第59話「悪夢の瞬間」
それは、さして長くない時間だった。
でも、私には、それが永遠の長さに思えた。
私は、アスタロトに操られ、流駆さんに弓を向けた。
流駆さんが私に対して呼びかけてくれているのは、私の意識の奥底が聞いていた。
そのお陰で、私は自分を取り戻すことが出来そうだった。
でも、アスタロトの力が私を縛った。私は・・・錯乱した。
アスタロトは、私に鎌を向けた。
それが振りかぶられた瞬間、流駆さんが動いた。
・・・それから何が起こったのか、私の脳は理解を拒んだ。
錯乱したままの方が、よっぽど良かった。
逃げることができるから。
だけど、私の頬に飛び散ったものが、目の前にある現実を突きつけた。
アスタロトの鎌から滴り落ちる、私の頬に飛び散ったものと同じ、赤いもの。
その前に立っている、流駆さんの足元にできている、真っ赤な水溜り。
そして・・・流駆さんの背中から突き出ている、刃。
アスタロトがその柄を握る、死の女神の大鎌。
駆けつけたリュカさんの顔が、蒼白になる。
流駆さんの顔からは、みるみる血の気が引いている。
私の目の前に突きつけられた現実。
まさに、これは、悪夢―――
「嫌あああああっ!!」
麻耶の絶叫。
炎たちが駆けつけてきたのは、この瞬間だった。
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