第42話「寝る子は・・・」


樹が母親と遭遇した翌日、朝。

「・・・ふぁ・・・。」

雑魚寝の集団の中から、流駆が這いずり出てきた。

「7時か・・・ん?」

時間を確認した流駆が、何かに気付く。普段ならもうキッチンに立っているはずの料理当番がいないのだ。

「あの2人、寝坊か・・・。」

あの2人とは、楓と麻耶。昨晩に引き続いて、料理当番となっていた。

「昨日のは全部平らげたしな・・・。仕方ない、何か作るか・・・。」

と呟きつつ、流駆が冷蔵庫を開けると。

「・・・・・・(汗)」

料理に使えそうなものは、何も無かった。

「・・・仕方ない、もう一度寝るか・・・。」

流駆が自分の寝床に向き直ると。

「グォー・・・」

隣にいたはずの炎が、流駆の寝床まで占領していた。

「(嘆息)・・・顔洗ってくるか・・・。」

起きてまだ十数分なのに、早くも疲れた表情の流駆。フラフラと洗面所へ向かい、洗面を済ませる。

「・・・7時15分・・・朝飯も無いのに起こすのもな。そのうち起きてくるだろ。」

そう言いながら流駆が持ち出したのは、1冊の本。ルインから借りた、戦闘スペルについての本である。




















カッ、カッ、カッ・・・と、階段を下りてくる足音が聞こえる。

「あ、流駆さん。おはようございます。」
「お、麻耶。おはよ。」

挨拶を交わしつつ、階段を下りきる麻耶。

「流駆さん、今日は早いんですね。料理当番は私なのに・・・。」

と言う麻耶に対し、ガクッとなる流駆。

「・・・流駆さん?どうしました?」
「いや、早いって・・・時計見てないのか?」
「あ・・・私が使っているデクスさんの部屋・・・時計が無いんです。」

思わず、未だに寝息を立てているデクスを睨む流駆。そして、麻耶に向き直る。

「麻耶、あれ見ろ。」
「え?」

流駆が指差した先にかけられていた時計。そろそろ、10時50分になろうかというところか。

「・・・あ、あの時計って、進んでましたっけ・・・?」
「割と正確だ。俺の腕時計も同じ時間を示してるしな。」

麻耶の顔色が変わった。

「・・・い、急いで朝御飯用意しないと・・・!」
「待て、麻耶・・・。」

流駆が止める間も無く、焦ってキッチンへと向かう麻耶。と、そこにやはり焦った表情の楓が階段を下りてきた。

「よ、楓。」
「あら、流駆・・・まさか寝過ごすなんて・・・!」

こちらもキッチンへと向かう。流駆も額を押さえながら、キッチンへ行った。

「悪いわね、麻耶!寝坊しちゃって・・・麻耶?」
「・・・楓さん、どうしましょう・・・何にも無いんですけど。」

冷蔵庫の前で固まる2人。そこに流駆がやって来た。

「・・・まぁそんな感じだ。何にも出来ないから俺も誰も起こさなかったんだけどな。」

3人でリビングへと戻る。すると、ルインが起きていた。

「いったい何だ、こんな朝早くから物音を立てて・・・。」

微妙に不満な様子だが、現時刻を知るとやはり動きが止まった。

「今日はいったいどうしたんだ?俺以外、皆寝坊かよ。」

流駆がぼやく。誰一人反論できない。

「まだ6人起きてないし、この調子じゃ今日六皇子のところへ行くのは無理かな・・・。」
「・・・そうかしら?今から6人を起こして、すぐ出発すれば・・・。」

時間としては、そろそろ11時になる。

「それは無理だな。」
「何で?」
「朝食無しだと、この2人がごねるからだ。」

炎とグラッドを交互に見る流駆。楓も、納得の表情になった。

「・・・今日は自由行動だな。寝坊した私が言える立場でもないが・・・たまにはいいだろう。」

ルインの言葉に3人が同意を示した所で、上からリュカが下りてきた。

「・・・ごめんなさい、寝坊しちゃったわ。」
「ワルキュリアでも、寝坊したりするんですね。」

麻耶が、微笑を浮かべて言う。言われたリュカも、苦笑した。

「さて・・・自由行動はいいけど、冷蔵庫が空じゃな。いつも通り買出しの面々を選ぼう。」
「・・・冷蔵庫が、空?」
「あぁ。見事なぐらい。昨夜のも残ってないし。」

と、ここですぐそこにいたデクスがようやく目を覚ました。

「・・・あれ?皆今日は早いね。」
「ボケるな。もう11時過ぎてるぞ。」

何だかお約束になっている台詞を吐いたデクスに対して素早く突っ込む流駆。

「本当だ・・・よく寝たなぁ、僕。」
「・・・お前、実は神経太いだろ。」

呆れる流駆。すると、上からレーゼの声がした。

「悪いわね、寝坊しちゃって!・・・すぐ出発するかい?」

下りてきたレーゼに、今日は休みだと告げられる。

「休みっても、何するのさ。」

レーゼの言葉に、全員が考え込む。その時だった。

「うわわ、わわわわっ!」

ドシン、バタンというまるで漫画のような擬音が鳴り響く。

「楓さん、今の声って・・・。」
「樹ね。」

しばらくすると、樹がつんのめった感じで出てきた。服も満足に着れていない。

「ごめん!気付いたらこんな時間になってて・・・!」
「・・・ゆっくりでいいから、まずちゃんと服を着たら?」

リュカにそう言われ、慌てて服に袖を通す。

「・・・これでいいかな。」
「樹、それ後ろ前逆じゃないか?」
「え?あっ・・・。」

流駆の言うように、服のタグが前に来ている。焦って着直す。

「これで、まだ寝てるのは・・・。」
「この2人、だな。」

ルインが炎とグラッドを見据える。すると。

「・・・何だ、もう朝飯か?」

むくりと、グラッドが身を起こした。ただ、もう朝食には遅い時間である。

「・・・着換えて来い。その間に炎起こすから。」

流駆の言葉を受け、自分の部屋へと向かうグラッド。

「さて・・・炎、お前もいい加減起きろ。」
「流駆、ちょっとどいて。」

流駆が普通に声をかける所に、楓が割って入る。そして、彼女は黄金の槍を手にした。

「か、楓さん!?」
「炎・・・そろそろ、起きなさい。」

楓は、柄の部分を炎の頭に落とした。・・・小気味良い音がした。

「あだっ!・・・あれ、もう朝か?」
「炎、寝坊よ。もう11時過ぎてるわよ。」

素早く黄金の槍を消した楓が、白々しく言う。

「あ、あの、流駆さん。」
「ん?麻耶、どうした?」
「あんな事して、炎さんは大丈夫なんですか・・・?」
「大丈夫。授業中、俺や楓は寝てるあいつをよく教科書の角で叩いて起こしてたんだし。」

そういう問題ではない・・・と麻耶は思ったが、あえて何も言わなかった。

珍しく完全な休息日、彼等は何をして過ごすのだろうか。


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