第43話「平穏な1日」


「・・・休み?」

ここは、流駆たちがいつも買出しに来ていた店の前。モンスターが出現した後でも営業していたのだが・・・。

「そういえば、今日は定休日だったような気がする・・・。」

買出し組の流駆の呟きを受けて、デクスが言う。

「参ったわね。この近く、他に食料品店って無いのよ。」
「えっ、そうなんですか?じゃあ・・・。」
「・・・朝、昼どころか・・・今日は絶食か?」

4人・・・流駆、麻耶、リュカ、デクス・・・の腹の虫が、同時に鳴った。

『・・・・・・。』

気まずい沈黙。

「・・・帰りますか?」
「それは・・・すぐだと、みんなの顰蹙を買いそうだね・・・。」

「それなら時間潰して、適当に口裏を合わせりゃいいだろ?」

流駆の提案。とりあえず、それでいくことにした。

「・・・でも、時間を潰すって言っても、どうします?」
「あぁ、俺ちょっと行きたいところがあるんだ。」
「何処です?」

少し考える素振りを見せる流駆だが、すぐに応える。

「カードショップ。」
「カードショップ?流駆さん、それって・・・。」
「そ。最近、新しいカードセットはご無沙汰だったろ。そんなに金があるわけじゃないけど、少しなら。」

流駆と麻耶との会話に、リュカとデクスはついていけない。

「流駆、麻耶、いったい何を?」
「あぁ・・・来れば解る。」

4人は一路、カード屋に向かった。























一方、留守番の6人。

「あれ?これって・・・。」

ぶらぶらしていた樹が、流駆が読みかけていた本を手にする。

「・・・うわ、難しい。流駆って、こんな本ばっか読むのかな。」
「そうでもねぇよ。まぁ、漫画と小説を同じくらい読む奴だけど。」

横から、炎が口を出す。

「でも、あいつこんな本持ってたか?」
「持ってるわけが無いだろう。それは私の本だ。」

ルインもやってきた。

「そうなの?・・・何の本?」
「表紙ぐらい見ろ。」

ルインに言われて樹が表紙を見る。タイトルは、「COMBAT SPELL FOR BEGINER」。

「「初心者のための戦闘スペル」・・・?流駆、初心者じゃないじゃん。」
「だが、カードを使っているだろう。ここは六門世界ではないから仕方ないかもしれんがな。」

へぇ、と樹が溜息をつく。

「なんなら、試してみるか?」
「試す?」
「この本には、カード無しでスペルを使う手段が記されている。やってみるか?」
「やる!出来たら凄いよ!炎もやろう!」
「よっしゃ、今いない流駆と麻耶を驚かせてやるか!」

と、炎と樹はルインの部屋へと向かう。途中、楓も抱き込んだ。

「えっと・・・で、どうすればいいの?」
「読め。」

ルインが本を指差す。楓が本を取って、読み出した。

「『ウィンド・カッター』・・・”風よ、集いて敵を切り裂け”・・・これを詠唱するの?」
「そうだ。無論、集中力も必要になるぞ。」

ルインの言葉を受けて、3人は本を見ながら集中を始めてみた。

「やってみるぜ・・・火よ、槍と成して焼殺せよ・・・フレイム・ストライク!」
「風よ、集いて敵を切り裂け・・・ウィンド・カッター!」
「僕も・・・土よ、その守りを我が身に・・・エンデュランス!」

三者三様の詠唱。だが、誰一人として反応が無い。

「・・・あれ?」
「そう簡単にできるものではない。まぁ、練習あるのみだな。」

そう言って、ルインは部屋を出て行った。

「よおっし・・・土よ、その力を我が身に・・・ストライキング!」
「火よ、その力で破壊をもたらせ・・・バーン・アウト!」
「稲妻の束よ、我が敵を貫け・・・ライトニング・ボルト!」

