第17話「5人目の召喚術師」
「・・・降りるか・・・それで、炎たちが見つけてくれることを祈ろう・・・。」
流駆が身をよじったその時。
バキャ。
「う、うわあ!」
ゴン。
枝が折れ、流駆は地面に叩きつけられた。・・・しかも、頭から。
すると、そこになにやら影が伸びてきた。
「・・・モ、モンスター・・・だめだ、気が、遠く・・・。」
流駆は、そのまま気を失ってしまった。
「おい!流駆!生きてるか!生きてたら返事しろ!」
ようやく地面に降りてきた炎が、大声を上げて流駆を探す。
「・・・この辺に落ちたはずなのに・・・。」
「流駆さん、聞こえたら返事してください!」
麻耶が叫ぶも、全く返事がない。
「やっぱり・・・死んじまったのか・・・?」
「縁起の悪いこと言わないでよ!・・・ちょっと2人共、これを見て。」
そう言って楓が指差した先は、不自然に折れた木の枝。
「どうして、あそこだけ枝が折れてると思う?」
「・・・何でだ?」
全く解らない、という表情の炎。
「・・・あ、ひょっとして・・・。」
「そう、流駆がこの枝に引っ掛かった、という可能性があるわ。それとこのちょっとした地面の窪みよ。」
楓が今度指差したのは、丁度流駆が落下した地点。
「多分、木に引っ掛かって一命は取り留めた・・・けど、また落ちた・・・って仮説、私は信じたいんだけど。」
楓が、鋭すぎる仮説を立てる。
「・・・でも、肝心の流駆さんがいません・・・。」
「・・・きっと生きてるわ。だから、探しましょ。」
「うっし、やる気出てきた!俺に任せろ!」
再び流駆探しを始める3人。その背後にモンスターが迫っていることに、まだ誰も気付いていなかった。
「・・・う・・・。」
流駆が、意識を取り戻した。
「・・・ここは・・・どこなんだ・・・?」
まだはっきりとしない視界。流駆は、自分が今ベッドに寝かされているということだけは解った。
『・・・あっ、気がついた!』
部屋の隅に座っていた少女が、ベッドに駆け寄る。
流駆はその少女に、微妙に心当たりがあった。
「あれ・・・?」
『待ってて、今ご主人様呼んで来るから!』
そう言い残して、少女が部屋を出て行こうとする。
「ちょ、ちょっと待て!・・・痛っ・・・。」
『ダメだよ、まだ動いちゃ。』
起き上がろうとした流駆だが、身体に激痛が走る。
部屋を出ようとした少女が、慌てて止めた。
「・・・なぁ、あんた、ひょっとして『タイガーリリー』じゃないのか・・・?」
『そうだよ。じゃあ、大人しくしててね。今度こそご主人様呼んで来るから。』
流駆の質問にあっさりと答えたタイガーリリー。
姿は女の子だが、れっきとしたモンコレのスピリット種である。
「・・・ひょっとして、ご主人様って・・・召喚術師か?」
そんなことを考えながら、流駆はベッドで静かに待つ。
すると程無くして、足音が聞こえてきた。そして、扉が開かれる。
「あぁ、ほんとに目が醒めてる!よかった、死んじゃってるかと思ったよ!」
タイガーリリーがご主人様と呼ぶ人物が、入ってくるなりそう叫んだ。
雰囲気はさっきのタイガーリリーと似ている。歳は流駆と同じくらいか。
「・・・ここは?」
「僕の家だよ。ここは客人用の寝室だからゆっくり出来るから。」
そのご主人様が簡単に言うのを聞いて始めて、流駆はこの部屋がホテル並みのきれいな部屋だということに気付いた。
「とにかく感謝するよ・・・。傷の手当てもしてくれたようだし・・・。」
「たいしたことじゃないよ。・・・あ、そう言えば自己紹介してなかったね。」
そこで一旦言葉を切る。
「僕の名前は、「神奈 樹(かんな いつき)」っていうんだ。樹でいいよ。・・・一応言っておくけど、僕は女だからね。」
「・・・聖 流駆。俺も流駆でいいけど・・・悪い、男か女かどっちか解らなかった・・・。」
頭を掻きながら言う流駆。
「いいけどね。僕も間違われることにはもう慣れたし。」
「・・・ところで唐突だけど、樹って・・・召喚術師?」
流駆が、前置きなしにいきなり核心をつく。
「うん、そうだけど・・・どうして召喚術師なんて言葉がすぐ出てくるの?」
「答えはこれ・・・。俺も、召喚術師なんだ。」
そう言いながら、懐からデックを取り出す流駆。
