第28話「麻耶vsデクス」


「こんにちは・・・。」

ご丁寧にも挨拶をしながら、恐る恐る部屋の中へ入っていく麻耶。

「・・・よく来たね。ようこそ、僕の部屋へ。」

部屋の中にいたのは、穏やかな瞳と笑みを浮かべた青年。

「あ、えっと・・・私は・・・。」
「僕から名乗らせてもらうよ。僕はデクス。デクス=トロイア。」
「・・・すいません。私は、渚 麻耶といいます・・・。」

元々内気なためか、麻耶は上手く話せずにうつむいてしまった。

「固くならないで。・・・本当の力が出せなくなるよ。」

その言葉に、麻耶ははっとして顔を持ち上げた。それまでのデクスの雰囲気が、明らかに変わっていたからだ。

「・・・デ、デクスさんって・・・やっぱりモンスターなんですか・・・?」

身じろぎしながら訊ねるマヤに、デクスは苦笑で返した。

「月に咲く天使から聞いているでしょ?間違いないんだよ。僕は半人半魔のモンスターなんだ・・・。」

その言葉を最後に、デクスの身体が靄のような闇に包まれていく。

「ま、待って下さい!まだ聞きたいことが・・・!」
「それもリュカが言ったよね。僕たちに勝ってからって・・・。」


























『・・・いつまで目を瞑っているつもりだ?』

聞き覚えの無い声に反応して、思わず閉じていた目を開く麻耶。
その目の前には、黒鎧を纏って豹の頭をしている戦士。

「それが、モンスターの姿・・・その頭と黒い鎧、『オセ』ですね・・・。」
『いかにも。・・・召喚術師、お前に私の剣が避けられるか?』

話し方が変わっているデクス。

「あの・・・デクスさん、ですよね?」
『デクス・・・あぁ、この人間の名か。・・・いや、そうだな。私はデクスなのだろう。』

どうも、言っていることがおかしい。
複雑な表情を浮かべながらも、麻耶はブラック・ライトニングを構えた。

『弓矢・・・。』
「これが私の戦闘スタイルです。・・・何かすれば、すぐに射抜きます。」

眼光鋭く、麻耶が言う。だがデクスは、余裕の表情すら浮かべている。

『そうか・・・。それなら、その矢で私を射抜いてみるがいい!』

床を蹴り、デクスが先手で攻撃を仕掛ける。

「『キュクレインの矢』!」

麻耶もすかさず津波の矢を番え、デクスに放った。瞬時に水流が現れ、デクスを飲み込む。

「これで・・・えっ!?」

デクスの勢いは、全く緩いでなかった。
それもそのはず、オセは防御力4。キュクレインの矢単体ではどうやっても貫けないのだ。

「そんな・・・!」
『こういうときに判断を誤ると・・・死を迎えることになるぞ!』

デクスの剣が麻耶に向かって振り下ろされ・・・・寸止めされた。

「・・・?」
『これでお前は一度死んだ。もういいだろう・・・。』

デクスが後ろを向き、終わったと言わんばかりに剣を鞘に収めようとした時。

「待ってください。」

麻耶が、しっかりとデクスの方を向いてそう言った。

「確かに私はもう死んでいてもおかしくありません。ですが・・・ですが、まだ生きてます。」
『・・・何が言いたい?』

顔だけを麻耶の方に向けて、デクスが訊ねる。

「・・・デクスさん。手加減はしないんですよね。だったら、もう一度・・・今度は、最後まで剣を振りぬいてください。」

無謀とも取れる麻耶の発言に、デクスは不可解な表情を示した。

『自ら死を選ぶと言うか・・・何がお前をそこまで借りたたせる?』
「・・・。」

麻耶は、黙って耳を貸さない。

『・・・まあいいだろう。だが、お前は私に勝てる手段を持っているのか?矢は通じないぞ。』
「・・・これなら、どうでしょう?」

そう言いながら麻耶が取り出したカード。そこから出てきたのは、『黄金の剣』だった。
攻撃力を+3する、黄金の装備である。

「・・・行きますよ!やぁぁっ!」

果敢に斬り込んでいく麻耶。しかし、デクスは難なくそれをかわす。

「せいっ!やぁっ!はぁっ!」

ひたすら剣で斬りつける麻耶だが、明らかにその動きは素人であった。
黄金の槍をいきなり上手く扱えた楓とは違い、太刀筋、踏み込みなども全く話にならない。

『・・・。』

デクスは、ただ黙って麻耶の剣を受け流している。

「・・・ええいっ!」
『・・・気は済んだか?』

デクスが剣を一閃すると、麻耶の剣は大きく弾かれた。
奇跡的に手放してはいないものの、大きく体勢が崩れた。

『お前の望み通り、最後まで剣を振りぬいてやる!悪く思うな!』

半ば怒りを含んだような叫びとともに、デクスが袈裟懸けに斬りつける。

「(・・・今・・・!)」

麻耶は目を見開き、デクスに向かって何かを投げつけた。

『なっ・・・!?』

デクスの動きは止まった。その腕に、深々と矢が突き刺さっていたのだ。

『『ザーコイルの投げ矢』・・・くっ、お前、初めからこれを狙って・・・!』
「そうです。私は剣なんて扱えませんし・・・やはり決め手は、矢ということになるんですね。」

『ザーコイルの投げ矢』。攻撃対抗で、使用したユニットの攻撃力ダメージを与える投げ矢である。
元々麻耶の攻撃力は1だが、そこに黄金の剣の破壊力が加われば。

『・・・ぬぁっ!』

デクスは一喝し、ザーコイルの投げ矢を引き抜いた。
傷口から、人と変わらぬ赤い血がしぶく。

『・・・麻耶。改めて聞かせて欲しいのだが・・・何がお前をここまで借りたたせるんだ?
今はザーコイルの投げ矢が私を貫いたが・・・下手をすれば、お前が死んでいたのだぞ?』

そう聞かれて、麻耶は俯きながら話し始めた。

「・・・私には、友達がいませんでした。」
『ほぅ・・・?』

いきなり何を話し出すかと思ったデクスだったが、黙って聞き入る。

「原因は、召喚術が使えたから。友達を作るどころか、周りから疎外されていきました・・・。」

麻耶は窓の方へ歩いていき、外を見つめながら更に話す。

「でもあるとき、流駆さんや炎さん、楓さん、それに樹さんに出会えました。皆さんは私みたいに召喚術が使えることを悲観してなかった。
そして、同じ召喚術師として私を受け入れてくれました。この時ほど嬉しい事はなかったです・・・。」

目を伏せ、更に話す。

「私に召喚術師の道を示したアーク・デーモンは皆さんとの出会いを必然、と言っていました。
でも出会いが必然であったとしても、その後私が足を引っ張るようなことがあったら・・・申し訳ないんです。」

そこで、改めてデクスの方に向き直る。

「今にしても、私だけ納得させられないということは避けたかったんです。たとえ、命の危機にあっても。」

デクスは無言のまま、オセの姿から元の人間の姿に戻った。

「仲間のため・・・って事か。」

その目には、変わらぬ笑み。話し方も、元に戻っていた。

「僕はそういう考え方は嫌いじゃないよ。でも、一つどうかな、ってところがあるんだけど。」
「え?」

デクスの顔から、笑みが消えた。

「命の危機・・・。そのときは、できるだけ保身を図ったほうがいい。もし死んでしまったら・・・その仲間たちとも会えなくなるよ。」

デクスはそう言い残し、部屋の外へと出て行った。

「デクスさん・・・。それでも私は・・・。」

麻耶も、その後を追った。


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