第30話「ひとまず休息」
マレブランケを退けた流駆たち。
とりあえず、出発するにはもう遅いということでこの日はこの家に一泊することとなった。
「・・・総勢10人の食卓か・・・。デクス、食材は足りるか?」
「ん、どうにかなる。ただ10人分の量を作るとなると時間はかかると思うよ。」
とルインに答えながら冷蔵庫を漁るデクス。
「あんたもついてないわね。よりによってこんな時に料理当番なんて。」
「いいよ、料理自体は好きだし。」
レーゼの言葉にも、笑みを見せる。と、そこに流駆がやってきた。
「流石に大変だろ?俺たちが来たせいだし。何か手伝えることがあれば。」
その言葉を聞いたデクスは、少し考える素振りを見せて言った。
「・・・料理は出来るの?」
「たまに夕飯作ったりすることはあるけど。」
「なら、そこにあるものを使って何か作って。1人1品作れば2品出来るから。」
テーブルに並べられた食材を見る流駆。量はあるが、10人で食べるとすれば丁度無くなる程度だろう。
「・・・じゃあ、適当に見繕うか。」
流駆はいくつか野菜を持っていき、慣れた手つきで切っていく。しばらくは、互いに黙って料理を進めていた。
「・・・ところで。」
デクスが流駆に話し掛ける。
「流駆は料理が得意みたいだけど、他の4人はどうなの?」
「4人?・・・炎は料理のりの字も知らない。楓もあまり得意じゃなかったな。麻耶は結構やるって聞いた覚えがある。樹は不明。」
鍋に油を引きながら答える流駆。
「へぇ・・・でも流駆は手慣れてるよね。趣味?」
「いや、俺は母子家庭で育ったから。母親が仕事で帰ってこれない時は俺がやってた。」
再び、沈黙が訪れる。料理が進む中、今度は流駆が話し掛けた。
「デクスたちはどうだ?デクスは料理好きってのはさっき聞いたけど。」
「まず、リュカは出来なくは無いけど不器用。グラッドは食べる専門。ルインとレーゼはそれなりだよ。」
「そっちは、リュカが料理当番になったときは大変みたいだな。」
皮肉っぽく言う流駆に対し、デクスはやはり笑みを崩さない。
「確かに。あ、でもルインもたまに変な工夫するから・・・。」
「・・・それなりに楽しんでるだろ、この生活。」
「・・・ん、まぁね。」
今度は、完成まで言葉はなかった。
食卓。
流駆作の野菜炒めとデクス作のハンバーグはおおむね好評だった。
「ところで流駆たち・・・これからどうするの?」
リュカが不意に口を開く。
「・・・繋がりを閉じないと、モンスターは消えないんだろ?」
流駆が話し出した。
「それで、繋がりは六皇子が作ったのなら話は早い。多分この世界にいる六皇子を探して、倒す。」
その口調は、周りに有無を言わさぬほどの強い口調だった。
「その結果、リュカ以外の4人が人間に戻れるかどうかは解らない。でもまぁ、やらないよりはいいだろ。」
誰も、口を開こうとはしない。だが、仲間の4人は。
「よっしゃ、やるぜ!六皇子を倒すのは俺に任せろ!」
「六皇子。・・・まぁ、どうにかなるわね。」
「勝てるかは解りませんが・・・全力を出します。」
「大丈夫だって。僕がいるんだし!」
結局、全員が六皇子討伐に賛成のようだ。
「・・・お前達は、無鉄砲の集団か?六皇子だぞ・・・。」
呆れた感じでルイン。
「大丈夫よ。この中で本当に無鉄砲なのは炎だから。」
「物事を考えるのは面倒だからな!」
「・・・自慢できることじゃないぞ、炎・・・。」
確かに。
「・・・でも実際問題、相手は六皇子なんだよ?絶対ただじゃすまないよ。それでもやるのかい?」
真面目な口調で、レーゼが訊ねる。
「ひとまずの目的だ。目的。漠然と旅してたって繋がりが閉じれるとは思ってなかったしな。」
流駆は、苦笑交じりに答えた。たいしたことじゃない、というような。
「・・・まぁ、いいわ。どうせ何を言っても聞く耳は持たないでしょうし。それよりも・・・。」
「それよりも?」
リュカの言葉に、全員がリュカのほうを向く。
「ここにいる10人、全員でジャンケンしましょう。敗者1名、後片付けよ。」
テーブルの上には10人分の食器。・・・食卓は、異様な雰囲気に様変わりした。
結局、後片付けをしたのは流駆だったということを報告しておく。
「・・・終わった・・・。」
台所から、フラフラになった流駆が出てくる。
リビングには、既に雑魚寝の態勢が整えられている。男性軍は雑魚寝、女性軍は各部屋に割り当てられている。
「ご苦労様。・・・大丈夫かい?」
「今度は誰も手伝いに来なかったし・・・。きついったらありゃしない・・・。」
労いの言葉をかけるデクスに対し、愚痴をこぼす流駆。
「ジャンケンで負けたお前が悪いと言ってしまえばそれまでだが・・・不運だったな。」
ルインも、哀れむように声をかける。
「・・・で、炎とグラッドは・・・」
