第19話「親子の対立」
西の空も紅くなってきた頃、流駆たちは樹の先導で彼女の自宅までたどり着いた。
「はい到着。ここが僕の家だよ。」
「・・・ここですか?(汗)」
麻耶が・・・いや、一度見ている流駆以外が立ち竦むのも無理は無い。
樹の家は、とてつもない豪邸だったのだ。
「遠慮しないで、入って入って。平気平気、この家広いから4人増えたってどうってこと無いよ。」
「そうなのか?じゃあ遠慮なくお邪魔するぜ。」
歩いていった樹の後を、炎がついて行った。流駆に肩を貸していたのも忘れて。
「・・・流駆、大丈夫?」
「・・・痛ぇ・・・炎の野郎・・・。」
流駆は、炎に振りほどかれて道路に倒れこんだ。
・・・立つ気力はあるのだろうか。
4人は、初めに流駆が連れて来られた部屋へと案内された。
流駆はベッドで横になり、炎、楓、麻耶、樹は適当な椅子に座り込んだ。
「ところで、樹さん・・・だっけ?あなた、どうして召喚術師になったの?」
「え?流駆には話したんだけど・・・。」
17話と同じ話をする樹。
「成り行き・・・ですか・・・。凄いですね・・・。」
「凄いのは皆だよ。僕は、正直この力を持て余してたんだ。だから旅をするって決断まで行き着いた皆が羨ましい・・・。」
「・・・半ば楓が断行したようなものなんだけどな・・・実際。」
流駆が茶化す。楓は聞こえない振りをする。
「あのさ、これも流駆には話したんだけど・・・僕も皆の旅についてっちゃ駄目かな?」
その発言に、思わず目が点になる4人。
「・・・ねぇ、同い年の相手に説教するつもりは無いんだけど、この旅は遊びじゃないのよ?」
「え?そのくらい解ってるつもりだけど?」
「じゃあ、何でだよ?」
疑問を示す・・・というより、理由を知りたいという表情で尋ねる炎。
「・・・楽しそうだから、じゃ駄目?」
「却下だな。」
「炎を助けてあげたじゃん。それに、私の実力も知ってるでしょ?力を試したいんだよ。」
自慢げに言う樹に、流駆は呆れた表情で話し出した。
「実力があるのはもちろん認める。炎のことも礼を言う。でも・・・いいのか?きついぞ?」
その言葉に、樹は急に暗い表情となった。
「・・・こんな家にいるより、よっぽどいいよ・・・。」
そう、ポツリと言った。
「どういう・・・ことなんですか?」
麻耶が訊ねたとき、部屋のドアが急に開かれた。
「・・・樹、その人たちは誰?」
「母さん・・・ノックぐらいしなよ。」
どうやら樹の母親のようだ。
歳は30代後半、化粧が濃く、身体中いたるところに貴金属を身につけている。
流駆たちの年代にとっては、はっきり言って第一印象最悪である。
「どうして見知らぬ人を家の中に入れたりするの。強盗じゃないと言い切れる?」
「何さ、流駆たちは強盗なんかじゃないよ!僕と同い年だって言うのに!」
「どうだか。見てなさい、その内化けの皮剥がれるわよ。」
その見下した態度に、樹は怒りをあらわにした。
「母さん、どうしてそんな目でしか人を見れないの!?」
「あなたもあなたよ。野蛮な汚いモンスターなんて触って・・・。」
「どういうこと!?」
「樹。あなたはこの家の後を継がなければならないのよ。そんなカードは捨てて、勉強をしなさい。いいわね!?」
そう押し付けるようにいうと、今度は流駆たちに視線を向けた。
「あなたたちが何者か知らないけれど、今すぐ出て行って頂戴。この物騒な世の中、用心するにこしたことは無いのよ。」
「そ、それはそうですが・・・でも、だったらせめて病院を紹介してください!怪我人がいるんです・・・。」
「何で見ず知らずの人間にそこまでしなきゃいけないの?いいから出て行きなさい!」
麻耶の頼みも、冷たく返された。
「いくら見ず知らずだからって、怪我人を放っとくって言うわけ!?それだけはさせないよ!」
樹の口調が、更に強くなった。
「・・・ふん。だったら、今日一日だけはそこに置いてやるわ。但し、明日になったら必ず出て行きなさい。」
「解りました。約束します・・・。」
流駆が、代表して答えた。
「・・・樹、あなたもさっさとこの部屋から出るのよ。」
そう言い残して、樹の母親は足早に去っていった。
「しかし、盛大に嫌われたものね・・・。」
「・・・ごめんね。僕の母さんはいつもこうなんだよ。」
「・・・ひょっとして、この家に居たくない理由は、あの母親か?」
流駆の目が、鋭くなった。
「・・・そうだよ。」
「親は、どんな形であれ自分の子供に愛情を持ってるんじゃないんですか・・・?」
その麻耶の言葉は、樹の大きな首の横振りによって否定された。
「違う!母さん・・・いや、あの女、理香(りか)は僕のことを後継ぎの道具としてしか見てない!」
4人とも絶句した。
「僕は、こんな家を継ぎたいなんて思ってないし、あんな母親とも一緒になんて居たくない・・・。」
その呟きを最後に、樹は泣き始めてしまった。
流駆が、舌打ちをした。
「解った、解ったよ。一緒に行こう。・・・いいか?」
その流駆の言葉に、樹は顔を上げた。
「俺はいいぜ?助けてもらった恩も返したいしな。」
「使用する属性は土・火よね。流駆、炎以外にその属性使いがいなかったから、丁度いいかもね。」
「いくら辛い旅でも、仲間が多ければ楽しいですしね。」
