第62話「戦女神の祝福」
『リジェネレーションが優秀、だっただと・・・?お前、それを使う暇がいつあった!?』
肩の傷を抑えながら、アスタロトが叫ぶ。流駆は、平然と返した。
「お前に刺される直前。でもな・・・死ぬほど痛かったぞ?」
笑みさえ浮かべている流駆。
「次に気が付いた時は、まっ逆さまに落ちている最中。ホルスのカードも落としそうになったしな。」
『そのような事を聞きたいのではない!』
怒りを込めた声で、再びアスタロトが叫んだ。
『退魔剣といえども、私にこれほどの傷を負わせるとは・・・貴様、何をした!?』
「・・・何をした、か・・・?」
流駆はゆっくりと、右手に持つ剣を突き出した。
「これで解るだろ・・・?」
『殲滅の後光か!それを退魔剣に帯びさせたというわけか・・・!』
流駆は、退魔剣をカードに戻すと、セネスの剣を両手に持った。
「もう一度言うけど、体調は最悪なんだ。・・・いくぞ!」
その叫びと共に、殲滅の後光が刀身に具現化した。
『・・・フ、いいだろう。かかって来るがいい!』
アスタロトも身構える。流駆がホルスに乗ったまま、突撃してきた。
『お前も突貫するだけか!・・・生憎だが、それでは私は倒せない!』
アスタロトが手を翳す。そこから放たれたのは真空刃、ウィンド・カッター。
「ホルス、『サンド・カーテン』!」
砂の壁が巻き上がり、真空刃を阻む。しかしアスタロトは慌てずに、更なる対抗のスペルを完成させた。
『最悪な体調を更に悪くしてやろう・・・『バックファイア』!』
スペル行使者に精神的な過負荷をかけ、そのスペルを無力化する魔のスペルだ。
「ぐっ・・・『ディスペル・マジック』!」
流駆の声に応え、更にスペルを放つホルス。バックファイアは、打ち消された。
『フ・・・その状況でこれを防げるか!?』
アスタロトが鎌を振りぬく・・・死の旋風が流駆を襲った。
「・・・流駆さん・・・それは、受けちゃ駄目です・・・!」
地上から、麻耶が掠れた声で叫ぶ。
「・・・頼むぞ、殲滅の後光よ!」
死の旋風に対し、流駆は真っ向から剣を振り下ろした。殲滅の後光が、光の刃となって死の旋風と衝突する。
『馬鹿め、麻耶同様ねじ伏せてやるわ!』
「させるか!」
流駆が、振り下ろした剣を今度は振り上げる。2つ目の刃が、十字の光を成した。その光は、死の旋風を切り裂く。
『何!』
死の旋風の裂け目から流駆が飛び出す。驚愕に目を見開くアスタロトの肩に、再び斬撃を浴びせた。
『ガ・・・ッ!』
流駆はホルスを操り、地上へと降り立つ。
「流駆、さん・・・生きて・・・。」
「・・・上着貸した意味、あんまり無くなっちまったな。」
「あ・・・す、すいません・・・。」
「・・・お前も酷い傷なんだ、休んでろ。」
声をかけてきた麻耶を下がらせる流駆。麻耶は、その言葉に従った。
「炎たちも・・・だぞ。」
振り向き、炎たちにも声をかける。
「リュカは・・・カードに戻ってろ。」
「・・・流駆。生きていてくれて、嬉しいです・・・。」
その言葉を残し、リュカはカードに戻った。
「・・・さて、アスタロト、続きを・・・!?」
流駆はアスタロトに向き直り、思わず一歩下がった。アスタロトの周りに、幾つもの混沌の渦が浮いているのだ。
『生憎だが、私はお前が話し終わるのを待つほど優しくは無い・・・。』
混沌の渦は、アスタロトが喋る間にも大きくなっていく。
『背後を狙わなかったのはせめてもの慈悲と思うがいい!『ドラコ・ジェノサイド』!』
幾つもの混沌の渦が、流駆たちに向けて放たれた。・・・避わすには速すぎる。
「その程度、十分防げるぞ!」
流駆が剣を翳す。だがそこに、麻耶の叫び声がかかった。
「流駆さん!そんな身体であれを防ぐほどの殲滅の後光を使ったら!」
使ったら・・・流駆の体はもたない。彼の顔色を見れば、それは明らかだった。
「大丈夫・・・防いでみせる!」
自身たっぷりに言い放つ流駆。それと同時に、流駆の剣から現れたのは殲滅の後光ではなく、青白い炎。
『・・・!?』
開いた口が塞がらないアスタロト。青白い炎は壁となって流駆たちの前に立ち塞がり、混沌の渦を弾く。
「こ、これは・・・!?」
麻耶もまた、その力を見て驚愕する。
「かき消せ・・・!」
流駆の言葉。青白い炎は、混沌を全て弾き、飲み込み、かき消す。そして最後に消え去った。
『流駆・・・お前、殲滅の後光だけでなく、他の力までも・・・!』
アスタロトの驚きを隠せない声。流駆はそれを受け、静かに語りだした。
「崖を落ちている最中・・・きっと意識が無かった時だ。・・・セネスの声が聞こえた。」
リュカの顔が、強張る。
「俺に言ってきたよ。この程度で死ぬのか、力を出し切らずに死ぬのか・・・お前は女神に祝福されている・・・その力を目覚めさせろ、そしておまえ自身も・・・と。」
『女神の・・・祝福だと・・・!?』
「そう。その直後、俺は自分の力の本質を理解した。ワルキュリアの女神の力・・・それが俺の力だ。」
