第45話「楓の秘密」
「ギルマンが・・・かなりの数いるですって?本当なの?」
戻って来た太陽を睨む天使らの報告を受けて、思わず問い返す雫。
『うむ。・・・流駆が双眼鏡を持っているから、確かめてみたらどうだ?』
雫は流駆から双眼鏡をひったくると、沖のほうを見る。
「・・・これは、また・・・。」
「ちょっと、双眼鏡貸して。・・・確かに、凄い数ね。」
雫、楓が溜息をつく。
「その顔じゃ、相当いるみたいだな。」
「えぇ・・・頭が痛くなるほどにね。」
流駆の言葉に、わざとらしく頭を抱えて見せる雫。
「あいつらは多分、ダゴンの兵よ。」
「ダゴンの兵・・・ってことは、敵?じゃあこっちから打って出ようよ!」
樹の単純な発想。だがそれを、ルインが制する。
「相当の数と言っていただろう?打って出るとしても、作戦を練ってからだ。」
「そうね。恐らく見える以外にも、ダゴンは召喚が出来るだろうし。」
その雫の言葉を最後に、全員が押し黙る。いい案など、そう簡単に出るものではない。
「面倒臭ぇ・・・。俺が上空からまとめて焼き払うってのはどうだ?」
「炎、サルガタナスの時と同じようにいくと思ってるわけ?今回は陸上じゃないんだし、炎は飛行ユニット1体だけでしょ?」
早くも考えることを放棄しようとした炎を、楓が諌める。だが、その言葉に流駆が反応した。
「炎が焼き払うかはともかく、あの時は陽動になったろ?今回もその手段でいいんじゃないか?」
流駆の提案。全員が流駆に注目する。
「・・・具体的に、策はあるのかい?」
デクスが口を開く。それを受けて、流駆が説明を始めた。
「まず、このグループを3つの班に分ける。1班はギルマンたちに空中から立ち向かう。
もう1班がこの砂浜・・・陸上ならどこでもいいけど、そこから援護、迎撃。で、最後の1班は・・・。」
流駆が言葉を切って、全員を見渡す。
「直接、ダゴン討伐へ向かう。そして、ダゴンを倒すんだ。」
一瞬、沈黙が下りる。
「・・・まぁ、悪くは無い作戦だけど・・・班ごとに、かなり安全度が違うわね。」
「誰にどこをやれ、とは言ってないだろ。それに一案だ。他にもっといい作戦があればそっち採用。」
・・・誰一人として次の作戦が出てこない。だが、それまで黙っていた麻耶が素朴な疑問を口にする。
「・・・どうやってダゴンがいる所まで行くんですか?海の中ですよね?」
場が白ける一歩手前、雫が2枚のカードを取り出した。
「『ブルンガの真珠』。これを使えば問題ないと思うわ。」
『ブルンガの真珠』とは、身につけた者に水中で動く術を与える装備品。
「作戦そのものはそれでいいと思うわ。でも、見ての通りこのカードは2枚しかないから、討伐班は2人ね。」
「私は問題ないでしょうね。元々モンスターですし。」
雫に続いて、リュカが言う。
「・・・じゃあこの案でいいか?決めるぞ?」
流駆の言葉に、全員が頷いた。
「じゃ次、班決め。ギルマンが迫っているんだから急がないと・・・。」
「まずは討伐班だけど、何せ海中だから。水属性を使える人が適任だと思うわ。だから、一人は私。」
「だ、大丈夫なんですか?」
「私じゃ心配?・・・大丈夫よ。上手くやるわ。」
心配する麻耶に、雫が言う。
「じゃ、あと一人か・・・。水使い・・・。」
と言ってみる流駆。だが既に、結論は出ていた。
「・・・俺しかいないな・・・水使えるのは・・・。」
だがその言葉に、樹が疑問を投げかける。
「あれ?楓でもいいんじゃないの?水属性、入ってるでしょ?」
「『バインド・ウィンド』とかのためだけの存在だって、番外編で言ったでしょ?水中で電撃なんて、危なくて使ってられないし・・・。」
慌てたように台詞を並べる楓。だが、炎にしては珍しい意地の悪い声がする。
「んな事言ってっけど、もうちょい別な理由じゃねぇの?」
「別な理由・・・ですか?」
小首を傾げる麻耶。それに対し、炎に鋭い視線を投げかける楓。
「あぁ、楓はな・・・。」