「グワゴゴゴゴ・・・」「ゴー、ガ―・・・」
何の擬音かと言えば、炎とグラッドの鼾である。
「炎も酷いが、グラッドも相当だな。」
「あぁ・・・。しかし、2人ともなんでこんなに寝付きがいいんだ・・・?」
それは作者しか解らない。
「・・・まぁいい。私たちもそろそろ寝るべきだと思うぞ。」
「え?・・・本当だ、もうこんな時間なんだね。」
「確かに・・・。このまま倒れれば、間違いなく寝れるだろうな・・・。」
もはや、足元がおぼついていない流駆。疲労のためである。
「・・・シャワーでも浴びて、すっきりしてから寝たら?そのままだと寝ても寝苦しいと思うけど・・・?」
「・・・確かに。でも、使わせてもらっていいのか?」
「ケチ臭いことを言うな。お前以外の全員は一風呂浴びてるんだ。」
2人に勧められ、浴室へと赴こうとする流駆だったが、不意にその足を止めた。
「そうだ、聞き忘れてたことがあるんだけど。」
「何だ?」
ルインが応じる。
「昼間の話じゃ、もう一人ワルキュリアがいたみたいだけど、そいつはどうした?」
「・・・彼女も、恐らくはこちらの世界にいる。確かリュカはセネスと呼んでいたか・・・彼女も、繋がりに飛び込もうとするところを見た。」
「別の所に出て来てしまったみたいなんだけどね。それ以降、リュカも探してみてるんだけど・・・向こうからの連絡もないし、手掛かりもないんだ。」
「ふぅん・・・。」
流駆は詳細を訊ねようとはしない。
「もし詳しいことを知りたいなら、明日リュカに聞くといい。彼女が一番よく知ってるはずだからな。」
「解った・・・。」
流駆が浴室へ消えていくのを見送ってから、ルインとデクスは床についた。
翌朝。
昨日の夕食の余りを適当に食べ、出発の準備を整える。
「・・・ところで、ここにいたみんなはどうするの?」
樹が、思い出したように尋ねる。
「あぁ、みんなあんたたちについて行くつもりだけど?」
「全員?・・・総勢10人・・・かなり、賑やかな旅になりそうね・・・。」
さらりと言うレーゼに対し、楓が苦笑で答える。
「でも、移動手段はどうするの?私のスカイ・ワイバーン、炎のファイア・ドラゴン・・・。
それと今は出してないけど、流駆は確か『ホルス』をデックに入れてたわよね。」
「あぁ、確かに入ってる。あんまり目立ちたくないから使ってないけど。」
太陽鳥とも呼ばれるらしい『ホルス』は聖属性レベル7、6/6、飛行。聖スペルとオールスペルを1つずつ所有し、その身に再生の輝きを秘める。
「それも呼んでもらって・・・それでも厳しいわね・・・。ルイン、あなたは自前で飛んでいってくれない?」
「楓、お前はさらりときついことを言うのだな・・・。」
ルインのこめかみに一筋の汗。
「それでは目立ちすぎるでしょう?・・・どうやって同行するかも決めてあるんだけど。」
リュカが助け舟を出す。
「決めてあるって・・・どうやってなんですか?」
「簡単。こうよ・・・。」
リュカの呟きとともに、5人が一斉に淡い光に包まれる。それが収まった時には、その姿はなかった。
「み、皆さん?どこに行ったんですか!?」
「足元だよ、足元!」
うろたえる麻耶に対し、グラッドの声が響く。足元を見れば、そこにはカードが落ちていた。
ブリュンヒルド、スルト、マルドゥーク、オセ、キュベレイの5枚のカード。
「これなら簡単について行けるでしょう?1枚ずつ、それぞれのカードをデックに入れて。」
「なるほど、カード化ね・・・。」
楓が感心したように言う。
「あたし達は普通の召喚をすればもちろん出てくるけど、自分勝手に出ても来れるんだ。だから何かあったらすぐ出て行くからね!覚えといでよ!」
レーゼが付け加える。
「了解。じゃあ、一言パートナーに挨拶でもした方がいいかしら?」
おどけたように楓はマルドゥーク・・・ルインのカードを拾い上げる。
「ルイン、一応よろしく頼むわね。」
「こちらの台詞だ・・・。」
次に、炎がスルトのカードを拾う。
「炎!お前を頼りにしてるぜ!」
「おう!俺に任せとけ!」
樹が、キュベレイのカードを手に取る。
「レーゼ、長い付き合いになるかもよ?」
「途中でへこたれたら、承知しないからね!」
麻耶も、オセのカードと向かい合う。
「デクスさん、これからよろしくお願いします。」
「こちらからもよろしく。僕も、そしてオセも君を信用しているよ。」
そして、流駆がブリュンヒルド、即ちリュカのカードを翳すようにして見上げる。
「流駆・・・貴方の六皇子を倒すという言葉、信じますよ。」
「正確には俺が、じゃない。俺たちが、だぞ。まぁ・・・よろしく頼むよ、採魂の女神様。」
各々が、デックにカードを投入する。
「よし・・・、じゃ、出発するか!」
流駆たちは、再び空へと飛び立った。六皇子撃破という新たな目標を持って。