第10話「混乱」


街が、パニックになっている。
放たれたモンスターたちは、別に被害を与えているわけではない。
ただ、その存在自体が、人間にとっては脅威であった。

・・・一部を除いては。





「どうする?流駆・・・。」
「どうするったって・・・(汗)」

話しているのは、流駆と炎。
炎は、流駆がモンスターを見つけたのと同時に流駆の部屋にやってきていた。

「炎君、家に戻ったほうがいいんじゃないの!?親御さん心配してるんじゃ・・・。」
「大丈夫ッスよ。ここにいるの知ってるはずだし。」

流駆の母親の問いに、炎が答える。確かに、戻ろうと思えば10秒かからずに戻れる距離だ。


ピンポーン


呼び鈴が鳴った。

「こんな時に、誰ですか・・・って、楓ちゃん!?」
「夜中にすいません。流駆、いますか?」

さらりと言う楓。
その後ろには、麻耶もいた。

「ちょ、ちょっと待ってて・・・流駆!楓ちゃんだよ!」
「楓?こっちに入れてやって!」

部屋から流駆が叫ぶ。

「こんな緊急時に・・・ったく。流駆の部屋はわかるよね?今、炎君も来てるから。」
「はい、お邪魔します。」

ここで初めて、母親の視界に麻耶が映った。

「あら?その娘は・・・?」
「・・・渚 麻耶といいます。今日転校してきて、楓さんのクラスになったんです。」
「麻耶さん、早く。おばさん、世間話は後にして下さい。」
「・・・あ、ごめんなさいね。」













「・・・で、流駆。あの人からメールが来たって言うのは本当なの?」

楓が問う。流駆は、無言でパソコンを指差した。
メールの受信トレイの画面が移っている。

「本当・・・のようね。」
「そんなんより、この現状をどうするか。そのために来たんだろ?」

炎が言う。

「そうねぇ・・・とりあえずは、無視しましょう。」

白い沈黙が流れる。

「・・・い、いいんですか・・・?」

辛うじて、麻耶が声を出した。
炎は楓が何を言っているのか判らず、流駆は額を押さえていた。滅入っている表情だ。

「まだ被害は出てないわけでしょう?ナレーションさん。」

確かにそう言ったが・・・私に話し掛けるなよ・・・。

「だれに話してんだよ。」
「気にしないで。とにかく、何かあったら行動を始める。それでいいんじゃない?」

身も蓋もないといえばない発言である。
もはや、3人に何か言う気は起こらなかった。いや、起こせなかった。

「それでいいわね?じゃあ夜も遅いし、私は帰るわよ。」

そう言って、楓はさっさと帰ってしまった。

「じゃあ、私も帰りますね・・・何かあったら連絡してください。」
「あ、夜道だし、送ろうか?」
「いえ、歩いて一分かからないので・・・すいません。」

炎の言葉にさらりと答えると、麻耶も家路についた。

「・・・さて、炎。お前もさすがに帰ったほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。じゃ、また明日。」

炎も、家を出た。

「・・・ねえ流駆兄ちゃん。何の話してたの?」

居間に追いやられていた翔也(流駆の弟。忘れてるでしょう)が話し掛ける。
母親も同じようなことを聞いてきた。

「・・・とりとめもなければ身も蓋もない話。そんな話を夜中にしてたよ・・・。」

流駆はそう答えると、そのまま部屋に戻り、ベッドに倒れこんだ。













翌朝。

「・・・眠いな・・・。」

流駆がぼやきながら起きてくる。
昨夜は、街中がパニック状態だったためによく眠れなかったらしい。

「これじゃ授業中炎になっちまう・・・。」

寝てしまう、ということだ。
そうぼやいたとき、電話が鳴った。

「・・・はい、聖ですが・・・。」
「草薙ですけど、流駆君は・・・って流駆ね。」

電話をかけてきたのは、楓だった。

「楓か・・・。朝から何?」
「連絡網。今日は学校休み。昨日の怪物を用心してだそうよ。」
「・・・ん、わかった。じゃ回しとくな・・・。」

そう言って、流駆は電話を切った。

「そういや、外はどうなってるんだ?」

電話をかける前に、流駆は窓の外を覗いてみた。
空にモンスターが舞っている以外には平穏な朝である。

「・・・ま、これじゃ休みにもなるな・・・。さて、連絡網っと・・・。」

流駆は一通りの連絡を済ませると、再び寝る体勢に入った。
因みに、翔也もまだ寝ている。母親までもが寝ていた(爆)