「それ以上言うと、黄金の槍で叩くわよ。」
楓の、かなり苛ついた声。思わず口を噤む炎だが、その言葉は流駆に代弁された。
「カナヅチ・・・つまり、泳げないんだよ、楓は。」
「流駆!」
思わぬ所からの声に、思わず大声を上げてしまう楓。一同は、楓の意外な事実に呆けている。
「ま、運動神経のいい楓が泳げないのには勿論事情があるんだけどな。」
更に話そうとする流駆を、殺意さえ含んだ目で睨む楓。
「・・・楓、睨むな。」
「話すの、やめて。」
「やめると、この中でお前は単純に「泳げない女子」として扱われるぞ。いいのか?」
「・・・話したって同じでしょう。」
「まぁな。でも、こんな時くらいにしか話す機会も無いし。」
「・・・で、事情って何なの?」
興味津々、と言った表情で顔を突き出して来る樹。楓は憮然としながらも、睨むのを止めた。
「事情と言っても、簡単だ・・・10年位前の夏だったな。俺、炎、楓の家族が一緒になって海に行ったんだ。・・・ここの海にな。」
「ここの海?・・・確かにここは夏場は海水浴場になるわね。」
「で、遊んでたわけだ。そこで俺たち3人はゴムボートに揺られてた。」
「でも、そのときにちょっと大きな波が来て、その波がボートを直撃。ボートはひっくり返ったんだよな。」
流駆の言葉を、炎が繋ぐ。
「勿論、俺たちも海に落ちた。悪いことに、そこはちょっと深くてな。当時4歳の子供の足は届かなかったんだ。」
「大変じゃないですか・・・で、どうなったんですか?」
「俺と流駆は運良くゴムボートに捕まることが出来たんだけど、楓は少し離れた所に投げ出されてな。溺れちまったんだ。」
「焦った俺たちは近くの人に助けを求めた。楓はその人にどうにか助けられた。」
「それ以来だよな、楓が泳げなくなったの。トラウマ・・・ってやつか?あの時、時期外れのクラゲにも差されてたらしいし。」
一通り話し終えた流駆と炎。楓は、黙って俯いている。他の面々も、どうリアクションしていいのか困っている様子だ。
「・・・ま、これは余談だ。話を戻して・・・海中に行くのは、俺と雫でいいな?」
「勿論、私も行くわ。」
全員が頷く。ダゴン討伐班は、流駆、雫、リュカ。
「次は、空中班ね。・・・本当は地上班がいいけど、私が空中のほうがいいわよね。」
半ば諦めた様子の楓。全員が、生暖かい笑みを浮かべる。
「じゃあ、私も空中班で行きますね。」
麻耶が手を上げる。
「後は・・・私とレーゼが妥当か。異論は無いな、レーゼ?」
「どこに。問題は、どこにも無いよ!」
ルインの声に、威勢良く応えるレーゼ。
「じゃあ残った僕、炎、グラッド、デクスが地上班だね。・・・でも、具体的には何をすればいいの?」
「あぁ、ひょっとしたら陸に上がってくるやつも出てくるかもしれないからな。そいつらを倒してくれ。それと、空中班の援護射撃も。」
「じゃあ、樹は迎撃をやってくれ。俺はそこらの高台から、火炎スペルを撃ちまくってやる!」
炎が、グッと握り拳をつくってみせる。
「確かにそれがいいかも。僕は余り射撃に使えるスペルは無いし。」
樹も頷く。
「じゃ決定。・・・すぐに動きましょ。あいつら、大分近づいてきてるはずだから。」
雫の声に、一同は3班に別れた。
「そうそう・・・流駆、水中ではカードは使えないと思って。」
「・・・カードが使えない?そりゃ濡れはするだろうけど・・・どうやって戦うんだ?」
「私はいいのよ。特別製の防水スリーブにカード入れてるから。でも、1人分しかなくて。」
スリーブに入ったカードを見せびらかす雫に、嘆息する流駆。
「羨ましい話だな。ユニットは全部召喚しておくとしても・・・スペルか・・・。」
腕を組んで悩む流駆。と、そこへリュカがアドバイスをする。
「スペルユーザーさえいれば、カードは無くても何とかなるかもしれませんよ。現に私は、スペルを使えるわけですし。」
