第52話「一方その頃」
「麻耶も流駆も、どこに行った!?」
「知らないわよ!とにかく走りなさい!」
半分怒鳴りながら城内を走り回る、炎と楓。その間にも、何体もの使徒を迎撃している。
「多分この城の半分は探し回ったから、後半分よ、きっと!」
「当てにならねぇな・・・日が暮れちまうぜ!」
炎が窓の外を見て言う。比喩ではなく、外は橙色と藍色に染まっていた。
「・・・と、また敵か!?蹴散らしてやる!」
曲がり角を曲がった所で、炎が新たなモンスターを確認した。2体いる。
片方は槍を持つ、蒼白の肌のデーモン。片方は下半身が獅子、上半身・・・と言っても顔と胸だけが女性で後は獣、皮膜の翼と蠍の尾をつけていた。
『・・・来たか。』
『愚かね、若いのに命を捨てに来るなんて・・・。』
と、2体が言った所で、デーモンが無造作に手を翳した。
「ゴチャゴチャうるせぇ!焦げたくなかったらそこをどけ!」
『威勢の良い。だが・・・五月蝿いのはお前だ。』
無造作に翳された手から、催眠術・・・ヒュプノシスが放たれる。
「いっ・・・!」
「やらせないわよ!」
スペルがかかりそうになった瞬間、楓が黄金の槍を投げつけて牽制し、スペルを中断させた。
「『ソムナ・マンティコア』・・・それに『眠りの死神サマエル』・・・。」
『私たちを知っているか。ならば理解しろ。ベルゼブブ様に逆らうなと。』
半獅子半女のモンスター・・・ソムナ・マンティコアが宣告する。眠り病ソムナを操るモンスターである。
「いいからどけ!俺たちゃ忙しいんだ!」
『そう言うな。永遠の眠りでゆっくり休ませてやる。』
槍を突きつけて、『眠りの死神サマエル』が言い放つ。自ら言うように、永遠の眠りを与えるデーモンである。
『じゃあ坊やにお嬢ちゃん、お休みなさい。』
ソムナ・マンティコアの言葉と同時に、薄紫色の風が吹き付けてきた。
「『眠りの風』・・・!?炎、この風を吸っちゃ駄目よ!」
「解ってら・・・くっそ、こんな所で・・・!」
と、炎と楓が対抗すべくカードを取り出そうとした時。
「2人とも、先に進め!」
その声の直後、猛炎が眠りの風を振り払った。炎が止むと、そこには炎の魔人スルト、即ちグラッドが立っていた。
「グラッド!」
「こいつらは俺に任せろ!お前らはベルゼブブをやるんだ!」
「・・・よし、頼んだぜ!」
炎と楓が、炎で一瞬油断したサマエルの横を通り過ぎるべく走る。
『そう簡単に通れると・・・。』
「通してもらうさ・・・力づくでもな!」
槍を構えて道を塞ごうとしたサマエルだが、その槍をマルドゥークとして現れたルインが弾き上げた。
「ルイン・・・お願いね!」
「了解している。すぐに追いつく!」
ルインの言葉を背に受けながら、炎と楓は奥へと走っていった。
『味なことを。・・・まぁいい、貴様ら2人など取るに足らないからな。』
「その言葉、そっくり返すぜ・・・行くぞ!」
「次は!?」
「この部屋だ!」
これまでそうしてきたように、炎がドアを勢いよく開け払おうとする・・・が、ここは開かない。
「鍵か・・・?面倒臭ぇ!」
「炎、下がって。稲妻の束よ、我が敵を貫け・・・『ライトニング・ボルト』!」
楓の詠唱に応えて、雷撃が錠前を使い物にならなくした。
「よし、行くぞ!」
炎が扉を開ける。・・・その部屋には、炎や楓がこれまで見た事の無い光景があった。
『なっ・・・!』
絶句する2人。それも無理も無かった。
カプセルに入れられ、妖しげな液体に漬けられている少女がびっしりと並べられていては。
「何だよ・・・これ・・・。」
「・・・私が、聞きたいわ・・・。」
恐る恐るカプセルを見渡す2人。漬けられている少女は人間のみでなく、モンスターもいる。
共通しているのは、年代。その全てが炎や楓と同じ位の年齢のような女性であり、少女と呼んで差し支えなかった。
「・・・嫌なこと想像しちまった・・・。」
「私もよ・・・まさかこの中に麻耶が・・・!」
すぅっと血の気が引いていくのを感じる2人。確認すべく、部屋の中央へと足を踏み入れた瞬間。8本の光が走った。
「うおっ!」
「きゃっ!」
光は2人を取り囲むように直方体を描き、床と光によって作られた面には、硝子のような壁が現れた。
「罠!?」
「突き破ってやる!」
炎が透明な壁を殴りつける。だが、びくともしない。
「『フレイム・ストライク』!これでどうだよ!」
炎が放った灼熱の槍は壁の上でしばらく炎の塊となって留まり・・・炎に跳ね返されてきた。
「うおおっ!?」
「炎!?・・・跳ね返しの力・・・『アイス・ミラー』?」
スペルが無駄と悟った楓は、新たにカードから黄金の槍を出現させて壁を突く。・・・彼女の腕が痺れた。
「っ・・・剣や戦斧なら・・・。」
そう言いながら、新たに武器を取り出そうとした瞬間。
「炎さん!楓さん!」
炎と楓が探していた張本人、麻耶が部屋へとやってきた。
「ま、麻耶!?無事だったか!」
「流駆には会わなかったの!?」
「流駆さんは・・・会ってな・・・ッ!?」
炎と楓に気を取られていたのか、ここでようやく周りが目に入った。
「こ、これは・・・!?」
その異様な光景に、泣き出しそうになってしまう麻耶。
「助けに来ておいて捕まったなんて情けないことこの上ないんだけど・・・何とかこの壁を破るわ。こんな部屋にいたくない!」
「待って下さい、それなら私がブラックオニキスの地爆矢で・・・。」
と、麻耶が残り少ない矢を構えようとした時。
『止めた方がいいね。やったら麻耶、君が死ぬよ。』
麻耶には聞き覚えのある、鼻につく声。入り口に、冥界の貴公子ベルゼブブが立っていた。
「ベルゼブブ・・・!」
「こいつがか!この野郎、出せよ!」
炎が、更に激しく壁を殴る。その様子を見たベルゼブブは、鼻で笑った。
『これで召喚術師の子供は3人。その内1人は・・・死んでるだろうね。』
「死んでるって・・・まさか流駆!?」
「流駆さん!?」
流駆の名が出たことで、3人の顔色が変わった。
『流駆・・・あぁ、確かそう呼ばれていたっけ。彼は今ごろ、僕のペットの餌になってるだろうね。』
「嘘!流駆さんがそんな簡単に・・・!」
『でも、彼を守ろうとしたワルキュリアは死んだよ。』
「ワルキュリア・・・そうだ、セネスさん!?」
『そんな名前だったかな?あの戦争の女神モリガンは。』
世間話でもするかのようにベルゼブブは話す。言葉ごとに麻耶は顔色を青くしているが。
「セネスが・・・死んだですって・・・!?」
「ふざけんなよ、この野郎・・・!」
炎と楓もかなり怒りを覚えている。全方向を壁で覆われているため、何も出来ないのだが。
『それよりもさ、この部屋について聞きたくない?教えてあげるよ、せっかくたどり着いたんだから、』