第41話「思わぬ遭遇」
ベリアルを倒し、リュカたちの家に戻って来た一行。
「それにしても、麻耶。よく無事だったわね。」
「リュカさんがくれた護符と、流駆さんのリジェネレーションのおかげです。でも・・・お互い様ですよ、それは。」
台所に立ちながら、他愛もない会話をする楓と麻耶。料理当番である。
「・・・それにしても、料理するのもだいぶ久しぶりな気がするわ・・・。あ、塩、塩・・・。」
「塩ならここ・・・って、楓さん、それ砂糖・・・。」
大丈夫なのか?
「流駆、あの2人に任せて大丈夫なの?夕飯。」
「さぁ・・・。楓の失敗を麻耶がフォローしてるんだろうな。」
リビングにいる流駆と樹。流駆の意見は、正しい。
「・・・じゃ、ここは任せる。」
「え?どっか行くの?」
「デックの調整。俺、1人じゃないと出来ないんだ、これは。」
「待って、他の皆はどこ?」
「リュカは自分の部屋でレーゼと裁縫してるし、炎とグラッドは昼寝中、ルインとデクスは散歩中だ。俺はルインの部屋を借りてるから。」
そう言って、流駆は奥の部屋へと消えた。リビングには、樹のみが残っている。
「・・・皆いなくなっちゃった。」
一人呟くが、誰も応えはしない。
「・・・しょうがない、僕も散歩にでも行こう・・・。」
立ち上がり、ドルクレイの腕輪とデックだけを持って家を出て行く樹だった。
「ふぅ。」
近場の公園にたどり着いて、とりあえずベンチに腰掛ける樹。
「何だ、子供は遊んでる・・・。心配してるのって、僕らと大人だけなのかも。」
樹が言うように、その公園では何人かの子供が走り回っている。とりあえず今は近くにモンスターの気配はない。
「・・・そういえば、あれ以来連れ戻すってのは来ないな・・・。諦めたのかな。」
連れ戻す。彼女の母親、理香の狙いである。
「・・・本当に諦めたと思って?」
「!!」
唐突に、背後から声がかけられる。咄嗟に振り向く樹。
「なっ・・・。」
「久しぶりね、樹。帰るわよ。」
驚きに絶句する樹。声をかけたのは、まさにその母親だった。
「な、何でこんな所に!?」
「そんなことはどうだっていいのよ。行くわよ。」
「・・・嫌だよ!」
腕を掴もうとする理香から、さっと離れる樹。
「樹、自分の立場を解ってるわけ?あの子たちについて行って、迷惑してるという自覚はないの?」
押し黙る樹。理香は更に言葉を続ける。
「いくらあんな化け物たちを呼べたからって、何の得にもなりはしないわ。」
「化け物って・・・!」
「モンスター、でしょ?同じよ。」
樹は、俯いて全く反論できないでいる。
「全く、大人しく家を継げば楽に仕事と財産が手に入るのに。ナンセンスね。」
「僕は、そんなの・・・。」
「・・・いい加減にしなさい。」
怒りが、声に篭った。
「あなたは神奈家の娘よ。その時点で、もう他の人間とは違う。解ってるわけ?」
「そんなこと、ない・・!」
「このまま家に戻って、神奈家を継ぐ。それがあなたにとって1番良く、1番幸せな道なのよ。」
この時点で、樹は完全に理香の言葉に飲まれたように見える。
「・・・連れて行きなさい。」
理香が言うと、周りに潜んでいたのかいつかの黒服たちが出現する。
「お嬢さん、どうか大人しくついて来て・・・?」
手を伸ばす黒服から、離れる樹。
「・・・やっぱり違う。」
「何ですって?」
訝しげに眉根を寄せる理香。
「僕の幸せが神奈家を継ぐこと?何でそんなことが解るんだ。」
「簡単よ。他の人生じゃ不幸になるだけだってことは目に見えているからだわ。」
「冗談!」
樹が、指を理香に突きつける。
「僕の幸せは僕が決める!あんたが決めた幸せなんてお断りだよ!」
「それで、あの子たちに迷惑を掛けるの?」
「多分。でも、それ以上に僕はあの中で役に立って見せる!」
言い切る樹だが、理香は嘲笑を返した。
「フフフ・・・自分の娘ながら、あなたがここまで馬鹿だとは思わなかったわ。」
「何だって・・・!?」
「それは貴方の驕りよ。あなた、何ができるの?」
再度、押し黙る樹。
「まぁ、今何も出来ないとしても、家に戻って教育を受ければ十分家を継ぐに相応しい人格になるわよ・・・。」
そう言い放ち、再度黒服たちに連れて行くよう命ずる。
