第48話「急襲」


「く・・・こいつら、まだいるのか・・・?」

海上、ギルマンたちと戦いを繰り広げている面々。これはルインの声。

「これじゃ、きり無いね・・・。あたしはそろそろ疲れてきたよ・・・。」

こちらはレーゼ。ルインもそうだが、かなり疲労の色が濃い。

「レーゼ、楓と麻耶は?」
「麻耶はあそこさ。何とか持ちこたえているけど・・・そろそろ矢も限界だよ。楓はまだ大丈夫だね、あの通り。」

レーゼが指差した先には、黄金の槍を片手にギルマンを屠り続けている楓の姿。

「・・・陸上にも、大分ギルマンが上陸しているのだろうな・・・。」
「あぁ、そうだね。樹たちが奮闘してるはずだよ。・・・でも、炎からの援護も少なくなっているから・・・。」

2人が話している間にも、ギルマンたちは激しい攻撃を仕掛けてきている。

「・・・流駆たちがダゴンを倒してくれていればいいのだが・・・。」

ルインがそう呟き、再度船に取り付こうとしたその時、船が消えた。

「なっ・・・。」

ルインが取り付こうとした船だけではなく、他のギルマンたちが乗っていた船は、全て消え去った。

「これは一体・・・?」
「ルイン!」
「レーゼさん!」

楓と麻耶が、2人の元へと駆けつけた。

「・・・ギルマンたちが消えたということは、流駆さんと雫さん、リュカさんは・・・。」
「やった・・・んだろうね。でも、3人が上がってこないと・・・。」
「無事かしら・・・。」
「何とも言えんな・・・。」

少しの間、沈黙。やがて、水面に泡が立ってきた。

「・・・っはぁっ!」

水飛沫を立てて、流駆が肩に雫を担いで上がってきた。すぐ後に、リュカが水面から空中へと舞い上がった。

「流駆さん!」

麻耶が、流駆の目前までホルスを降下させる。

「良かった、2人とも無事で・・・あ、ダゴンは!?」
「何とか。それより・・・雫がちょっとやばい。」
「えっ・・・雫さん!?」

水面に出てもなお意識の戻らない雫を見て、顔色を変える麻耶。

「戻らないと・・・とりあえず彼女を乗っけてくれ。」
「解りました。流駆さんは・・・。」
「もちろん、乗せてもらう・・・。」

流駆は雫をホルスの背中に乗せると、自らもその背によじ登った。

「樹さんたちも心配です。飛ばさせてもらいますよ?」
「頼む。」

麻耶は、ホルスを陸へ向かわせた。楓、ルイン、レーゼも続く。

その様子を、じっと見詰める存在がいることに、気付く者はいなかった。























「皆!お疲れ様!」

陸上に戻ると、樹が笑みで出迎えた。グラッド、デクスも人間の姿である。

「樹さんも。陸上の方は・・・。」
「何とかね。でも、いきなり殺されそうになったり、さっきはストーン・バジリスクもやられたし・・・。」
「おーい!やったんだな!」

声を上げながらこちらへと駆けて来るのは、炎。

「・・・炎、お疲れ。でも、私たちまで炎に巻き込まれる所だったわよ。」
「そうか?ギルマンを狙ったつもりだけどな。」

全く悪びれた様子のない炎。楓は軽く溜息をついた。

「ねぇ、積もる話は戻ってからにしない?雫には休養が必要なのよ。」

リュカが、今は砂浜に寝せてある雫を見て言う。

「そうだ、雫さん・・・一体、どうして・・・?」
「ダゴンに海底に叩きつけられたんだ。それで傷を負って・・・血を流した。」
「傷?・・・見た所、その後が見えないんだが。」
「リュカが『リジェネレーション』で塞いだ。ただ、その前に大分血を流したらしくて・・・。」