様々な詠唱が聞こえる。

「ルイン、あの3人は何をやってるんだい?」

部屋を出たルインに、レーゼが話し掛ける。

「戦闘スペルの特訓だ。カード無しでのな。」
「カード無しで?この世界のあの子たちにできるのかい?」
「知らん。だが、絶対無理というわけではないし、当人たちがやる気だ。」

ルインはそれだけ言って、立ち去った。

「あ!楓凄い!少し電撃が出たよ!」
「もう一回、今の感じで・・・!」
「よっしゃ、俺も負けてらんねぇ!」

3人の、嬉々とした声がする。レーゼはその様子に、微笑を浮かべる。

「・・・頑張るわね。」
「よっしゃ、俺も少し手伝ってやろうかな?」

グラッドが、歩いてきた。

「あんた、人に教えられるほど戦闘スペル上手くないじゃない。」
「なに、あいつらよりは上手いぜ。よし!」

グラッドが、炎たちの中に乱入していった。

「・・・大丈夫かしらね。」























「ところで流駆さん、今幾ら持ってるんですか?」
「俺?あ〜・・・」

こちらはカードショップ・・・ではなく、大きめな書店。カードショップが閉店していたため、かなり遠出して来たのだ。

「・・・うん、買ったらこの近くにまだやってるお店があったから、そこに行こう。」

店の外を回ってきたデクスが声をかける。丁度、流駆と麻耶はブースター数パックを買い終わったところだった。

「あ、今行きます。」
「ねぇ麻耶、いったいそれには何が?」

リュカが、パックを持つ麻耶に話し掛ける。

「あ・・・どう説明すればいいでしょうか?」
「麻耶、1つ開けてみな。それで中身を見せればいいんだよ。」

麻耶が考えている所に、支払いを終えた流駆が口を出す。ここの費用は、彼の少ないポケットマネーから出た。

「あ、じゃあ・・・開けますね。」

麻耶がパックを1つ取り出し、封を破る。中には、何枚かのカード。

「へぇ、これで召喚が出来るの?」
「私たちは、ですね。」

しげしげとカードを見つめるデクス。

「・・・なんか複雑そうだな、リュカ。」
「そうもなるわね。極端な言い方をすれば、命を買ってることになるんだから。」

こちらは、やたら重い声で言う。まぁ、買うのが召喚術師であれば確かなことだろうが。

「・・・やな言い方だな。」
「そうね。でも・・・事実よ。」
「・・・。」

黙りこくった流駆。反論が出来ないのだ。

「リュカ、六門世界ではいったい・・・?」
「基本的に、モンスターと信頼関係を結んで、そのモンスターのカード・・・力を得るのよ。私たちと、流駆たちとの関係のようにね。」
「・・・いつも、あんな感じなのか?明らかに命が足りないだろ・・・。」

表情が萎える流駆。

「当然よ。自分の命を預けるのだからね。」
「そりゃそうだな。俺も頑張らないとな・・・。」
「私は貴方たちを信頼してるわ。それを裏切らないでね。」
「・・・後が怖そうだなおい。」

