第24話「樹vsレーゼ」
ギィ、と音を立てながら樹は選んだ扉を開いた。
「・・・あれ?誰もいない・・・?」
樹は部屋を見渡すが、人影は見えない。だが、どこからか気配はする。
「ど、どこに誰が・・・?」
「ここよ。上見なさい、上。」
真上からかけられた声に思わず上を向く樹。
なんと、さっきの女性が空中から樹を見下ろしていた。
「ひ、人が浮いてる・・・!?」
「あんただって浮けるでしょう?グラヴィトンでも使えば。」
宙に浮いていた女性は、樹のすぐ目の前にふわりと着地した。
「最も、あたしはもう人間じゃないけどね。」
さばさばした様子でそう言う。
「あたしの部屋へようこそ。改めて自己紹介するわね。あたしはレーゼ。レーゼ=ユルングよ。」
「あ、僕は神奈 樹。・・・さっきも聞いたけど、何でモンスターになったのさ?」
樹の核心を突くような質問に、レーゼは口ごもる。
「・・・あの出来事を話せって言うの?遠慮したいわね。」
「でも、理由が解らないと僕らだってどうすればいいのか解らないし。それに、あの出来事って・・・?」
一歩樹が前に踏み出すと、レーゼは大きく後ろへと跳び退って身構えた。
「なら、初めの約束通りあたしに勝てたら教えてあげるわ。それじゃ・・・行くわよ。」
レーゼは再び宙へと舞い上がり、意識を集中した。
「モンスター・・・一体どんな・・・?」
「焦らなくても、すぐに見せて・・・あげるわよっ!」
レーゼの身体が、光に包まれた。
「・・・それが、モンスターの姿?」
『そうよ。もっとグロテスクな・・・『大鋼蟲』なんかにでもなると思った?』
樹の間の抜けた言葉に、レーゼは微笑しながら応える。
モンスターに変化したはずの彼女だが、変わっているのは服装に髪の色のみ。
『あたしは、幸運にもそういったのにはならなかった。見て解るかしら?『キュベレイ』よ。』
「キュベレイ、か・・・。へぇ、確かにあまり変わらないや・・・。」
あまりレーゼの姿が大きく変化しなかったせいか、それまでの樹の緊張は少しほぐれた。
とは言っても、『キュベレイ』は土属性のレベル5、5/3。土と火のスペルワークに、大地を揺るがし隆起させる能力を持つ。
『さぁ・・・じゃ早速やるわよ!』
「・・・解った!レーゼ、勝負!」
先手を取ったレーゼは、自らの能力を最大限に発揮させる。
『避けられるかしら?大地よ!』
レーゼが腕を一振りすると、地面が床を突き破って・・・いや、床そのものが変化して樹に襲い掛かった。
キュベレイの特殊能力『憤怒する大地』。歩行のユニット全てに2Dの地震ダメージを与える。
「避けないけど、防ぐ!『サンド・カーテン』だっ!」
手早く作り出された砂の障壁が、床からの攻撃を防ぐ。
『甘い甘い!『ペトリフィケーション』!』
「なら、もう一発!」
キュベレイから更に飛んだ石化のスペルを、2重に張ったサンド・カーテンで防ぐ樹。
「・・・どうやって攻めようかな・・・。」
サンド・カーテン2発でスペルを使い切った樹に、もう既に攻撃の術は残っていなかった。
『あら?何もしないわけ?』
「あ・・・出来ないってのが正しいんだけど・・・。」
バツが悪そうに頭を掻く樹。
『いい?今回あたしはペトリフィケーションを使ったけど、まずブライアー・ピット、それからバーニング・フォースと続けられたらどうするつもりだったの?』
厳しい顔のレーゼ。樹は言葉に詰まった。
『仕切り直しね。次は・・・本当に倒すつもりで行くわ。』
「ちょ、ちょっとタンマ!」
樹の声は、どこか情けない。
『却下。・・・と言いたい所だけど、何?』
「装備品変える。倒す手段、考え付いちゃったんだ。」
『・・・へぇ。面白いじゃない、待ってあげるわ。』
レーゼは、余裕綽々といった表情だ。
しかし、樹の表情も自信有り気になっている。
「・・・よし、完了!早速勝負!」
樹がレーゼに向き直った。
『いい度胸ね!なら、もう一度喰らいなさい!』
レーゼは、再び床を隆起させた。しかし、樹は全く動じない。
「もう喰らわないよ!これを見て!」
勝ち誇るように叫んだ樹は、腕を翳した。その腕に、『ドルクレイの腕輪』が光っている。
『ドルクレイの腕輪』は、土のスペルワーク2つと地震と石化に対する耐性を与える。
『考えたわね・・・でもあたしは、地震や石化だけじゃないのよ!『ファイア・ブラスト』!』
「おっと、もちろん『サンド・カーテン』!」
レーゼが更に放つ猛炎も、砂の障壁に阻まれる。
『・・・やるわね。じゃあ、あたしを倒してみなさい。出来るかしら?』
「出来なきゃ、僕はいつになっても勝てないよ!」
そう言いながら樹が取り出したのは、『爆雷の角笛』である。
一吹きすれば、爆雷が敵を焼き払う角笛である。
「必殺『爆音の雷撃』!」
樹が角笛を一吹き。その刹那、稲妻の帯がレーゼを貫かんと走った。
『流石に避けるのは無理ね・・・。『サンド・カーテン』!』
レーゼも、自らの前に砂の障壁をつくり出して身を守る。
「よしよしよし・・・スペルワーク使ったね?」
『まぁね・・・。でもあんたにあたしを倒す術なんてあるかしら?』
レーゼの皮肉を含んだ言葉に、樹は微笑を返した。
「これに賭けてみるよ!『ストライキング』!炎の真似事だけど・・・行くよっ!」
樹は、自らに攻撃力強化のスペルを使ってレーゼへと突撃した。
『なるほどね・・・。それは流石に防ぐことはできないわ。だから・・・。』
レーゼは、そう言うなりいきなり天井近くまで浮かび上がった。これでは樹の腕や足も届かない。
「あっ!それズルイよ!降りてこーい!」
『ふふっ。大人気ないけど、ここまで攻撃を届かせたらあんたの勝ちよ。』
レーゼは樹を悠然と見下ろしている。
「うう・・・。もうどうなっても知らないからね!これでも・・・喰らえっ!」
樹がレーゼに向かって腕を振ると、その手から魔力の塊が放たれた。
『ま、まさかっ・・・!?』
レーゼはその光球をどうにか受け止める。だが、その威力はキュベレイの防御力を超えていた。
『・・・あぁ、もう駄目ね・・・。』
レーゼは床へ降りると、元の人間の姿へと戻った。
「やった・・・僕の勝ちでいいよね?」
「あんたには負けたわよ。まさか攻撃力を投げつけるなんて芸当が出来たなんてね。」
そのレーゼの言葉に、樹はニヤッと笑う。
「実はね、あれたった今、この場で思いついたんだ。」
「こ、この場であんな短時間に・・・!?」
「以前、似たようなことをしたことがあったんだよ、僕は。」
ウォーター・シェルで攻撃力に転化したプロテクションの水を投げつけたときのことを思い出す樹。
「ふぅ・・・あんた、天才よ。」
レーゼは唖然とした顔で、それだけ言う。
「じゃあ、最初の大広間に戻るわよ。他の4人もそろそろケリが着いている頃だと思うし。」