「・・・言われてみれば確かに。じゃあスペルは持っていかないことにして・・・と、雫?」
何かを思いついたように、雫を呼ぶ。
「何?」
「いや、ブルンガの真珠で水中で活動できるのはいいけど・・・水中って、喋れるのか?」
「・・・喋ったとしても、声が伝わらないから意味無いわね。勿論、普通に呼吸は出来るけど。」
「そうか・・・。じゃあプロテクションをかけた上で潜らないか?そうすれば、水泡をくっつければ連絡が取れるだろ?」
「確かにそうね。じゃあ、それで行きましょうか。」
「後は、自衛か・・・ロザリオとアミュレットじゃ不安だな・・・。何かいいのは・・・。」
流駆が手持ちのカードをチェックする。その他の面々も、作戦を詰めたりしている。
ある程度時間が経ったところで、麻耶が流駆に声をかける。
「流駆さん、こっちは準備完了です。いつでも行けますよ。」
「あ、解った。・・・ファイア・ドラゴンも行くんだろ?だったら麻耶は俺の『ホルス』に乗ってけ。そうすれば灼熱のブレスが使える。」
そう言いながら、流駆は腰に何かを括り付けている。
「樹たちはどうだ?」
「バッチリ!炎はあっちから援護射撃をするって!始まったら合図することになってる!」
樹が応えながら、一点を指差す。その先のちょっとした岩場には、炎が立っているのが見える。
「俺はもう大丈夫だけど・・・リュカと雫は?」
「私はもういつでも。」
「私も大丈夫だけど・・・流駆、あなたそんなの使いこなせるの?」
雫の目線が、流駆の腰に括り付けてあるものに止まる。
「まぁ、流石に水中でスペルだけっていうのは不安だし。元々カードは持っていけないんだし。」
流駆が腰のものを抜き払っていう。それは、『退魔剣』といわれる魔剣であった。
持つ者に禁断の知識を与え、聖魔の存在に共鳴してその力を高める。
「流駆!もう、普通にギルマンたちが見えるよ!」
「解った、じゃあ行動・・・なっ!?」
流駆の目の前に、一本の矢が突き刺さった。魔法の矢ではないが、十分な殺傷力を備えているだろう。
「これは、少し急ぐか・・・よし、行動開始だ!炎に合図を・・・!」
「解った・・・行くぞ。『ライトニング・ボルト』!」
ルインが、海に向かって電撃を放つ。こちらに向かっていた『ギルマン・サーファーズ』を巻き込む。
「・・・お、始まったな?早速いくぜ!『ファイアボール』!」
炎が、呼び出しておいたファイア・エレメンタルと共に火球を放つ。そのうちの1発がギルマンの船に命中し、その甲板を燃え上がらせた。
「じゃあ、私達も行きましょう。・・・楓さん、大丈夫ですか?」
「平気よ。別に海そのものが怖いわけじゃ無いんだから。」
「でも、気を付けてくださいね。落ちたら、大変なことになってしまいますから・・・。」
麻耶は本心で楓を心配しているのだが、その台詞に楓の顔が引きつった。
「・・・あんまり想像したくないこと言わないでくれる?」
「す、すいません・・・。」
「・・・もういいか?私は先に行くぞ。」
「あたしも行くから、早いとこ追いついてきなよ!」
ルイン、レーゼがさっさと先に行ってしまった。
「・・・では改めて。行きましょう、楓さん。」
「えぇ。」
麻耶はブラック・ライトニングを持ってホルスに乗って、楓は黄金の槍に鎧、盾を身につけてスカイワイバーンに乗って飛び立っていった。
「やれやれ。じゃあ、俺たちも行こう。」
「解ったわ。じゃあパール・ドラゴンに乗って。」
「と、その前に・・・。」
流駆が一枚のカードを取り出す。雫も、それに倣う。
『プロテクション!』
唱和した2人の声。その身体が、水泡に包まれた。
「じゃ、行ってくる。カード宜しく頼むな。」
「解ってる。預かっておくよ。」
樹が、流駆のデックを大切にしまう。それを見届けて、流駆と雫、それとリュカは水中へと潜って行った。
「そろそろ来るよ・・・。樹、心の準備はいいかい?」
「もちろん!」
丁度この時、ギルマン部隊と空中班が戦闘を開始する所だった。