第22話「自我」


「・・・どうやら、ここみたいだな・・・。」

ビルの一室の前で流駆が呟く。そこは、見取り図に示された部屋だった。

「行こう!楓を助けるんだ!」

樹はそう言い、ドアを開け放つ。

「・・・樹お嬢さん、お待ちしてましたよ。」

ドアの向こうにいた黒服が、わざとらしい仕草でお辞儀をする。

「楓は何処!?」
「ここにいますよ。大丈夫、眠っているだけです・・・今はね。」

そのやり取りの間に、流駆も部屋の中へ入ってきた。

「今は・・・って、どういうことだ?」
「知れたこと。樹お嬢さんの行動如何によっては、ただではすまないかも・・・な。」

「な」のところで、黒服はニヤリと笑う。それを合図にしたかのように、部屋の奥からもう数人の黒服たちが現れた。

「これだけの人数だ。おかしな魔法を使ったとしても、お前らに勝ち目はないだろ。」
「樹嬢が戻れば、これで終わりにしてもいいんですぜ。」

と、黒服たちは言う。樹は、ギリリと唇を噛んだ。

「・・・どうする?流駆。」
「んなの、初めから答えは決まってたんじゃないのか?」

そう樹に言うと、流駆は黒服たちを睨みつける。

「襲いかかる気があるなら来てみろ。俺はそれよりも早くジャスティスを・・・今度は当てるぞ。」

そう流駆が言うが、黒服たちは全く動じない。

「そうか。だったら・・・コイツらにやってもらおうじゃねぇかっ!」

リーダー格の黒服がそう叫ぶと、無数の虫が床を這ってきた。

「なっ・・・『黒曜虫』・・・!」

狼狽する樹。『黒曜虫』は魔属性レベル1、1/1。魔力を錯乱させ、オールスペルを失わせる。
流駆、樹はスペルワークをアイテムに頼っているため、全くスペルが撃てない状況に陥った。

「予想外だな・・・。あれだけ啖呵切ったのにもう劣勢かよ・・・。」

こんな状況でも流駆のぼやきは止まらない。

「さて、樹嬢?こちらへ戻ってきますか?それとも、無理矢理連れ戻されたいですか?」

ニヤつきながら、リーダー格が樹に話し掛ける。

「・・・・・・。」

樹は何も喋らなかった。しかし、その眼は黒服たちを鋭く睨みつけている。

「しょうがねぇな!グールにスケルトン!このガキを痛めつけろ!」

突如口調が変わった黒服は、それぞれグールにスケルトンを3体ずつ呼び出した。他の黒服たちもやはりグールにスケルトンを呼ぶ。

「よし、やれ!」

そう命令が下された。アンデッドたちが、2人に襲い掛かる。

「・・・ええい、こうなったら!コイツらと素手で戦ってやる!」
「おい、そんな無茶・・・炎の影響かよ?・・・とはいえ、とっさに変更できるような装備品もないし・・・。」

2人が覚悟を固めた瞬間。







ババババババッ!!







突如発生した電撃が、アンデッドたち数体を焼き払い、カードに戻した。

「だ、誰だ!?」

黒服たちがうろたえる。その答えは、部屋の奥から返ってきた。

「私達5人の中で電撃を扱うのは・・・私と麻耶だけよ。」

そう言いながら歩いてきたのは、捕まったはずの楓だった。

「楓・・・どうやら無事みたいだな。」
「よかった!怪我とかしてないよね!?」

流駆、樹の言葉に、楓は頷いた。

「お、お前ヒュプノシスで眠らせたはずなのに・・・。」
「あぁ、あれ?眠った振りをしてただけよ。あのままグールに押さえつけさせておけば確実だったのに。」

黒服たちは、どこか考えが回らないようである。

「とにかく、私ばかり捕まってこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかないから・・・覚悟しなさい。」

