第50話「昔からある場所」


「・・・?」
「どうした、リュカ?」

ベルゼブブの城に入り込んだ流駆とリュカだが、リュカの様子に流駆が立ち止まる。

「いえ・・・大した事はないのですが・・・。」

そう応えるリュカだが、ほんの少しだけ顔色が悪い。

「・・・大丈夫なのか?」
「えぇ・・・ただ何か、身体に違和感が・・・。」
「カードに戻るか?」
「心配無用です。・・・麻耶を探しましょう。」

そう言うリュカに流駆は首を傾げるが、言及することはなかった。

「しかし、麻耶・・・どこにいるんだ・・・?」

流駆は、伸びる廊下の向こうへと走り出した。




















『どうした、ベルゼブブ・・・その程度か?』
『なかなか、やるね・・・。』

こちらは、ベルゼブブとセネス。先程から、セネスが有利に事を運んでいる。

『だけどね、君は僕には勝てないよ。』
『何だと?』

唐突に放たれたベルゼブブの言葉に、眉をひそめるセネス。

『勝てないんだよ・・・ワルキュリアである君が、僕の城にいる限りね・・・。』
『戯言を・・・これで終わりにしてやる!』

セネスが持つ剣から、殲滅の後光が生まれた。

『消え去れ、ベルゼブブ!』

セネスが、剣を上段に構えて斬りかかる。しかし、ベルゼブブは不敵に笑った。

『残念だったね。』

そう言い、ベルゼブブが指を鳴らす。その瞬間。

『なっ・・・が、ぎ、あ・・・!』

セネスの身体から力が抜け、床に転がり、苦悶の表情を浮かべる。同じ瞬間、リュカが。

「うっ・・・あ・・・うああ・・・!」
「リュカ!?」

そして、デクスが。

「が・・・こ、れは・・・!」

3人が苦しむ中、ベルゼブブは全く力が抜けているセネスの首を掴み、持ち上げる。

『あはははは!いいザマだね!』
『貴様・・・何を・・・!』
『ここはね、『昔からある場所』の力を秘めているみたいなんだ。僕も始めは驚いたよ、こんな建物があるなんて。』

『昔からある場所』とは、聖魔の存在を拒絶する場所である。

『力は多少弱いみたいだけどね、代わりにその効果は僕の意思1つに出来るのさ。』

ベルゼブブは、セネスの首を掴みながら部屋の一角へと歩く。セネスは全く対抗できない。

『君は僕が殺してもいいんだけどね・・・丁度僕のペットがお腹を減らしているんだ。』

壁の一部をベルゼブブが押すと、その壁が横にスライドし、そこから深い穴が現れた。

『さよなら。』

ベルゼブブは手を離し、セネスを穴へと落下させた。本来飛べるはずのセネスだが、まっ逆さまに落下する。

『さて・・・麻耶はどこかな・・・?』




















「リュカ、どうした!?」
「う・・・っく・・・」

流駆の声にも、呻き声でしか返せないリュカ。

『いたぞ、召喚術師だ!』

使徒が数体、流駆たちに迫ってきた。

「こんな時に・・・!リュカ、とりあえず戻れ!」

流駆がリュカに手を翳す。リュカの身体に淡い光が纏わりつく。と同時に、カードに戻った。

『やれ!殺せ!』
「くそっ・・・『サンクチュアリ』!」

襲い掛かる使徒たちに対し、結界を張りつつ逃げを打つ流駆。

『逃がすな!』
「・・・やり過ごせる場所・・・無いか・・・!」

左右を見ながら走る流駆。すると、1つ部屋があった。

「もうここでいい!」

部屋に飛び込む流駆。その部屋の床には、何かの方陣が描かれていた。

「何だ、この部屋・・・。」

何気なく流駆が部屋の真ん中へ歩く。すると、急に陣が光を放ち始めた。

「う、うわ・・・!」
『この部屋か!』

使徒が部屋に入ってくると同時に、流駆の身体が光に包まれ・・・消えた。

『あの召喚術師、地下に行ったか。・・・死んだな。』




















「ぐ、ぐ、ぐ・・・。」

昔からある場所により、まともに動けないデクス。既に全身、傷だらけである。

『とどめだ、死ね。』
「くっ・・・まだ・・・。」

デクスがそれでも立ち上がろうとした時。

「おら、喰らえっ!」

聞き慣れた声。と同時に、デクスの目の前でイグナ爆裂筒が弾けた。

『な、新手か!?』
「当りよ。『アイス・ジャベリン』!」

一体だけ残っていた使徒に、氷の槍が突き刺さった。

「炎・・・楓・・・。」
「デクス!大丈夫か!?」
「麻耶はどうしたの・・・!?」

デクスは人間の姿に戻り、一通りの経緯を2人に話した。

「じゃあ、麻耶も城の中を逃げ回っているのね。」
「そうだよ・・・ところでそちらは、流駆に樹、雫は・・・?」
「樹は気絶した雫を休ませるために一旦戻ったわ。流駆は今、別行動で麻耶を探しているはずよ。」
「あいつが、上手いこと見つけてくれりゃいいんだけどな。」

