第21話「ありがちな手段」
一斉に、ゾンビとは逆の方向に走る流駆、麻耶、樹の3人。
「・・・逃げる必要も、よく考えたらないんじゃないか?」
唐突に、流駆が言い放った。
「何で?」
「あいつらをモンコレの魔物と扱うことが出来るなら、属性は大抵『魔』だ。つまり、太陽の槍で・・・。」
「消滅・・・ですか?」
走りながら策を巡らせる流駆。
「よし、早速・・・太陽を睨む天使、召喚!」
流駆がカードを翳す。
・・・沈黙が流れる。
「・・・へ?」
状況がよく掴めていない流駆。
その時、気が付いたように樹が言った。
「流駆!プラズマ・ボールは!?」
「え?あ・・・いない・・・!」
照明代わりとして召喚したはずのプラズマ・ボールは、その姿を消し去っている。
「ひょっとして、私達・・・召喚が出来なくなったんですか?」
「みたいだな・・・。或いは、一時的に召喚を封印されたか・・・。」
「・・・じゃあ、どうするのさ。僕は、このままゾンビの餌になんかなりたくないよ?」
召喚の封印。アイテムを身に着けているとはいえ、これはかなりの痛手であった。
「・・・決めた。ねぇ、炎と楓を探し出して、一刻も早くこのビルから抜け出さない?」
樹が提案する。
「そうですね・・・。2人共、無事だといいんですが・・・。」
「2人も心配だけど、自分の心配もした方がいい。特に、手数が少なくなる俺と樹はな。」
この2人は、戦闘能力がオールスペル2つに限定されている。一方、麻耶は矢の続く限りは応戦が出来る。
「じゃあ、私が先頭につきますね。何かあってもすぐに対処できるように。」
「俺は最後尾に立とう。防御・対抗系スペルが撃ちやすい。」
「じゃ僕が真ん中だね。危ない方に援護するから。」
3人は歩き出した。
「・・・そろそろ、放してくれない?全く動けないっていうのも疲れるんだけど?」
強気な口調は楓。だが、彼女は今魔物に押さえつけられている。
「口だけは達者な小娘だな。」
「まぁ放っとけ。どうせグールのマヒ能力で動けん。」
話しているのは、昼間樹を連れ戻しに来た黒服たち。
『グール』は、魔属性レベル1の1/1。防御力2以下のモンスターを麻痺させる能力を持つ。
「私を人質にして、樹を連れ戻そうってこと?ずいぶんありきたりな手ね。」
こんな状況でも、楓は怯えていない。むしろ、相手を睨みつけている。
「ありきたりだが、確実なんだよ。伝言役ももう仕向けたしな。」
「抵抗したとしても、召喚術を封じたんだ。このビルの中じゃあ俺たち以外はモンスターの召喚は出来ねぇ。」
そう言って、下品に笑う2人の黒服。
「・・・あのモンスター嫌いの配下にしては、あっさりとダークネスのカードに頼るのね。」
再び、楓の皮肉。しかし黒服のリーダー格は、涼しい顔で言った。
「「手段は問わない」って言われてるしな。使えるものは何でも使わせてもらう。合理的だろう?」
「・・・よっぽど、あなたたちのほうが頭が柔らかいわね。」
「もうお喋りはそのぐらいにしな。いい加減にしないと、お前に痛い思いをしてもらう事になるぞ。」
「何だお前、幼女趣味でもあるのか?」
『ギャハハハハハハ・・・・・・。』
「(・・・ロリコン・・・。)」
黒服たちの言葉に、呆れた表情をする楓。
「(それにしても・・・どうにかして脱出出来ないものかしら・・・。)」
「2人共、どこにいるんだろう・・・。」
ゾンビから逃げながら、2人の行方を探す流駆たち。
「・・・樹、危ないっ!『プロテクション』!」
「えっ!?」
樹が慌てて辺りを見ると、そこには多量の灰が渦巻いていた。
その灰が樹を包もうとする一瞬前、水の壁が作られた。
「『アッシュ』!?流駆、サンキュー!」
「・・・そのまま殴り飛ばしてやれ!『ウォーター・シェル』!」
立て続けに流駆がスペルを放つ。すると、不思議な水が樹を包み込んだ。
『ウォーター・シェル』は、対象の攻撃力と防御力を入れ替える。
「凄い!水が腕に・・・。よし、行けっ!」
腕に絡みついた水を投げつける樹。それはアッシュを押し流し、カードへと戻した。
「・・・ああ、駄目だ。疲れた。やっぱりスペルの連発はするもんじゃない・・・。」
流駆が、疲れた表情で壁に寄りかかった。
「何言ってるのさ。まだ2人を見つけてないでしょ?」
「無茶言うなよ・・・。これでスペル連発は今日2回目なんだよ・・・。」
昼間、黒服相手にジャスティス2連発している流駆を思い出す樹。
「言われてみればそうだったね。忘れてた。」
「(嘆息)・・・。そろそろ麻耶に追いつこう。下手したらかなり前に出てるかもしれない・・・。」
麻耶は、進路の確認と確保のために単独で前進している。
「そうだね。早く行こう。」
と言いながら、樹が曲がり角を曲がった直後、足元が水浸しになっていることに気が付いた。
