第57話「闇夜の山で」
『召喚術師たちは動き始めた頃か。』
アスタロトが呟いているのは、かつてベリアルの拠点だった死火山の一角。ベリアルがいた地点とは別の地点、切り立った断崖絶壁の先端。
『どうだ、麻耶?何か感じるか?』
傍らに話し掛けるアスタロト。そこに立っているのは、彼女に拉致された麻耶だった。
「・・・・・・。」
『何も感じられないか・・・術の具合はいいようだな。』
自らの術の効果に、満足そうに頷くアスタロト。
『しかしまさか、こんな少女があのような強大な力を持っていたとはな・・・。』
「嘘だ・・・セネスが死んだって・・・。」
こちらはドラゴンの上。樹が流駆にその剣はどうしたのかと聞き、セネスの死を伝えられた所だった。
「・・・本当だ。俺はそこに居合わせたんだ。」
苦い表情の流駆。余り思い出したくは無いのだろう。
「でも・・・そんな・・・。」
「・・・樹、今はセネスの死を悼む時じゃない。麻耶を助けることを最優先するんだ・・・。」
押し殺したような声で話す流駆に、樹も頷きを返した。
「・・・流駆、1つ聞いてもいい?」
「何だ?」
しばらく飛んだ後、雫が声を投げかける。
「君は、殲滅の後光を使えると言ったわよね。」
「言ったけど、それがどうした?」
「君の力って、本当に殲滅の後光なの?」
「・・・本当よ。その剣に宿った光は、紛れも無く殲滅の後光だったわ。」
流駆ではなく、リュカが雫の質問に答えた。だが、雫の表情は変わらない。
「それなら、さっき靄を払った光は何?」
「あれも・・・殲滅の後光じゃないのか?」
「私の知る限り、そんな芸当は殲滅の後光の能力に含まれないはずよ。」
雫の言うことは正しかった。
殲滅の後光は、倒した敵の数だけ自らの能力を上げてくれる。
しかし、スペルを打ち消すなどの効力は無いのだ。
「じゃあ・・・力は殲滅の後光じゃないと?」
「或いは、殲滅の後光とはまた別の力。複数の力を持っているかも・・・。」
「・・・何だかなぁ。麻耶も、こんな力持ってるのかね。」
と、ここで道案内をしていたレッサー・デーモンが振り向いた。
『私が案内するのはここまでだ。』
「アスタロトはどこなの?」
『ここで降りろ。降りたら東へ進め。アスタロト様は、お前たちに見せたいものがあると仰られていた。』
「東、か・・・。」
レッサー・デーモンは闇夜の中へと姿を消した。流駆たちは陸上へ降下を始めた。
「ここって・・・ベリアルがいた死火山だよね。」
「そうね。東だって事だから、方向は別だけど・・・。」
夜の山道を行く一同。暗いため、プラズマ・ボールを召喚した流駆が一番前に立っている。
「・・・皆、ちょっと止まれ。」
流駆が声をかける。後の4人は、即座に背中を向け合って辺りを見渡す。
「・・・何か、いるわね。」
「隠れてないで、出て来いよ!」
炎が叫ぶ。すると、周囲からボゥ・・・という擬音が似合うだろうモンスターが現れた。見た目は白い布を被った亡霊である。
「やっぱり罠だったのね・・・。」
「こいつら・・・ドローンだ・・・。」
「よく見て・・・あっちにはスケルトンとかもいる・・・!」
この白い布を被ったような亡霊は、ドローンと呼ばれている。
束になって獲物に襲い掛かる『コモン・ドローン』と、それを統率する『ホラー・ドローン』がいる。
「しかし、何て数だよ・・・。」
「うぜぇ・・・まとめて焼き払っとくから、先行け!」
「炎!一人じゃ・・・!」
「すぐに追いついてやるよ!雑魚の掃除はいつも俺の仕事だし、俺のペースを知ってるだろ!?」
と、炎が普段のごとく爆裂筒をコモン・ドローンに投げつけた。だがそれが炸裂する瞬間、コモン・ドローンは消えた。
「何!?」
「ホラー・ドローンが消したんだ・・・炎、後ろ!」
と、雫が叫ぶ。炎が振り向くと、現れたドローンたちが炎に襲い掛かっていた。
「へっ!いくらでも爆裂筒で・・・!」
ピシピシピシィッ!