そう炎が言った所で、デクスは両膝をつき、倒れそうになる所を何とか支えた。

「デクス!」
「・・・ちょっと前から急に動けなくなって・・・この姿では少し楽だけど・・・。」
「デクス、カードに戻って。今戦えるようには見えないわ。」
「ごめん・・・そうさせて、もらう・・。」

か細く言い残し、デクスはカードに戻った。

「行くぜ、楓。俺たちも麻耶を探すぞ!」
「解っているわ。」




















「何で起動しないんだよ・・・。」

ぼやくのは流駆。光に包まれて、気付いた時にはやたら暗い場所にいた。足元の魔法陣は、反応する気配が無い。

「麻耶探さなきゃなのに・・・仕方ない、出口探すか。」

と、暗闇を照らすためにプラズマ・ボールを召喚しようとする流駆だが・・・出来ない。

「召喚封じ・・・?だからリュカも・・・?」

などと考えながら、たまに洩れている僅かな光を頼りに流駆は進む。暫く歩くと。

「・・・ここは・・・うわ、広・・・。」

流駆がたどり着いたのは、かなりの広さを持つドーム。屋根が土であることから、ここが地下だと推測させられる。

「しかもこれは・・・地底湖か?」

流駆が言うように、ドームの3分の2は水で満たされていた。不思議そうに流駆が見ていると、水面に何かが浮いているのが見えた。

「ん・・・あれは・・・人!?」

そう、浮いているのは人の・・・女性の姿をしていた。

「・・・リュカ、出れそうか?」
「ごめんなさい・・・無理だと思うわ。」
「そうか・・・多分太陽を睨む天使たちも無理だし・・・仕方ない、『グラヴィトン』。」

重力制御のスペルを使い、女性を助けに行く流駆。

「麻耶だったりしないだろうな・・・。」

一抹の不安がよぎる。しかしその不安は、別の形で当たることになる。

「大丈夫か・・・なっ!?」
「流駆、どうしました?」

リュカが声をかけると同時に、水中から唐突に巨大な何かがせり出してきた。

「うおっ・・・!」

その何かに押し出されるように陸へと戻る流駆だが、その腕は女性をしっかり抱えていた。

「『クラーケン』!?でも、その割には・・・。」

流駆の目の前に現れたのは、巨大なイカの化け物、クラーケン。だが流駆が知るクラーケンとは、少し外見が違う。

「禍々しいぞ、何か・・・。」
「流駆、その女性は・・・?」

カードでは、声は聞こえても他の感覚は無いらしいリュカ。流駆に訊ねる。

「・・・聞いて驚け、セネスだ。」
「な・・・セネス!?どうしてこんな所に!」
「俺が知るかよ!」

何ぞといっている間に、クラーケンのような魔物は流駆に多数の触手・・・足を叩きつけてきた。

「『サンド・カーテン』!」

セネスを背中に背負い、スペルで身を守りながら流駆は岩陰へと隠れた。

『ぐ・・・ぐ・・・。』

と、ここでセネスが意識を取り戻した。声を聞いた流駆が、セネスを下ろす。

「セネス、大丈夫か?」
『・・・お前は・・・リュカの召喚術師・・・。』

名前が思いつかず、つい流駆をそう呼ぶセネス。

「一体何があった・・・いや、後でいい。まずはあいつを・・・。」
『フフフ・・・まだ生きていたようだね、そのワルキュリアは。』

唐突に響く声。流駆がその方向を見ると、使徒が一匹飛んでいた。

『君は召喚術師の一人だね?僕は冥界の貴公子ベルゼブブだ。』
「ベルゼブブ・・・麻耶はどこだ!」
『僕も探している所さ。逃げてしまったからね。でも、ここで面白いものが見られるかもしれないから足を止めているのさ。』

とにかく鼻につくような喋り方をするベルゼブブ。

『そいつは僕のペットでね。クラーケンに少し手を加えたものさ。名付けて、デビル・クラーケン。』
「デビル・クラーケン・・・!?」
『攻撃力が純血に劣る代わりに、足の分だけ君たちを不意打ちできるのさ。つまり・・・。』

ここで、デビル・クラーケンが岩場を崩し、流駆たちを視界に捕らえる。

『君たちを嬲り殺しにできるってことさ。僕はその様を見てから、麻耶を探すのを再開するよ。』



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