「あれ?何で水が・・・?」
樹と流駆が疑問に思っていると。
「流駆さん、樹さん。どうにか、進路を確保できました。・・・危なかったですが。」
正面から、麻耶の声が聞こえた。
「進路の確保はいいんだけど・・・麻耶、何でこんな水浸しに?」
「それが、曲がってしばらく進んだらいきなりゾンビの群れが押し寄せてきて・・・つい反射的にキュクレインの矢を・・・。」
「なるほど。魔法の矢による水なら、しばらくすれば消滅するだろ。」
とか言いながら、更に先へと進むと、再び曲がり角があった。
「じゃ、また私が見てきま・・・」
と、麻耶が言いかけたとき。
「おい!このスケルトン!黙ってないで何とか言え!これは何なんだよ!」
と、聞き慣れた声が聞こえた。
「炎さん!?」
「あ?・・・麻耶!それに樹に流駆か!無事だったんだな!」
炎は首根っこ掴んでたスケルトンを放り出し、流駆たちに近づいた。
そのスケルトンは床に叩きつけられた衝撃で砕けて、カードに戻った。
「炎、お前今まで何処行ってたんだ?」
「それが、トイレ探してこの階まで来て、用を足したまではよかったんだ。その後はもうゾンビだらけ。召喚も出来ねぇし・・・。」
炎の体が、突然ぐらりと揺れた。流駆が支える。
「おい、どうしたってんだよ?」
「悪ぃ・・・。少し無茶したんで・・・。スペルもほとんど使い果たした・・・けど。」
「けど・・・何?」
続きを、樹が促す。
「けど・・・どうにかして、このビルの最上階まではたどり着かないと・・・これ見ろ・・・。」
「・・・手紙?」
流駆は、受け取った手紙の内容を読み出した。
「・・・「仲間を一人預かっている。樹嬢を連れてこの部屋まで来い」・・・か。」
文の下には、簡単なビルの見取り図が載っていた。
「昼間のあいつらだ・・・!楓を人質にするなんて・・・許さない!」
「・・・酷い・・・。楓さん、無事でしょうか・・・。」
と、普通のリアクションをする麻耶と樹に対し。
「・・・またありがちな手紙・・・。しかも、似たような文面をどこかで見たことがあるような気がするな・・・。」
非常にドライな反応をする流駆。
「とにかく・・・助けに行くぞ・・・!」
「行くけど。炎、お前はビルの外に出ろ。」
流駆が、炎にさらりと言い放つ。
「な、何でだよ!」
「お前、ゾンビたちと殴りあいでもしたのか?傷だらけだぞ。無茶だ。死なれたら目覚めが悪い。」
流駆が炎に言い聞かせる。
「それと、麻耶は悪いけど炎についていってくれないか?満身創痍の人間1人じゃ厳しい。」
「・・・解りました。弓矢なら、複数を相手取ることも出来ますしね。」
こちらは素直に聞き分ける。
「後、シームルグを預ける。多分、ビルの外なら召喚が出来ると思うから、脱出できたら炎の傷を。」
そう言って、シームルグのカードを麻耶に預ける。
「じゃ行ってくる。樹、急ごう。」
「解ってるよ!もう一度、家には帰らないって言い聞かせてやる!」
流駆と樹は、走って通路の奥へと消えた。
「流駆!樹!しっかり楓を助けて来いよ!」
「どうか、3人とも無事で帰ってきてください・・・!」
炎と麻耶が通路の奥に叫ぶ。
「じゃあ、私達も行きましょう。炎さん、歩けますか?」
「ああ、どうにか・・・。今回は、流石に前線は麻耶に任せる・・・。」
と言いながら歩き出した矢先に、『ワイト』を先頭にしたアンデッド集団が立ち塞がった。
『ワイト』・・・魔属性レベル2、1/3の飛行。レベルドレインという特殊能力を持つ。そして、しぶとい。
『ふっふっふっ・・・逃げられるとでも思って・・・?』
と、口上の途中でワイトに矢が突き立てられた。
『『スープラの矢』か!くっ、上手く動けん・・・!』
『スープラの矢』は、目標の動きを早めたり遅らせたりすることが出来る。
勿論、放ったのは麻耶。既に次の矢を番えている。
「今、あなたたちと遊んでいる暇なんてないんです・・・。道を開けなさいっ!」
放たれたのは、ブレイズの矢。魔炎が、アンデッドたちを焼き払う。
『・・・この程度では私は!また新たな媒体で蘇る!』
「だったらよ、完膚なきまでに焼き払ってやらぁ!『バーン・アウト』!」
炎がカードを翳すと、ワイトの体だけが著しい火柱に包まれた。
『バーン・アウト』・・・モンスター1体の火炎耐性を失わせ、火炎ダメージを受ければ完全に焼き払わせてしまうスペル。
魔法の炎が治まったとき、アンデッドたちの姿は何処にもなかった。代わりに、床一面にカードが散乱している。
「炎さん!大丈夫ですか!?」
「この位ならな・・・。流駆や樹だって頑張っているはずだ。多少は無理するぜ・・・。」
「・・・それなら、私は炎さんが出来るだけ無理をしなくてもいいように尽力します。行きましょう!」
炎と麻耶も、出口を目指して歩き出した。