剣を振り払いつつ、流駆が言う。
「じゃあ、今のは・・・。」
「『聖炎のカーテン』ね。『聖炎の女神スケグル』の力。スペルや道具を全て無力化する力・・・。」
「そういうことだ。そしてセネスも、戦争の女神・・・その力は、殲滅の後光。」
麻耶の疑問に、楓が応え、流駆はアスタロトを再び見据えた。
「解説はこんな所だろう。・・・ケリをつけるぞ。」
流駆がホルスに跨り、剣に殲滅の後光を纏わせながら再度アスタロトへと斬りかかる。
『・・・恐るべき力だ。こちらの物にならないなら、今すぐ排除させてもらう!』
剣と、鎌が真っ向からぶつかり合い、鍔迫り合いに近い形になる。
『殲滅の後光が弱まっているようだな。こうしているだけでもお前の負けだ。』
アスタロトの言葉通り、殲滅の後光はその光を淡いものとしていた。
「確かに・・・。だけど、お前の負けだよ。」
『ハ。何を・・・!?』
背中に灼熱を感じたアスタロト。一瞬怯んだ隙に、流駆に弾かれた。
『な・・・こ、こいつは・・・!?』
アスタロトが、目を見開く。その目に映っているのは、白鳥に乗った黒衣の女性。無論、ワルキュリアだ。
「『ワルキュリア審問隊』!カード無しでどうやって!?」
麻耶が、流駆の召喚に対して驚き・・・というよりは疑問の声を上げる。
「・・・『聖輪門』・・・!」
『ワルキュリアの女神の力・・・『聖輪の女神ラーズグリーズ』か。』
「言っておくけどな、これで終わりじゃないぞ。」
流駆が呟く。その傍らにいた審問隊は・・・3人。
「決めるぞ。『聖なる審判』!」
審問隊たちに指示を飛ばす。彼女らの力は、魔の存在への刻印と断罪。
『甘いな!』
手に持つ大鎌を回し、死の旋風を放つ準備に入るアスタロト。だが、それを見越していたかのように流駆が剣を構える。
「見え見えだ!」
流駆が剣を振るう。その剣から、殲滅の後光がまるでレーザービームのごとくアスタロトに放たれた。
『チィ・・・!』
アスタロトは鎌を回すのを中断し、それを弾く。だがその隙に、聖なる審判が3重になってアスタロトを焼いた。
『・・・グァァッ!』
「これで・・・決める!」
流駆が、高高度から急降下する。剣の力は、殲滅の後光の援護を受けた、もう1つの力。
「『採魂の大鎌』だ!」
ブリュンヒルドと双璧を成すもう一人の採魂の女神、フレイアの力。
その力を込めた流駆の一撃は、アスタロトの左腕を肩口からあっけなく切り落とした。
『グ・・・!』
鎌を落とし、肩口を押さえながら苦悶に顔を歪めるアスタロト。
『おのれ・・・お前たち・・・殺して・・・!』
物凄い光が降り注ぎ、アスタロトのもう片方の腕を炭化させたのは、この瞬間だった。
「な・・・・!?」
その攻撃に身に覚えの無い流駆。唯一解るのは、殲滅の後光より遥かに強力だったということだ。
『『アルティミット・レイ』だと・・・!?何故だ・・・何故私を・・・!?』
アスタロトが混乱する。その間にも、もう一撃が降り注ごうとしている。
『何故・・・!!』
アスタロトが、眩い光に呑まれる。
「あ・・・。」
思わぬ幕切れに、言葉を失う流駆。だが、聞いたことが無い言葉が聞こえてくる。
『・・・お前が、聖 流駆なのだな。』
「・・・!」
流駆がその声に振り返ると、そこにいたのは、アスタロトを抱えたデーモン。背中に、巨大な剣を背負っている。
「お前・・・まさか、『剣の公爵アスモデウス』か?」
『いかにも。』
流駆が身構える。『剣の公爵アスモデウス』は、六皇子最後の1体。そしてその実力も、最強の部類に属する。
『・・・今お前たちとやりあうつもりは無い。いずれ、また合間見えるだろう。』
そう言い残して、アスモデウスはアスタロトと共に消え去った。
「・・・消えた、か・・・。」
流駆がホルスを操って、地へと降りた。
「流駆さん・・・生きて、生きてくれていたんですね・・・。」
「あぁ・・・何とか、な・・・」
話し掛けてきた麻耶にそう言い、寄って来た炎たちの相手をしようとして・・・倒れた。
「流駆さん!?」
麻耶が即座に流駆の元に膝を突く。流駆の表情は、もはや蒼白を通り越して土気色にも近い。
「流駆さん!しっかりしてください、流駆さん!」
「・・・麻耶、流駆をホルスに乗せるわ。一刻も早く休ませましょう。」
リュカがカードから出て来て、流駆の肩を担ぐ。そして、ホルスへと乗せた。麻耶もホルスに跨る。
「・・・僕たちも帰ろう・・・。」
「あ、あぁ・・・。」
人の姿に戻ったデクスの声に、炎と楓がドラゴンを召喚する。それだけでも、今の2人には過度の負担だった。
「皆・・・ボロボロだね・・・。」
「そうだな・・・だが、死んでない。これからはどうとでもなる・・・。」
樹の呟きに、ルインが応える。
「じゃあ・・・帰るわよ。」
後ろに雫を乗せた楓の声で、スカイ・ワイバーンが飛び立つ。次いで、炎と樹が乗ったファイア・ドラゴン。最後に、流駆と麻耶が乗ったホルスが飛び立った。
既に、東の空は明るくなり始めていた。