「流駆さん、リュカさん。」
「行こう、2人とも。」

麻耶とデクスの2人が流駆とリュカに声をかけたことで、会話は打ち切られた。























『ただいま。』

夕方、流駆たち4人が家に帰ってきた。

「お帰り。何買ってきたの?」
「・・・いや、それが・・・。」

流駆とデクスが背中に担いでいるもの・・・それは米。そして、麻耶が下げている袋に入っているのは卵。リュカの袋には、缶ジュースが10本ほど。

「・・・他には?」

レーゼの問いに、4人とも首を横に振る。

「・・・なんでまた。お金あったでしょ?」
「いや、金はあった。でも商品は無かった。いつもの店は休みだった。」

事の顛末は・・・

「・・・この騒ぎで買い付けが出来なくなってな。商品は完売。これは倉庫にあったのを慌てて出してきたんだ。」

と、これは店主のコメント。

「・・・で、こうなった。因みにそのジュースは自販機だ。」

一同、妙な空気に包まれる。

「・・・頑張ってよ、料理当番。」
「流駆とリュカだね。ついてないね・・・。」

と、一同は散っていった。後には、流駆とリュカだけが残される。

「うん・・・流駆?」
「・・・油に塩、胡椒ぐらいはあった。・・・チャーハンで決定だな。」

夕食のメニューは、卵チャーハンとなった。

























ささやかな夕食の後。

「そうだ。流駆、ちょっと見てて。」
「ん?」

樹の呼びかけに、立ち止まる流駆。

「お、樹、見せてやれ!」
「頑張って、樹!」

炎と楓の声援を受けて、樹は集中を深める。

「土よ、その力を我が身に・・・」
「それは・・・。」
「『ストライキング』!」

樹の詠唱を受けて、仄かな光が樹の腕に宿った。

「樹さん、凄い!カード無しで・・・!」

流駆ではなく、近くにいた麻耶が感嘆の声を上げる。

「・・・へへ、どう?驚いた?」
「いや、驚いたことは驚いたけど・・・それ、実は不完全だろ?」
「ギクっ・・・。」

図星らしい。

「「初心者のための戦闘スペル」によれば、もう少し光は強いはずだからな。」
「そうなんだよね・・・。まぁ、まだ練習中ということで。」
「よっしゃ、次は俺だ!」
「私もやるわよ。」

炎、楓が、それぞれフレイム・ストライクとライトニング・ボルト・・・どちらも不完全な威力・・・を披露する。・・・が。

「お、おい!コントロールしろよ!」

流駆が慌てるのも無理は無い。フレイム・ストライク、ライトニング・ボルトと共に、狙いとは全く違う方向へと飛んだのだ。
とりあえずフレイム・ストライクは太陽のロザリオで、ライトニング・ボルトには『ディスペル・マジック』のカードを投げた。

「悪い悪い。まだ不完全でよ。」
「練習中だから。」

悪びれもしない2人に、溜息をつく流駆。

「どうだ?流駆、お前も何か出来ないのか?」
「・・・俺か?・・・そうだな、じゃあ一つ・・・。」

流駆がジュースの空き缶を1つ持ち、集中を始める。

「流駆、そんなの持って何を・・・?」
「・・・裁きの光よ、敵を討て・・・よっ!」

空き缶を真上に放り、その手をそのまま突き出す。

「『ジャスティス』!」

ガン!

一瞬光が走り、何かがぶつかる音がする。そして落ちてきた空き缶は、ひしゃげていた。

「流駆、凄い・・・ピンポイントだ。」
「まぁ、俺も練習中だから。威力は完全じゃないし。」
「これで?」
「完全なら、多分穴ぐらい空けられると思うからな。」

一同、ひしゃげた空き缶を見つめる。

「・・・さて、洗いものはグラッドが引き受けてくれたし・・・。」
「流駆さん、あれ、開けませんか?」
「そうだな、全部開けてみるか。」

流駆が、カードパックを持ち出す。

「開けるって・・・何を?」
「これですよ。カードパック。」
「お、新しい奴!」
「へぇ、買ってきたの?・・・お金は?」
「今回は、俺の金。・・・次があれば、誰か金出してくれよ。」

5人、カードを漁る。そして各自、欲しいカードを選ぶ。

「・・・言い忘れてたけど、明日こそはダゴンの所へ乗り込むぞ。寝過ごすなよ。」
「大丈夫よ。今日はみんな、疲れてたのよ。」
「・・・ったく、その自信はどこから来るんだよ。」

とは言いつつも、流駆もしばしカードを選別する。

「・・・まだまだ14歳、年相応ね。」

あれこれ言いながらカードを選ぶ5人の姿は、2階から見ていたリュカの目には微笑ましく写ったようだ。


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