第55話「報い」
『あがあああああ!』
流駆の、渾身の一撃を受けたベルゼブブ。並べてあるカプセルまでノーバウンドで吹っ飛ばされた。
騒々しい音がする。中の少女が溶けて消えると同時に、ベルゼブブはうなだれるように気を失った。
「・・・ハァ・・・ハァ・・・」
一撃を放った流駆の息遣いが荒い。顔には、疲労の色がありありと見て取れた。
「流駆!やったか!」
「大丈夫?大分無茶したように見えたけど。」
「・・・見えたなら良かった。実際した。」
炎、楓が流駆に駆け寄り、流駆は出来るだけ軽口で返した。
「流駆さん・・・それに炎さん、楓さん。助けに来てくれて本当にありがとうございます。」
流駆たちから少し離れた所で、麻耶が深々とお辞儀をする。
「迷惑をかけてしまって・・・本当にごめんなさい・・・。私はいつも・・・。」
「止め。」
麻耶がネガティブ思考に入りかけた所で、楓が制する。
「麻耶が悪いわけじゃないでしょう。今回、私と炎は逆に捕まっちゃったし。」
「まぁな。流駆が来なかったらやばかったぜ。・・・ったく、どこほっつき歩いてたんだよ!?」
炎が、勢いよく流駆の背中を叩く。流駆は数歩たたらを踏み・・・倒れそうになるのを何とかこらえた。
「炎・・・今そういう事するな・・・。フラフラなんだよ、俺は・・・。」
炎に向き直りながら愚痴る流駆。だが事実、流駆の足元はおぼつかなかった。
「流駆さん・・・聞いても、いいですか?」
「・・・何だ?」
「その剣は、やっぱり・・・。」
麻耶が、流駆が持つ剣に目を向ける。4つの視線が、剣に向けられた。
「セネスの剣だ・・・。セネスは・・・この剣を残して、消えた・・・。」
「消えた・・・?どういうこと?」
楓が訊いてくる。流駆は、軽く息をついた。
「・・・経緯は話す。でも、全員いる時にしないか?」
流駆が、3人の顔を見渡す。
「ここに来る途中、戦って気絶したルインとグラッドを見た。」
「グラッド・・・それに、ルインがか!?」
「今はカードとして、俺が持ってる。それに、ここは昔からある場所の力を秘めているらしいんだ。」
「昔からある場所・・・じゃあデクスさんは!?」
「ここだよ・・・。キツイから、今は出たくないけど・・・。」
楓のデック内から、デクスの声がした。
「で、昔からある場所だからリュカは出れない。・・・でも無理して、セネスと協力して戦って・・・。」
流駆が静かに首を横に振る。3人は、釣られたように俯いた。
「・・・帰りましょう。詳しい話、聞かなきゃですし・・・。」
「だな・・・麻耶、これ羽織っとけ。」
流駆が気付いたように、自分の上着を麻耶に投げ渡す。
「あ・・・すいません・・・。」
服が破れ、その破れ目から下着が顔を覗かせていた麻耶。顔を赤くして、上着の前を掻き抱いた。
「帰るのはいいけどよ、これはどうするんだ・・・?」
そう言って炎が指差したのは、カプセルに入った少女たち。
「そうね・・・どうしよう、この異様な光景。」
「・・・壊す。」
楓が考え始めた矢先、流駆が言い切った。
「壊すって・・・流駆さん!?」
「・・・可哀想ではあるけど、だからと言って助けられるか?無理だろ。」
と、ふらつく足ながらも再び剣を持ち上げようとする流駆。
「出来ないなら、俺一人でも・・・。」
と、流駆がカプセルに向かって歩き出した瞬間、電撃が彼の身体を打った。
「・・・っ・・・!?」
前のめりに倒れる流駆。
「流駆!」
「流駆!?」
「流駆さん!?」
炎、楓、麻耶が一斉に流駆の元へと駆け寄る。流駆の意識はあり、何とか立とうとしていた。
『まだだよ・・・まだ僕は倒れてないよ・・・!』
その声に、3人は悪寒を覚えた。振り向くと、全身ボロボロになりながらも立っているベルゼブブの姿があった。
「ベルゼブブ!この野郎まだ!」
「その姿で、勝てると思うの?」
炎、楓が臨戦体勢になる。
『君たちに用は無い・・・僕はこいつを殺す・・・!僕を傷つけたこいつを・・・!?』
と、ベルゼブブが手を振り上げた瞬間、矢が一閃した。
『・・・麻耶・・・?』
「ベルゼブブ、ここまでです。あなたは許しません。」
どこか超然とした雰囲気を漂わせている麻耶。ベルゼブブはその姿を見て、怯えたように1歩下がる。
『・・・どうして・・・どうして君が、僕を傷つけるんだ・・・!?僕の一生の人が、どうして・・・!?』
「もう一度言いますよ・・・あなたは許しません。」
麻耶は1枚のカードを矢に変えて、ブラック・ライトニングに番えた。
『ブラックオニキス・・・信じられない・・・僕を・・・殺そうと言うのか・・・!?』
「あなたは、ここにいる女の子たちに・・・セネスさんに・・・流駆さん、炎さん、楓さんに・・・そして私に、酷い事をしました!」
矢を放つ麻耶。ベルゼブブに当たる。だが、彼女の意思が組まれているのか、ベルゼブブは即死しない。
『い、嫌だ・・・死にたくない・・・助けて・・・麻耶、助けてよ・・・。』
まるで子供のような口調で縋るベルゼブブ。だが麻耶は、再びブラックオニキスの地爆矢を持った。
『お願いだよ・・・助けてよ・・・ねぇ、麻耶・・・!』
「あなたは・・・。」
麻耶が眼を瞑る。
「・・・あなたは今まで・・・。」
強く歯を食い縛り、そして叫んだ。
「今までそう言ってきた人やモンスターに、あなたはどう答えてきました!!」
麻耶の目がカッと見開かれ、ブラックオニキスの矢が放たれた。その矢はベルゼブブの心臓を、完璧に撃ち抜いた。
『ア、ア、アアアァァァァ・・・』
尾を引く叫び声。ベルゼブブはその断末魔と共に、カードへと戻った。
「・・・何も出来なかったから。」
「せめてこのぐらいはやらせてもらうぜ!」
落ちてくるベルゼブブのカードを楓が黄金の槍を薙いで真っ二つにし、炎がイグナ爆裂筒で灰にした。
普段はここまでしないが・・・相当頭に来ていたのだろう。
「流駆さん、大丈夫ですか!?」
「解らない・・・。」
剣を支えにして、何とか立ち上がった流駆。どうやら、先程身を守るために使った殲滅の後光の残滓が再び身を守ったようだ。
「それより、見ろよ・・・中にいた女の子たち、皆消えたぞ・・・。」
「・・・本当。何で・・・。」
麻耶が辺りを見回す。カプセルに入っている少女たちは、もはや一人として存在していなかった。
「よし、今度こそ帰ろうぜ!」
炎の一言で、4人はようやく城を後にするべく歩き出した。
(アリガトウ・・・)
その声に気付いた者はいなかった。麻耶の弓矢が、本当に少しだけ黒い闇を帯びていたことに気付いた者も。