炎が何か言いかけた瞬間、襲いかかっていたドローンが、まとめて何かに弾き落とされていた。
「いくらなんでも、この数はきついでしょう。私も残るわ。」
と言ったのは、『灼熱のウィップ』でコモン・ドローンを叩き落した雫だった。
「流駆に楓、樹は行って。彼は私がサポートするわ。」
「雫・・・よし、頼んだ!プラズマ・ボールは一応置いていく!」
流駆が、2体目のプラズマ・ボールを召喚し、包囲を抜けるべく走り出す。
道を塞ぐようなドローンもいたが、後ろから楓が放ったライトニング・ボルトで一蹴された。
「さて、炎?生半可な数じゃないわよ?」
「このくらい・・・俺に任しとけ!」
「あの2人、大丈夫かな!?」
「大丈夫よ!」
樹、楓が後ろを振り返りながら走る。
「2人とも、前を見て走れ・・・暗いんだから、躓くぞ!」
暗闇の中でぼんやりとプラズマ・ボールに照らされる流駆。顔色が良くない。
「流駆・・・あなたも大丈夫?」
「弱音吐いてる場合じゃないだろ・・・!」
心配する楓に、有無を言わせないような言葉で返す流駆。とその時、樹の足が止まった。
「2人とも、止まって!・・・出て来い!」
と、樹が流駆と楓の合間を縫うように爆音の雷撃を放った。
「うわ!」
「い、樹!?」
当然のごとく驚く流駆と楓だが、爆音の雷撃が捉えた目標を見て、足を止める。
『ハ・・・俺様の姿を見破るとはな・・・。』
「避けている・・・お前、『グラッフィアカーネ』だな!」
グラッフィアカーネ。まやかしの姿で自らの姿を偽り、敵に忍び寄るデーモン。
『その通り。お前ら、アスタロト様の元へは行かせないぜ。』
「・・・前置きは終わりか?なら、退け!」
いきなり、流駆が『封印の札』を投げつけた。奇襲だったそれをグラッフィアカーネは避けられず、そのまやかしの姿は消え去った。
『てめぇ、いきなり何を・・・!』
「プラズマ・ボール、『電撃』!」
バチバチバチィッ!
プラズマ・ボールが自爆し、グラッフィアカーネもろともカードに戻った。
「まずいわね・・・今度はデーモンに囲まれてるわ。」
「楓、樹、悪いけど任せていいか?」
「えっ・・・一人で行くの!?」
流駆の発言に鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になる樹。
「・・・無茶、と言いたいけど・・・?」
「こいつがある。それに、リュカにも手伝ってもらう。」
セネスの剣と、リュカのカードを両手に持つ流駆。
「・・・解ったわ。行って。ここは私と樹で押さえるわ。」
「楓・・・そうだね。流駆、麻耶を頼んだよ!」
「悪い・・・グラッド、ルイン、出れれば2人を手伝ってくれ!」
2枚のカードを放り、流駆は再び先へと走り出した。3体目のプラズマ・ボール、そしてグラッドとルインを残して。
「・・・相手は・・・5体か。」
「我も出るぞ。一人一体・・・出来るな?」
デクスが、オセの姿となって出てきた。
「デクス、あなたは戦えるの?」
「無論。早々にこいつらを蹴散らして・・・。」
「流駆に追いつくんだね!」
「ならば、先手必勝・・・!」
「行くぜ!」
5人は、それぞれ自らが相手にすべきデーモンへ向かって走り出した。
『来たか・・・一人?命じてもいないのに足止めに向かったな・・・。』
流駆が走って現れたのを見て、一人呟くアスタロト。
「麻耶は・・・無事でしょうね。」
流駆の横に身構えているリュカ。既に、鎌には採魂の炎が揺らめいている。
『麻耶か。彼女なら・・・ここだ。』
アスタロトが、傍らを見やる。その後ろから、ブラック・ライトニングを持った麻耶が歩いてきた。
「麻耶・・・大丈夫か!?」
「流駆、待ちなさい・・・確かに麻耶、幻じゃない。だけど、様子が変よ。」
リュカの言葉に、踏み出しかけていた足を止めて改めて麻耶を見る流駆。
暗くてよく解らないが・・・麻耶の目は虚ろ。意識の光と言うものはまるで無かった。
『麻耶、お前の力を見せてやれ。』
アスタロトに言われ、麻耶は無表情のままに弓の弦を引き絞った。