楓はそう言うと、1枚のカードを取り出す。その瞬間、楓の手には『黄金の槍』が握られていた。
イニシアチブと攻撃力を+1する、黄金の装備である。

「楓!どうにか黒曜虫を仕留めてくれ!そうすれば俺たちも戦える・・・!」
「OK!任せて!」
「させるかよ!行けアンデッドたち!」

楓に、アンデッドの群れが押し寄せる。黒曜虫はその最後尾にいる。

「流石に数が多いわね・・・。どちらが早く動けるのかしら・・・?」

先手は、楓が取った。

「先手を取った所で、コイツら全部を仕留められるのか!?」
「・・・これが手っ取り早いわね!『サプライズ・ウィンド』!」

黒服の言葉を無視して、楓はスペルを放つ。
『サプライズ・ウィンド』・・・ユニット1体に竜巻の2ダメージを与える。イニシアチブ決定の時に。

突然の突風に黒曜虫は斬り刻まれ、カードに戻った。

「ナイス!これで僕たちも戦える!」
「ああ・・・また黒曜虫を呼ばれる前にケリをつけたほうがいいな・・・。」

流駆と樹も、楓の脇に並んだ。

「スペルが使えた所で!お前らに勝つ術なんてないんだよ!」

黒服が笑う。

「流駆に樹、何か策ある?私はもうスペルワークがないわよ。」
「・・・クラックはこのビルの中じゃ危なくて使えないし・・・。火属性スペルで全体攻撃って僕のデックにはないし・・・。」

「策なら、ある。」

困り顔の楓に樹を見て、流駆は微笑した。

「本当!?」
「ああ。その前に樹、自分と楓にサンド・カーテンをかけろ。これは俺以外の全員を襲うスペルなんだ。」

それだけ言うと、流駆はカードを取り出した。樹もサンド・カーテンを準備する。

「へっ。どんな相談してたかは知らねぇが、もう時間切れだ!お前ら、攻撃しろ!」

その声に、今度こそアンデッドたちは流駆たちに襲いかかろうとする。

「数で押そうとするところは、ダークネスと同レベルだな・・・。『ファイナル・ジャスティス』!」

流駆がカードを翳した瞬間、光の奔流が現れた。その流れはグールやスケルトンを討ち、次々とカードに戻していく。
黒服たちも光に打たれるが、多少は鍛えられているのか動けなくなる程度である。楓と樹はサンド・カーテンに守られている。 そして、流駆には光は襲ってこない。

聖属性スペル『ファイナル・ジャスティス』は、術者以外の全てのユニットに1ダメージを与えるスペルである。

「ぐッ・・・て、てめぇ・・・。」

黒服のリーダー格が、辛うじて起き上がってきた。そこに、樹が近づく。

「僕は自分でこの旅を選んだんだ。これについてとやかく言えるのは、流駆たち4人だけなんだ。」
「ヘッ・・・ガキがどこまで強がれるんだよ・・・!」

樹の言葉に黒服は蔑みを返す。しかし、そこに楓が歩いてきた。

「あなたたちは召喚を受け入れるほどの頭の柔らかさがあるから樹の気持ちが解るはずよ。」

黒服はその言葉を聞いても、今度は呆れた顔で話し出した。

「使えるものは使うって言っただろう。それに、俺たちは自分の考えなんて必要ない。全て、理香様の命令なんだからな。」

今度は、その言葉に流駆が答えた。

「命令を受けたからって、自分の考えを持ってはならないってことにはならないだろ。少しは自我を大切にしたらどうだ。」

流駆の言葉を最後に、沈黙が流れる。破ったのは、黒服だった。

「・・・もう行け。俺たちは負けたんだ。今回は見逃してやる。」

芸術的なほどにベタな台詞を吐く。

「また追うぞ。連れ戻すまではな。」
「・・・いくらでも、蹴散らしてやる・・・!」

樹の台詞もベタだった。































「・・・流駆さんたち、遅いですね・・・。」

ビルの入り口付近で、3人の姿を待っている麻耶。

「あの2人なら心配ねぇって。ゆっくり待とうぜ。」

炎が後ろから声をかける。怪我はシームルグによって癒されていた。

「・・・でも、心配です。様子を見に・・・あっ!」

と、麻耶が叫んだ瞬間、炎はビルの中からこちらに歩み寄って来る楓の姿を見つけた。

「楓さん!大丈夫ですか!?」
「心配かけたわね、麻耶。私は大丈夫よ。」

心配顔の麻耶に微笑む楓。その後ろから、流駆と樹もやって来た。

「おーい、流駆、樹!どうにかやったみたいだな!」
「炎も、どうやら傷は大丈夫みたいだね!」

炎の呼びかけに樹が答える。だが、流駆はいまいち表情が冴えない。

「・・・流駆、どうかした?」
「ん?あ、いや別に・・・。」

返答もどこか曖昧だった。

「(・・・自我、か・・・。)」

黒服に言った言葉を自分で思い出す。

「(繋がりを断つ、それは共通の目的としても・・・俺は、なにがしたくて旅についてきたんだか・・・。)」


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