第12話「間一髪」


「悪いな、『太陽を睨む天使』。こんなことで呼び出して。」
『気にするな、流駆。仮にも私の主人なのだからな。』

流駆は、太陽を睨む天使に捕まって降りてきていた。

「よし、到着。サンキュな。」
『ならば、私はカードに戻らせてもらうぞ。必要なときにまた呼べ。』

天使はそう言うと、カードに戻った。カードが宙を舞い、流駆のデックに滑り込む。

「さて。炎は無事かな・・・?」

そう呟いてビルに向かおうとしたとき、流駆は何か違和感を覚えた。あまりにも、「静か」過ぎるのだ。

「炎のやつ、まさか全員倒したとか・・・?でなきゃ、あいつも捕まったか・・・?」

そう言いつつも、流駆はビルの中に入る。
ビルの中にはあちこち焼け焦げた後がある。おそらく、炎の仕業だ。

「派手にやったみたいだな・・・。しかも、炎はいないときたもんだ・・・。」

そう、やはりそこに炎の姿はなかった。ここで流駆は思案する。

1:敵に捕まってしまった。
2:敵を殲滅したので、廃ビルの中へと入った。
3:敵を殲滅したので先に帰った。

迷わず流駆は2を選択した。
炎の性格上、乗り込まないわけがないと悟ったからだ。

「ったく・・・世話の焼ける・・・。」

そう言いつつも、流駆は廃ビルの奥へと入っていった。














一方その頃、楓と麻耶はある部屋の前へたどり着いていた。
ビルの一番奥の廊下の一番奥の突き当たりにある、あからさまに怪しい部屋である。

「・・・怪しいわね。ここ、入ってみましょ。」
「はい・・・。でも、大丈夫でしょうか・・・。」

ぎぃ、と音を立てて扉を開く楓。
そこには、見慣れた人物が一人いた。

「あら。抜け出して逃げたかと思ったわ。それともそれは、余裕の散歩?」
「あなた、ダークネスの刺客・・・!」

楓と麻耶をさらった張本人である。

「デックを返してくれたら大人しく立ち去ります。お願いです、返してください!」
「お笑い種ね。
私の・・・ダークネスの目的はあなたたちじゃなくて、あなたたちのデック。そう簡単に返せるわけないでしょ。」


「なら、力ずくで返してもらうわ。召喚、『スカイ・ワイバーン』!」

楓がドラゴンを呼び出す。ただ、戦闘スペルがないためにその力は十分には発揮されない。
それに、ドラゴンの巨体には部屋もいささか狭い。

「そんなドラゴン怖くないわよ。行きなさい、『インキュバス』。」

刺客もモンスターを呼び出す。いわゆる『夢魔』という存在だ。
魔属性レベル2、2/1、アイテムワークを持っているが、
その目の前のインキュバスは既に『黄金の剣』をその手に持っている。

イニシアチブは、インキュバスのほうが高い。

「ひっひっひ・・・いくぜぇっ!」

下品な笑みを浮かべながら突撃するインキュバス。
『黄金の剣』は攻撃力を+3する。そのため、今のインキュバスはスカイ・ワイバーンを倒せる。

「『ブラウニーズ』、お願い!」
『はいはーい。』

ひょこりと、流駆が供につけた妖精が出てくる。
『ブラウニーズ』・・・色々なことを手伝ってくれる妖精だが、戦闘中にはモンスターの防御力を+2できる。
因みに地属性のレベル1、0/1である。

ブラウニ−ズの能力のおかげでスカイ・ワイバーンは無事である。

「ワイバーン、攻撃!」

スカイ・ワイバーンが一声挙げてインキュバスに襲い掛かろうとしたとき。



ズバッ!



唐突にスカイ・ワイバーンの体が真っ二つに切り裂かれた。
当然、カードに戻る。

「そんな・・・『ウィンド・カッター』なんて誰が!?」

狼狽する麻耶。
後ろから声が聞こえてきた。

『あらあら。私の存在に気付かないなんて・・・。まだまだ未熟ね。』
「その姿・・・『サキュバス』!」

楓が叫ぶ。

サキュバスは、いわばインキュバスの女性版である。
魔属性のレベル2、0/2でオールスペルを一つ持つ。

『よっこいしょ。このコ、結構重いわね・・・。』
「・・・!炎さん!」

麻耶が叫ぶ。
サキュバスが背負っていたものは、炎だった。

『このコ、このビルの人員みんな倒しちゃったみたいよ。
でも、私が後ろから誘惑したらころっといっちゃった。まだまだ子供ねぇ・・・。』

サキュバスは淡々と語っているが、刺客はかなり驚いている。当然、楓と麻耶も。

「・・・もう一度こちらの行動に移させてもらおうかしら。まずはサキュバス、そのブラウニーズを・・・。」
『解ったわ・・・。ブラウニーズね・・・。』

刺客の言葉を聞くと同時に、サキュバスは蠱惑的な瞳でブラウニーズを見つめた。

『・・・あ・・・あれ・・・?』
「ど、どうしたの?」
『あの目に・・・逆らえない・・・です・・・。』

サキュバスの特殊能力『快楽の夢』だ。
自らの防御力以下のレベルのモンスターなら、カードに戻してしまう。
レベル1のブラウニーズに耐えられるわけもなく、ブラウニーズもカードに戻ってしまった。

「インキュバス、後は任せるわ。」
『了解・・・ひっひっひ・・・。』

怪しい笑いを浮かべながら楓たちに迫るインキュバス。

インキュバスの特殊能力『至福の夢』はモンスター1体をレベル2にする技である。
だが、インキュバスの大半はモンスター相手でなく人間の女性相手にこの能力を使い、みだらな夢を見せている。

「・・・さすがはインキュバス、噂どおりの変態ね・・・。」
「冷静に見てる場合ですか!?私たち、どうなっちゃうんですか!?」

流石の麻耶も声を荒げる。楓も、顔を顰めた。

『ひぇっひぇっひぇ・・・諦めろ!』

インキュバスがさらに楓たちに迫ろうとした。





カッ





一瞬、閃光が走った。

『な・・・何・・・?』

インキュバスは消え入りそうな声でそう呟いたのを最後に、カードに戻った。

『残念だったな。インキュバスよ。』

そう言い放ったのは、鳥に乗った鎧姿の女戦士。『ワルキュリア魔神討伐隊』である。
聖属性レベル3、2/2、『聖』のスペルワークとアイテムワークを一つずつ持っている。

「・・・いた!やっと見つけた!」

その場にいたもの全員が、一斉に声のした方向を見る。

「流駆・・・。あなた、何でそんなところにいるの?」

楓がそう突っ込むのも無理はなかった。
何せ流駆がいたところは、通風ダクトの中だったのだ。

「お前な、俺がこのビルをどのくらい回ったと思ってるんだ?
道がわかんなくなって、何故か通風ダクトを通ることになって・・・。」

もう感付いている人もいるかもしれないが、流駆は方向音痴である。

「・・・炎まで捕まったのかよ・・・。俺だけじゃねぇか戦えるのはっ・・・と。」

ダクトから降りる流駆。見事に着地する。

「この状況じゃ・・・俺に任せろ、と言うしかないんだろうな・・・。」


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