第36話「久々の襲撃」


サルガタナスを撃破してから数日後。
一同は、とりあえずリュカたちの家に戻って体力を回復し、次にどの六皇子の所へ向かうか相談していた。

「・・・で、どいつにする?」
「そうだな・・・ベリアルにダゴン、ベルゼブブ・・・どいつが斃しやすいか、それにもよるが・・・。」

流駆とルインが中心になって話しているが、会話に参加していないのもいる。

「どこだっていいじゃん。それよりもさ、早く出発しようよ。」
「どいつにしたって大丈夫だぜ、俺に任せとけばな!」

樹と、炎である。早くも出発の準備が整っている。

「あんた達・・・いいかい?今日中には決める。その代わり、今日は出発しない。今からじゃちょっと遅いわよ。」

レーゼが言い放つ。現在、PM3:00。今から出発すれば、どこへ行くにしても日が暮れる。

「・・・話を戻して。どいつが斃しやすいといってもなぁ・・・どいつも厄介だろ?」
「元も子もないな。事実、その通りだがな。」

しばし、沈黙が流れる。

「ベリアル、ダゴン、ベルゼブブの性格・・・って解るか?」
「性格・・・?そんなものを聞いてどうなる。」
「どいつがいなしやすいか。もう、そのぐらいしか判断基準が思いつかない。」

肩を竦めながら、流駆が言う。

「しかし性格といっても・・・。」
「私、解らなくもないわよ。」

そう言ったのは、リュカ。

「リュカ、解るのか?」
「繋がりの儀式を妨害するためにセネスと乗り込んだ時、大体の性格は把握したつもりよ。
ベリアルは血気盛んの猪突猛進型。ダゴンは頭に血が回ってないんじゃないかしら。ベルゼブブは・・・あれは、やな奴ね。」

リュカとは思えぬ、無茶苦茶辛辣な台詞である。

「何でやな奴って・・・?」
「なんとなくよ。そんな笑い方をしてたわ。」

さらりと言うリュカ。流駆は呆れ返っている。

「呆れた・・・。じゃあ、アスタロトとアスモデウスの性格は?」
「その2体はよく解らない。あまり感情的になってなかったみたいだから。」

「で・・・結局どうすんのさ。流駆、あんたが決めなきゃ駄目なのよ。」

レーゼがイライラした表情で言う。彼女も、話し合いは得意ではないタイプのようだ。

「そうだな・・・。」

流駆が腕組みをして考え始めた、その時。

「・・・あれ?窓の外・・・。」

ボーっとしていた樹の一言で、全員が窓の方向を見る。

「麻耶たちだな。買出しに出ていた・・・何であんな走ってるんだ?」

流駆が窓を開けて、全力疾走している買出し軍団・・・麻耶、楓、デクス、グラッド(荷物持ち)に声をかけようとする。

「・・・おーい、何そんなに急いで・・・。」
「流駆さん、窓を閉めてください!危ないですよ!」

麻耶の叫び声を聞き、反射的に窓を閉める流駆。やがて、麻耶たちも家の中へと駆け込んできた。

「どうしたの?そんなに走って・・・何かあったの?」
「・・・ダークネスよ。また誰か刺客を送り込んできたみたい。」

肩で息をしながら、楓が答えた。

「ダークネスか・・・話の都合上、チョイ役に成り下がったらしい・・・。」

余計なことは言うな、流駆。

「ダークネス・・・?聞いたこと無い言葉ね。」
「そういやリュカたちには詳しく話してなかったな・・・えっと・・・」

説明割愛。

「なるほど・・・繋がりの魔力も少なからず影響してるんでしょうね。」
「基本的に数で押すだけだから対したことは無いんだけどな。
ところで・・・麻耶、あれだけ走ってるんだから、何かに追われてたんだろ?一体何に・・・?」

麻耶の方へ向き直って訊く流駆。

「・・・『ススメバチの大群』と、『羽虫の群れ』です。しかも、相当な数で・・・。」
「窓を開けておくと危ないというのはそのせいか。・・・しかし麻耶、これではどうにもならんぞ・・・。」

ルインが窓を指差すと、そのスズメバチの大群と羽虫の群れが家中を取り巻いていた。

「・・・す、すいません・・・。」
「謝ることはないわ。でも・・・どうする?」
「俺がスルトになって、レーヴァテインで焼き払えばいいんじゃねぇのか?」

グラッドが、そうしたいと言わんばかりの表情で言う。

「・・・グラッド、そうすると、多分完全防火性のグラッドの部屋以外はこの家燃えるよ?」
「うっ・・・。」

穏やかな表情を崩さずに言うデクス。グラッドは言葉に詰まった。

「それに、モンスターになるってことは半人半魔だってことがばれる。そうしたら厄介だろうし・・・実際、嫌だろ?」
「・・・まぁ、確かにね・・・。でも、あんた達だけでいいのかい?」
「余裕!僕たちならきっと楽勝だよ!レーゼたちは、ここで待機していて!」

そう言って入り口から打って出ようとする樹の襟を、流駆が掴む。

「まて、樹。今出たって、スズメバチに刺されて終わるぞ。」
「じゃあどうすんのさ?」
「・・・確かグラッドの部屋は、天井が開くようになってるんだよな。そこから行くぞ。きっと盲点だ。」