と、ここまで流駆が話した所で、全員の耳に、羽音が聞こえてきた。

「・・・何だ?羽音?」

と、全員が見渡す中、流駆がその元を見つけた。

「あそこだ!」

流駆が指差す。全員の視線が集中した先にいたのは、巨大蝿。

「なんだいありゃ・・・気味悪いねぇ!」
「あいつは・・・『ベルゼブブの使徒』よ!」

リュカが叫ぶ。名が示す通り、この蝿は『冥界の貴公子ベルゼブブ』が使役するモンスターである。

『サルガタナス、ベリアル、そしてダゴンまで倒すとはなかなかやるな。』

使徒が、奇妙な音程で喋り始めた。

「何しに来たんだよ、一体・・・。」
『ベルゼブブ様の命令を実行するのみ。』

そう使徒が言うと、その背後から黒い靄がやってきた。

「あれは・・・?」
「まさか・・・使徒の群れ!?」

レーゼが素っ頓狂な声を上げる。その予測通り、それはベルゼブブの使徒の群れだった。

「何が命令だよ!焼き尽くしてやる!」

と、炎がイグナ爆裂筒を取り出した瞬間、使徒たちは一斉に黒い霧を吹き出した。

「『ブラック・フォッグ』!?くそっ・・・『ディスペル・マジック』!」
「『ウィンド・カッター』!」

流駆と楓が、対抗スペルを飛ばす。だが数が多く、霧が消えるまでは至らない。

「・・・一体何なんだ・・・!?」

全員が霧を吸い込み、咳き込む。視界も完全に閉ざされている。

「こうなったら、シャンヴァーの矢で・・・!」

麻耶が、勘に任せて弓を構えようとした時、背後から何かに口を塞がれた。

「・・・っ!?」

続けて腕、足と動きを封じられる。もがく麻耶だが、拘束は外れない。

「・・・う・・・。」

何かスペルを使われたのか、麻耶は急にぐったりとして気を失った。

『・・・よし、目標捕獲。撤退するぞ。』

麻耶を拘束している使徒が、彼女を連れて引き上げる。それに伴い、他の使徒も黒霧の噴出を止める。

「・・・霧が・・・引いていく・・・。」

少しずつ薄くなるブラック・フォッグの中、流駆が何とか霧の外へと抜け出る。

「使徒が引き上げる・・・?」

少しずつ遠くへと去っていく使徒を見送る流駆だが、その中に気絶している麻耶を見つける。

「・・・!麻耶!」
「流駆!麻耶がいない!」

流駆が麻耶を見つけると同時に、樹が麻耶の不在に気付いた。

「麻耶・・・拉致られたみたいだ。」
「拉致?使徒に!?た、助けに行かないと!」

流駆の言葉に、気持ち良い位慌てふためく樹。

「解ってる、すぐにでも・・・。」
「流駆、待って。」

流駆が動こうとした所を、リュカが止める。

「何だ?」
「雫はまだ動けないのよ。彼女に無理をさせるわけにはいかないでしょう。」

リュカの言葉に、意識が戻らないまま横になっている雫に目をやる流駆。

「・・・確かに。」
「でも、麻耶の方も急がないとやばいだろ!?」

痺れを切らしたのか、炎が声を荒げる。すると、楓が話を切り出した。

「・・・二手に分かれましょう。」
「二手?」
「えぇ。私たち召喚術師の中から1人とそのパートナーが、雫を家まで運んで、残りは麻耶を助けに行くのよ。」
「なるほど・・・で、誰が?」

沈黙が下りる。誰もが麻耶を助けたいのだ。しかし、樹が名乗り出た。

「じゃあ僕が雫を家まで連れて行くよ。ドルクレイの腕輪、壊されてるし・・・。」
「樹・・・じゃあ頼むわ。炎のファイア・ドラゴンで戻って。」
「うん・・・でも皆、絶対麻耶を助け出してよ!」

そう言い残すと、すぐに樹はファイア・ドラゴンに雫を乗せて飛び立とうとする。

「・・・そうだ、忘れてた。流駆、デック!」
「サンキュ、樹。」
「もう一度言うけど、麻耶を頼んだよ!雫は、僕とレーゼに任せて!」

その言葉を最後に、ファイア・ドラゴンが飛び立つ。

「あんたたち、気をつけな・・・以前リュカが言ってたけど、ベルゼブブはやな奴らしいからね。」

そう言い残すと、レーゼもファイア・ドラゴンを追った。

「・・・じゃあ急ぐぞ。」
「あぁ、ベルゼブブの奴、ぶちのめしてやる!」
「麻耶も、絶対に助け出すわよ。」

リュカ・グラッド・ルインはカードに戻ってデックに収まり、スカイ・ワイバーンに乗った3人はベルゼブブの使徒を追い、飛び上がった。


戻る 第47話 第49話