「へぇ!僕、自分以外の召喚術師に会ったのなんて初めてだよ!」
「・・・やっぱり、きっかけとかはあったのか?」
流駆が、更に訊ねる。
「それが・・・よくわかんないんだ。召喚は、なんだかいきなり出来るようになっちゃってて・・・。
一応人目につかないようにしたんだ。でも、最近は何かモンスターが蔓延りだして。
それで、あまり遠慮する必要がなくなったんだよね。」
「なるほど・・・俺らとはちょっと違うんだな・・・。」
「え?どゆこと?」
流駆の言葉に、今度は樹が興味を示す。
流駆は召喚術を使えるようになったきっかけなどを話した。
「かっこいい!世界を救うために旅をしてるってこと!?」
「そんな大層なことはしてない。・・・他の3人はともかく、俺は半分成り行きで旅してるからなぁ・・・(詠嘆)」
しみじみと言う流駆。
「でも、いいなぁ・・・旅だなんて・・・。・・・そうだ。僕もその旅についてってもいい?」
「・・・冗談だろ?」
楓の唐突な提案に、困惑を隠せない流駆。
「いいじゃん、楽しそうだしさ。それに・・・。」
『ご主人様!モンスターがまた出た!』
樹の言葉を遮って、先ほどのタイガーリリーが駆け込んできた。
「えぇ、また!?・・・しょうがないなぁ、もぉ!」
樹はワクワクした口調でそう言うと、テーブルの隅に置いてあったデックケースを掴んだ。
「ごめんね流駆。すぐに戻ってくるから。」
「・・・俺も行く。どうせさっきの公園だろ?」
立ち上がろうとして、苦痛に顔を歪める流駆。
「怪我人は寝てなさい。・・・じゃタイガーリリー、後は宜しくね。」
『ご主人様、行ってらっしゃーい。』
樹は、駆け足で部屋から出て行った。
「・・・大丈夫か?あんたのご主人は・・・。」
『心配ないよ。私たちが信頼してるんだから。』
「『ファイア・ジャイアント』、『フレイム・ストライク』!『ファイア・エレメンタル』は『フレアー』!」
一方こちら炎たちは・・・見て通りの状況になっていた。
「でも、何だっていきなりモンスターの群れに襲われなきゃならないのよ!」
「知るか!とにかく、まだ呼べるのは呼んどけ!」
「でも、さっきの戦闘でかなり消耗してるのに・・・!」
そう。この3人は魔物の群れに囲まれていたのだ。
しかも、近くに召喚術師がいない。つまり、ダークネスの刺客ではないこととなる。
更に、3人・・・特に楓と麻耶は幸喜との空中戦で、かなり消耗している。まだカード内のモンスターの傷が癒えていないためである。
「俺はほとんど消耗してなかったのに・・・もうカードが尽きそうだぜ!」
炎がわめく。しかし、諦めようとはしていない。
「私だって、スペル使いがほとんど戦闘不能なのに・・・!」
「それは私だって同じ・・・炎さん、後ろ!」
炎が麻耶の声に振り向くと、人型の牛―――『狂戦士ミノタウロス』が、チャージの雄叫びとともに炎に襲い掛かってきた。
「ま、マジかっ・・・!」
炎は振り向きざまにパワー・グローブで殴り返そうとした。
しかし、明らかにミノタウロスが早い。ミノタウロスの斧が炎を切り裂く―――。
「『ペトリフィケーション』!」
突如放たれた、石化のスペル。
それによりミノタウロスは石化し、無害なカードに戻った。
「危なかったね!大丈夫だった?」
その声の主である樹は、『ストーン・バジリスク』に乗っていた。
『ストーン・バジリスク』・・・土属性のドラゴンで、レベル6の6/6。地中移動の能力と土スペル2つ、そして火スペル1つを持つ。
「サンキュ!助かった!」
「あなた、誰なの?」
「話は後だよ!とりあえず加勢するから!」
樹はそう言いながら、自分のデックを取り出し、臨戦体勢に入った。
「・・・やっぱり、行くわ。」
『ダメダメ!自分の怪我忘れたの!?』
ベッドから出ようとする流駆を止めるタイガーリリー。
しかし流駆はその静止を振り切り、痛みに耐えながら立ち上がった。
『どうして・・・?』
「樹が心配ってことじゃない。何か・・・やな予感がするんだよ。」
手早く自分の服を着込んでデックを持つと、部屋から出ようとした。
『待ってよ!・・・じゃあせめて、私も行くから。嫌とは言わせないよ?』
「・・・宜しく頼むよ。」
流駆はタイガーリリーと共に、樹の後を追い始めた。