流駆たちは、グラッドの部屋へと走り出した。
































「よし、やっぱりここは大丈夫だ。・・・まず俺が行こう。そうしてからグラヴィトンで一人ずつ上げていけばいい。」

さすがに、梯子などという都合のいいものは無いようだ。まず流駆がグラヴィトンで飛び上がり、窓を開けて外に出る。

「・・・さて、じゃあ次は・・・!」

と考えた刹那、振り向いてジャスティスを放つ。流駆を狙っていた『パイロ・ホーネット』が地に落ちて、カードに戻った。

「窓閉めるぞ!」
「えっ!?」
「勘付かれてた!中にインセクトが入ったら厄介だ、俺一人でどうにかする!」

そう言い放つと、流駆は窓を閉めてしまった。

「流駆!」
「・・・もう遅いわ。今開けに行ったら、虫たちが雪崩れ込んでくるわよ。」
「くっそ・・・流駆、死ぬなよ!」
「流駆さん、気をつけてください!」



























「一人で出てくるとは・・・度胸があるな、お前。」

そう流駆にいうのは、巨大な甲虫『トライホーン』に跨っている男。

「俺の名は・・・」
「刺客Aだろ?ダークネスの刺客A。実際はBとかかもしれないけど。」

刺客Aの自己紹介を遮って、挑発をする流駆。

「・・・失礼なガキめ。虫たちに巻かれろ!」

その一言で、それまで家を取り巻いていた虫たちが一斉に流駆へと向かった。
それこそスズメバチや羽虫、巨大な蜻蛉やゴキブリ、『鉄砲蟲』・・・。だが、全く流駆は動じない。

「その虫の群れの中に、黒曜虫も混ぜとけばよかったのにな。『ブルー・メイルシュトローム』!」

流駆の翳したカードから発生した潮流が、虫たちを飲み込んでカードに戻した。
『ブルー・メイルシュトローム』は津波系の攻撃対抗スペルである。

「終わりか?」
「・・・そんなわけなぇだろが。来い!」

刺客Aがカードを天に掲げると、なんか嫌な感じのものが召喚された。









「あれは・・・!」

窓の外を見ていた麻耶が、驚愕の声を上げる。

「『アバドン』か!あれだけのインセクトを倒した後だ、厄介な相手だぞ・・・!」

『アバドン』。その正体は、蝗を寄せ集めて鎧としたインセクト。
基本能力こそ2/2だが、カードに戻ったインセクトを取り込むことでその能力を無限に増大させる。

案の定、地に落ちていたカードが浮かび上がり、それを蝗たちが食い荒らす。すると、アバドンが一回り大きくなった。

「アバドン、ね・・・。さして驚くほどでもないな。」
「言うじゃねぇか。だが・・・こいつにお前は敗北を喫するんだよ!」

刺客Aの叫び声をきっかけに、アバドンは流駆へと向かってきた。流駆は反対側へ走り出す。

「・・・でやぁっ!」

気合を入れて、屋根の上から地面へと飛び降りる流駆。僥倖のなせる技か、見事に着地に成功した。すかさず、流駆は召喚の体勢に入った。

「逃がすかよっ・・・!」

様子が見えない刺客Aはその方向へとアバドンを進ませる。だが、突如物陰から伸びてきた「何か」によってアバドンは動きを止めた。

「な、何だ!?アバドン、どうした!」

資格Aが叫ぶが、アバドンは立て続けに伸びてくる何かによって弱っている。
そして、とうとうその何かがアバドンの核らしき部分へとぶつかる。アバドンは苦しみながら、カードへと戻ってしまった。

「アバドン!?」
「残念だな。こいつが俺のデックに入ってて。」

流駆は、水属性のユニット『ポイズン・トード』と共に物陰から出てきた。
ポイズン・トードが持つ能力『鉄砲舌』は、インセクトやクリムゾンを即死させる。

「どうする?次はそのトライホーンでも狙ってやろうか?」
「・・・くそっ!覚えてろよ!」

刺客Aは、悔しそうに撤収していった。


















「・・・でも流駆、よく1人であそこまでやるわね。」

日が暮れて、夕食が終了した所である。リュカが流駆のことを誉めていた。

「あれは黒曜虫がいなくて幸運だったということにしてくれ。いたら、多分俺は今ごろベッドの上だ。」

苦笑しながら流駆が応える。そこに、ルインの声が割り込んできた。

「ところで・・・肝心要の六皇子はどうする?次はどいつか決めたのか?」
「そのことなんだけど・・・これで決めようと思う。」

そう言いながら流駆がポケットから取り出したのは、ダイス。

「・・・それで決めるの?」
「どうせ距離的に一緒なんだろ。だったら、こいつで十分だ。1か2でベリアル、3か4でダゴン、5か6でベルゼブブ・・・。」

そう言いながら流駆がサイコロを放る。出目は・・・1。

「決まりだな。次は、灼熱の王ベリアルのところへ。」

一同、一斉に頷く。

「・・・そうだ、貴方たちに渡すものがあったんだわ・・・。」

リュカがすっと立ち上がり、奥へと消える。しばらくすると、護符らしきペンダントを5つ持って戻って来た。

「これはね、貴方たちの意志力に応じて身を守ってくれる護符よ。これから先、貴方たちは今まで以上に危険に晒されると思うから・・・。」
「身を守るって・・・具体的にはどういう風に?それに、意志力って。」
「意志力は言葉通りの意味よ。身を守るというのは、スペルなどに対する抵抗力を高めるということ。」

流駆たちは、首を傾げながらもその護符を身につける。アイテムとは別物らしく、その他の装備もそのままでいいらしい。

「じゃあ、最後に・・・またジャンケンよ。負けた人1人、後片付け。」

さらりと言い放つリュカ。第30話のように、異様な雰囲気となった。







そして、負けたのはやはり流駆だったという・・・。


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