第60話「麻耶の怒り」
「ガッ・・・」
流駆の口から、赤黒い血液が吐き出された。
『中間たちか・・・残念だが、一足遅かったようだな。』
アスタロトが、炎たちを一瞥する。もちろんその手には、流駆を貫いた鎌を持って。
「流駆・・・!?」
炎が、流駆が刺されているのに気付き、走る。楓たちも続く。
「そんな・・・流駆さん・・・流駆さん・・・!」
既に意識の無い流駆。麻耶が、泣きながらその身体に縋ろうとする。
『生憎だが・・・彼はもう助からん。命を捨ててまで仲間を守るその強靭な精神、私は決して忘れない・・・さらばだ。』
麻耶が手を伸ばした瞬間、アスタロトが大きく鎌を振った。
流駆はまるで木の葉のように大きく振られ・・・すぐ後ろの切り立った崖へ落とされた。
意識が無い状態でも手放さなかった、セネスの剣と共に。
「冗談だろ・・・!」
「あ・・・ああ・・・。」
「そ、そんな・・・。」
「嘘、でしょう・・・!?」
上より、炎、楓、樹、雫。ルインたちもだが、目の前で起こった出来事が信じられず、ただ立ち尽くしている。
「流駆・・・!」
すぐに流駆を追わんとするリュカだが、既に崖の底は深遠の如き闇。流駆の姿を見失ってしまった。
「流駆さん・・・。」
呆然と、両膝を突いて崖を見下ろす麻耶。
「流駆さん・・・流駆さん、流駆さん!流駆さんっ!!」
再び、夜の山に麻耶の悲鳴が木霊した。
「アスタロト・・・てめえっ!!」
炎が、アスタロトに向かって突進する。その手にはもちろん、イグナ爆裂筒。
「許さない・・・絶対に許さない!!」
それを追い抜くような勢いで、楓。黄金の槍を片手に、ワールウィンド。
「よくも、よくも流駆を!!」
樹は、爆音の雷撃の構え。加えて、炎と楓をストライキングでサポート。
「報いを、受けてもらうわ!!」
灼熱のウィップを片手に、雫も走る。攻めるための水スペル、『スマッシュ』を己にかけて。
「アスタロト・・・ぶっ殺してやる!!」
グラッドも走る。レーヴァテインも燃え上がっている。
「貴様・・・許さん!!」
スピードの力を受けたルインが、低空を滑空してアスタロトに迫る。
「あんた・・・覚悟はできてるんだろうね!!」
レーゼが、フレイム・ストライクを放つ。そしてそれを追うように、自身も腕を振りかざす。
「お前・・・貴様ッ!!」
デクスも、愛剣を片手に疾走した。
『流駆の仇討ちのために、現れた仲間全てが突貫、か・・・。』
冷ややかな口調で、アスタロトが呟く。
『そのような突撃・・・獣でもできる!』
アスタロトが再び鎌を大きく振りかぶり、こびりついた流駆の血と共に降り抜いた。
「や、止めて!」
リュカの叫びは、一瞬遅く響き―――
死の旋風が吹き荒れ、炎たちを蹴散らした。
「・・・!?」
呆然としていた余り、一連の動きを完全に見落としていた麻耶。背後の轟音に、慌てて振り向く。
「えっ・・・!?」
再び、目の前に広がった光景を疑った麻耶。
「み・・・皆さん・・・!!」
炎、楓、樹、雫、グラッド、ルイン、レーゼ、デクス。全員が、ボロボロになって倒れていたのだ。
『ふむ、思ったよりも効き目が薄いな。』
アスタロトが、自分の手を見て言う。
『お前の仕業か。『シャイニング・シールド』・・・あたりか?』
「・・・くっ・・・。」
アスタロトの目の前にいるのは、これもまたボロボロになっているリュカ。アスタロトの言う通り、シャイニング・シールドで死の旋風のダメージを微軽減したのだ。
「ち・・・くしょ・・・!」
「え・・・炎さん!駄目です、立っちゃ駄目です!」
何とか意識を保ち、戦おうとする炎。だが、起き上がることもできない。
「あ・・・。」
リュカも力が一瞬抜けたのか、地面へと落下した。
「あぁ、リュカさん・・・!」
『これで、後一人だな・・・麻耶?』
アスタロトが麻耶の方を振り向く。だが、麻耶の姿は既にそこには無い。
「リュカさん!」
「・・・まだ、大丈夫よ・・・それよりも、早く、流駆を助けないと・・・。」
「えっ・・・と言うことは、流駆さんはまだ!?」
麻耶の顔が少し明るくなる。だがそこに、アスタロトが降りてきた。
『そのワルキュリアが送還されない・・・つまり、それを呼び出した召喚術師は健在、ということか。』
「ア・・・アスタロト・・・!」
リュカが鎌を支えにして立つ。
『だが、生きていたとしてもあれは致命傷だ。加えて、この断崖絶壁。・・・お前、いずれ消えるな。』
そうアスタロトに言われた所で、リュカの膝が崩れた。
『・・・どうやら、それ以前にお前は限界だな。』
「まだ・・・私は・・・!」
リュカが再び立ち上がろうとした時、麻耶がそれを手で制した。そして、前に出る。
「麻耶?」
「リュカさん・・・もういいです。アスタロトは・・・私が倒します。」
麻耶にしては珍しい、好戦的な台詞。アスタロトはそれを受け、訝しげに眉を顰めた。
『・・・麻耶、お前とて煉獄の矢の連発で疲弊しているはずだ。そのような状態で私に・・・』
言いかけた瞬間、麻耶がブラック・ライトニングの弦を引き絞り、放した。一瞬にして練られた煉獄が、アスタロトに迫る。
『何っ!?』
鎌を前方に翳し、その一撃を受け止めるアスタロト。しかし、その衝撃は彼女を弾き飛ばした。
『クッ・・・麻耶、お前煉獄の矢を・・・!』
「アスタロト。私が今あなたに対して言えるのは、たった1つです。」
涙で潤んだ麻耶の目が、しっかりとアスタロトを見据えた。
「あなたは許さない・・・絶対に許せない!!」
三度、麻耶の叫び。その瞬間、麻耶の弓から、激しいほどの魔の力が迸った。
『これは・・・!』
「麻耶の・・・覚醒・・・!?」
アスタロト、そしてリュカが驚愕に目を見開く。その力は、流駆のものと同程度・・・或いはそれ以上のものだ。
『・・・面白い。本当の意味で覚醒した麻耶か。』
アスタロトが、鎌を構え直した。