「まだ歯向かう様なら、多少手荒でもいいわ。」
その言葉を受け、今度は数人で樹を取り押さえようとする黒服たち。だがその時、樹が一枚のカードを取り出した。
「・・・来るな。」
鬼気迫る樹の表情。黒服たちも、思わず動きを止める。
「これは『クラック』だ・・・発動させれば、ただじゃすまないよ。」
「紙切れ一枚で何が出来るの。いいから取り押さえなさい。」
だが、以前樹たちと戦った経験のある黒服たちは動かない。本当に発動する、ということを知っているからだ。
「お嬢さん、悪ふざけはいけねぇな、さぁ・・・。」
「・・・ええい!」
その戦いに参加していなかった一人が近寄る。だが、樹は素早く開いている左手で別のカードを放った。
「うぉっ・・・なんだぁ!?」
『グラヴィトン』が発動し、その黒服を宙に浮かべた。
「・・・ただの紙切れじゃないよ。」
「呆れた・・・。そこまでして家を継ごうとしない理由は何なの?」
真剣な口調で、理香が尋ねる。樹は、間髪入れずに応えた。
「僕は、あんたが大っ嫌いだ。元々継ぐ気なんてどこにもなかった。それに・・・。」
「それに。」
声が、一回り大きくなった。
「約束したんだ、六皇子を倒すって!」
その言葉の直後、あたりに黒い霧が立ち込めた。
「な、何なの!?」
「『ブラック・フォッグ』・・・!誰が・・・!」
焦る一同。そんな中、樹の手を掴んで引っ張る人物がいた。
「樹、こっちに。」
「だ、誰!?」
「僕だよ、デクスだよ。」
そう言われ、聞き覚えのある声だと気づく樹。大人しく、引っ張られるに従う。
「樹を、確保しなさい!逃がしちゃ駄目よ!」
「『アヴァランチ』!」
今度は、ルインの声が響いた。虚空から雪崩が起こり、理香やその配下を足止めする。
「ええい・・・樹!」
雪崩が消え去ると、そこにはもう樹の姿は無かった。
「・・・逃げ切れると思ったら間違いよ、樹・・・。」
憎憎しい声で呟く理香であった。
「ってことがあったんだ・・・。」
家の食卓。夕食が並べられているが、その前に樹が昼間のことを話し出したのだ。
「樹の家の事情は聞いていたけど、まさかここまでやるなんてね。」
「とりあえず昼間は逃げるのに手を貸したが・・・。」
ルインが、樹を見る・・・いや、睨む。
「いずれは、決着をつけねばならない問題だ。その時は手を貸さないぞ。」
「まぁルイン、いいじゃないのさ。樹は今、六皇子を倒すほうが忙しいんだろ?」
「レーゼ・・・。」
幾分強張っていた樹の表情が、少し緩む。
「でも、僕って勢いでついて来ただけだよね。・・・正直、迷惑じゃなかった?」
その言葉に、わざとらしく盛大に溜息をついた人物がいた。流駆である。
「流駆?」
「あのな、前に麻耶にも言ったんだけど・・・。」
小首を傾げる樹。
「俺が今まで・・・この2人にかけられた迷惑に比べれば、このぐらいは迷惑のうちに入らねぇよ。」
炎と楓を順に指差しながら流駆が言う。
「おいおい流駆、冗談きついぜ?」
「そうよ、炎はともかく、私がいつ迷惑を掛けたって言うのよ。」
流石に、口を尖らせる炎と楓。だが、流駆は軽く受け流す。
「この2人は迷惑をかけたという事さえ解っていないんだ。気にすんなよ。」
「・・・解った。流駆、ありがとう。」
樹の顔から、強張りが消えた。
「・・・なんかごめんね、僕のせいで夕飯に出来なくて。食べよう!頂きます!」
と言うが早いが、目の前にあるおかずを取る樹。それを見た麻耶が顔色を変えた。
「あっ、樹さん、それは・・・!」
と言う麻耶の制止は遅かった。おかずを口にした樹の表情が、凍る。
「ま、麻耶、これって・・・こんなに甘いの・・・?」
「あ、えっと、それは・・・。」
「あら、駄目かしらそれ?」
楓が、樹が持っていた皿を取る。
「塩と間違えて砂糖入れちゃったから、あえて違う味付けにしてみたんだけど。」
「どれ、俺にも食わせてみな。」
「私も食べてみたいわね。」
グラッド、リュカがそれぞれ一口食べる。・・・次々と表情が凍る。
「・・・ま、こんな感じで迷惑をかけていくわけだな。樹、麻耶もだけど、気負うことはねぇよ。」
流駆が、皮肉気な笑みを浮かべて言う。少しして、食卓が笑いに包まれた。