3人に、反対する意見は全く無かった。
「と、いうことで。その気があれば、今日中に旅の準備した方がいいんじゃないか?」
「・・・みんな・・・ありがとう!すぐに旅の準備始めるよ!じゃあ、お休み!」
樹は、嬉々として去っていった。
「ところで流駆。お前はその怪我大丈夫なのか?」
「あぁ。これなら・・・よし、もう呼べるな。『シームルグ』召喚っと。」
流駆が翳したカードから、淡く輝く鳥が現れた。
『シームルグ』・・・聖属性のレベル3、2/2。聖のスペルワーク1つとオールスペル1つ所持。
そして、その嘴は『癒しの嘴』と呼ばれている。
「頼むぞ。シームルグ。」
流駆の身体を、シームルグがその嘴でつつく。
すると、なんと見る見るうちに流駆の傷が治っていった。
「こんなものか。サンキュ、シームルグ。戻れ。」
シームルグは、流駆が再度翳したカードに戻っていった。
「へぇ、シームルグを使うなんてね。」
「これで、明日から再度旅が出来るってこと。じゃ、お休み・・・。」
4人は、眠りについた。
翌朝。
「おはよう!出発するんでしょ?」
旅支度ばっちりの樹。
「樹、装備品は何かつけたのか?」
炎が訊ねると、樹はニヤリと笑って見せた。
「もちろん!『月蝕のオーブ』と、『日蝕のオーブ』!」
儀式スペル使用の『月蝕のオーブ』と、対儀式スペルの『日蝕のオーブ』を、首飾りにしている。
それぞれ、オールスペルを1つずつ与えもする。
「じゃあ、出発するか。」
そう言って、流駆たちは昨日通った道を逆に進み、玄関へ到着した。そこには、人影。
「樹。何処へ行くつもり?」
「げっ・・・。」
そこに立っていたのは樹の母親、理香だった。
「そいつらがどんなことを言って誑かしたのかは知らないけど、行かせはしないわよ。」
そう言うと、理香は乱暴に樹の腕を掴み上げた。
「痛っ!何するんだよ!」
「あなたたち、さっさと行きなさい。そう言う約束でしょう。」
理香の見下す態度は変えない。
「・・・樹は、俺たちと旅に出るって聞いてないんですか?」
「聞いてないわよ。聞いてたとしても、絶対行かせはしないけどね。
この子はね、あなたたちとは違うの。この神奈家を継がなければならないのよ。」
その言葉は、樹のことを考えているとは到底思えなかった。
「・・・どうしたの。この期に及んでまだ何か?」
「もう一つだけ、聞かせてください。・・・あなたにとって、樹さんは何なんですか・・・?」
麻耶が、泣きそうな声で訊ねる。
「決まってるでしょ。この家を継がせるための存在よ。」
「ちょっ・・・樹のことも考えて・・・」
「連れ出しなさい!」
理香のその言葉に、数人の男が現れ、流駆たちを無理矢理外へ連れ出した。
「みんな!」
「あなたは、部屋に戻りなさい!」
「離せ!離せよっ!」
樹は、無理矢理部屋に連れて行かれた。
「ねぇ流駆。このまま、旅に出るつもり?」
「樹のこと、どうにかして連れ出せねぇのか?」
「あれじゃ、樹さんが可哀想・・・。」
楓、炎、麻耶が一斉に流駆に話し掛ける。
「うるさい、一度に喋るな・・・。考えぐらい、無いわけ無いだろ。」
流駆は、ニヤリと笑った。
「作戦がある・・・迎えに行ってやるさ。」
「どうして!」
「あなたはこの家を継ぐことだけを考えなさい。それが、あなたの生き方なのよ。」
「また、決め付けるの!?」
今の樹と理香の口喧嘩は、これまでで最もひどかった。
『・・・樹、樹・・・。』
「・・・な、何よこの声は・・・」
「僕を呼んでる?」
樹があたりを見渡すと、窓の外に『ティンカーベル』がいるのが見えた。
『樹、流駆だ。これから旅立つけど・・・来たいか?』
「流駆!?・・・うん、行きたい!」
「樹!そんな野蛮なモンスターなんかと話してるんじゃ・・・」
「解った。じゃあ、早いとこ乗りな。」
その声は、窓の上からした。そこには、ファイア・ドラゴンに乗った流駆と炎の姿があった。
「流駆!炎!・・・今行く!」
降下してきたドラゴンに樹が飛び乗ろうとするのを、やはり止めようとする理香。
「駄目よ!あなたは、この家を継ぐためだけに生まれてきたのよ!行かせないわ!」
「やっぱり。僕を自分の子供となんて一切見てなかったんだね。」
樹は、冷たい声で言い切る。理香は、はっとして口を押さえる。
「・・・あんた如きに。」
「樹、母親をあんたとは・・・!」
「あんた如きに縛られる理由は無いよ・・・あんたに、僕の母を名乗る資格なんてないっ!!」
その言葉に、理香は絶句した。
「・・・流駆、出発しよ。」
「いいのか?あのままで・・・。」
「早くして!」
「・・・全く・・・。炎、出してくれ。」
ファイア・ドラゴンは、樹の部屋からあっという間に去っていった。
「・・・逃がすものですか・・・。樹、あなたはこの家を継ぐしかないってこと、思い知らせてやるわ・・・。」
「樹・・・本当にいいわけ?」
「楓もしつこいなぁ。心配ならいいよ。大丈夫だから。」
「当の本人がいいって言うんだから、いいんじゃないのか?」
「それは、そうだけど・・・。」
流駆の言葉に、珍しく唇を尖らせる楓。
「とにかく、みんな、これからもよろしく!」
『・・・新しい心労の種にならなきゃいいけどな・・・。』
流駆は、その言葉をどうにか心の奥に留めた。