「・・・ん・・・今何時だ・・・?」

目覚めた流駆が枕もとにある目覚し時計を見る。
時計は、正午を指していた。

「流石に起きようかな・・・っと。」

起き上がり、大きく伸びをしたその時。




ドオォォォ・・・・・ン



と、大きく揺れた。

「だぁっ、地震か!?」

しかし、揺れはすぐに収まった。
特に、倒れたり落ちてきたりしている物もない。

「何だよ今のは・・・!」

流駆はそこで絶句した。
窓の外にいる、おそらくは大型のモンスターと目が合ってしまったのだ。

「ったく、ついに人間に被害を与えるようになったのかよ・・・。」

流駆はデックを掴むと、急いでアパートの外に出た。

「お、流駆!」
「来たわね。あれが相手よ。」

炎と楓が、一足先に来ていた。
流駆はモンスターの姿を見ると、唖然としてしまった。

「『バハムート』・・・!?また大物が出てきたな・・・。」

バハムートは風属性のドラゴンで、レベル8、8/5。
その能力『爆撃のブレス』はモンスター一体を簡単に葬り去る。

「はっはっは!お前らが噂の召喚術師か?」
「!?」

その声に3人が振り向くと、そこには見慣れない人物が立っていた。

「流駆、知り合いか?」
「まさか。」
「もちろん私も知らないわよ。」

ひそひそ話をする3人。

「俺は・・・そうだな、ダークネスの刺客とだけ言っておいてやるよ。」
「ダークネス!じゃあ街にカードをばらまいたのは・・・。」
「そう、俺。正確には俺たち、だけど。まだ刺客はたくさんいるからな。」

流駆が語っていると、炎が痺れを切らしたように言った。

「話は後、後!さっさと勝負するぞ!」
「わかりやすい奴だな。じゃあいくぞ!もう2体現れろ『バハムート』!」

刺客が、2枚のカードを掲げる。雄々しき竜が、3体となった。

「よっしゃいくぞ二人とも!来い、『ファイア・ドラゴン』!」
「へーへー。『ペルソナ』!」
「わかってるわよ。『スノードロップ』!」

3人はそれぞれ赤竜、精霊、妖精を呼び出した。
イニシアチブは・・・・流駆たちの先手だ。

「いくぜ!『灼熱のブレス』!」

炎の声が攻撃の先陣を切った。
ファイア・ドラゴンは、炎のブレスで自らの防御力分のダメージを相手パーティの全モンスターに与えられる。
何もなければダメージは5点。バハムートたちは全滅する。

「馬鹿め。『爆撃のブレス』!」

刺客は、対抗でバハムートにブレスを吐かせた。
決まれば、ファイア・ドラゴンはやられる。

「それは『サンド・カーテン』。」

流駆が、静かにスペルを放つ。
現れた砂のカーテンによって、爆撃のブレスは阻まれた。

「なら、もう一発!」

別のバハムートが、同じブレスを吐く。既に、砂のカーテンは消滅している。

「じゃあ、こっちももう一度『サンド・カーテン』。」

先程と同じ結果となった。

「この野郎・・・。だが、もうスペルワークが尽きただろう!三度目の正直だ!」

また、最後の1体がブレスを放つ。確かに、ペルソナのスペルワークは尽きているが。

「『ウィンド・カッター』。」

当然、放ったのは楓のスノードロップ。
真空の刃が、最後にブレスを放ったバハムートを切り裂いた。

「対抗合戦は終わりよね。勝負も・・・。」

楓が冷たく言い放つのと同時に、残っていたバハムート2体が炎に包まれる。
ファイア・ドラゴンの灼熱のブレスの炎だ。

「そ、そんな馬鹿な・・・。」
「お前みたいな奴をな、馬鹿の一つ覚えって言うんだよ。もう少しましな奴はいないのか?」

流駆もまた、冷たく言い放つ。

「畜生・・・覚えてやがれ!」
「あ、待て!」

逃げ出す刺客とそれを追う炎。

「流駆、ついていかなくていいの?」
「ほっとけ。1人来たんなら、これから何人も来るよ。多分な。」

その流駆の言葉は間違いではなかった。
だが、彼らがそれに気付くのはもっと後のことである。




空に、モンスターが舞っている。
この風景も、後には当たり前のようになる・・・。


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