きなようにやりなさい・・・―――
エレメントはそう呟くと、静かに目を閉じた。
程なくして、剣に宿った雷撃は更にその力を増した。
「・・・『雷』よ。お前にその力があるのなら、エレメントの力となれ!」
ライの剣が大きく横に薙がれる―――
「ライトニングレイ!」
『雷』が、エレメントを飲み込んだ。