第8話 「転校生」
ここは流駆たちが通う中学校。
ダークネスの存在を知った翌日の朝だ。
「ったくあのおっさんめ、ガセネタ掴ませやがって・・・。」
どこぞの新聞記者のような口調だが、話しているのは炎だ。
「まぁ、冷静に考えれば当然かもしれないけどな。」
傍にいた流駆が口を開く。
昨日おっさんこと槌田一樹から聞いたアドレスに繋いでみたところ、そこには何もなかった。
早い話が、ページのアドレスを変更したのだ。
「でもよ、せめてページの引越し先ぐらい書いておくべきだよな。」
「・・・あのな、炎。ダークネスは仮にも秘密組織なんだ。引越し先なんてのっけたら秘密でもなんでもないだろ。」
確かにそうだ。
炎は言葉に詰まり、そっぽを向いた。そのときに、割り込んでくる声があった。
「でも、誰も知らないんじゃカードを密造・偽造したって誰も買えないんじゃない?」
声の主は楓だ。
さっきまではいなかったのだが、いつの間にか2人の背後にいたのだ。
「楓、どこ行ってたんだ?」
「教務室よ。何でも今日は転校生が来るらしくって・・・」
「転校せっ・・・!?」
「・・・声が大きいわよ。」
流駆の口を塞ぐ楓。
周りには聞こえてないようだ。
「・・・まぁそれでね、昼休みに校舎の案内をしろって先生に言われたわけ。流駆、炎、あなたたちも一緒にね。」
楓は、このクラスの学級委員長をやっている。こういうことで呼び出されることも少なくない。
「・・・流駆はともかく、何で俺もなんだ?」
因みに、流駆は副学級委員長。炎は・・・何もやってない。
「先生が『お前ら3人仲いいから丁度いいだろ』だって。」
複雑な表情で楓が言う。
「・・・仲がいい、ね・・・俺はどっちかって言うと「腐れ縁」のほうが適切だと思うぞ・・・。」
「確かに。」
「同感。・・・先生、来たみたいよ。」
3人は、各々の席についた。
「・・・というわけで、転校生を紹介する。」
先生の言葉は、クラスのどよめきを生んだ。
「今、草薙が迎えに行ってるんだが・・・。」
がらり。
唐突に教室のドアが開くと、クラス中の視線が入ってくる人物に集中した。
2人いる。1人は楓、もう1人は見慣れない少女だ。
「では紹介しよう。『渚 麻耶(なぎさ まや)』さんだ。みんな、仲良くするように。」
「・・・渚 麻耶です。よろしくお願いします・・・。」
「はーい」「こちらこそヨロシク」何ぞという声が、特に男子生徒から聞こえてくる。
転校生・・・麻耶は、男性はもちろん女性の目から見ても「かわいい」少女だったのだ。
「さてと、渚の席は、と・・・聖と服部の間、空いてるよな?」
「はい?空いてますけど?」
それまで我関せずといったように頬杖をついていた流駆が頓狂な声を上げた。
彼は、あまり異性というものに興味を持たない性格らしい。
「確か近くに委員長の草薙の席もあったし、丁度いい。そこを渚の席にする。」
先生はそれだけ言うと、ホームルームを終了させた。
これから授業までは、少し時間がある。
「この周り、人寄ってくるだろうな・・・。」
と、流駆は考えていた。
案の定、麻耶の席の周りにはちょっとした人だかりが出来た。
「ねぇ、どこから来たの?」
「今どこに住んでるの?」
「メールアドレスあったら教えてくれない?」
「僕と付き合ってください!(をい)」
女子が聞くのはいいが、男子が聞くとほとんどナンパである。
・・・そして、その人だかりの中心、一番麻耶の近くにいるのは炎であった。
彼は流駆と違い、何とかして彼女を作ろうとしているのだ。
そして、たくさんの恋をしている。当然、実ったことはない。
そんな声も、授業の開始を知らせるチャイムと、授業の先生の登場により聞こえなくなった。
「じゃあ教科書の67ページを開いて。・・・」
授業が始まると、なにやら困っている様子の麻耶が流駆の視界に入った。
「・・・どうかしたのか?」
流駆が小声で訊ねてみると、麻耶は困惑した表情で、
「ちょっと・・・教科書が・・・。」
と答えた。
「あ、そうか・・・。じゃあ、もう片方の隣りの人のを借りたら?」
もう片方の隣りの人。炎である。
彼は、授業開始5秒で眠りの底へ堕ちた。
「え・・・でも・・・。」
「いいから。授業進んでんだから早くした方がいいぞ。」
「・・・じゃあ・・・。」
麻耶はスッと炎の机の上から教科書を抜き取った。もちろん、この程度では炎は起きない。
・・・いいのだろうか。
結局、麻耶は午前中の授業は全て流駆の言葉通りに炎の教科書を使用した。
・・・3人とも、本当にいいのだろうか。
昼休みになった。
楓が後ろを振り向いて、麻耶に声をかけた。
「ねえ渚さん、あなたまだ学校の設備よく知らないでしょう?案内するからついて来ない?」
「・・・いいんですか?お願いします・・・。」
「じゃあさっそく・・・流駆、炎、行くわよ。」
楓は、後ろの男2人に声をかけた。
「へいへい。」
流駆が返事をする。
「あ・・・授業中は有難うございました・・・。あの・・・名前は・・・。」
「自己紹介してなかったっけか?ま、いいや。俺は聖 流駆だ。」
「聖さん、ですか・・・。本当に有難うございました・・・。」
「いや、別に俺が教科書を貸した訳でもないし。そこまで丁寧にしなくてもいいぞ。それに、呼び方も流駆でいいから。」
2人がやり取りをしている間に、それまで寝ていた(またか)炎が起きた。
「お。あなたが礼を言う相手がお目覚めだぞ。」
「あ・・・授業中は有難うございました・・・。」
「・・・んあ・・・?なんのことだ・・・?」
「寝ぼけてる彼は服部 炎。炎って呼んでいいから。」
なんだかよくわからないやり取りをし、流駆たちは麻耶の学校案内を始めた。
数十分後。
流駆たち4人は教室へ戻ろうとしていた。そのときである。炎が外の何かに気付いた。
「あのさぁ。外のあれって・・・『大翼竜』じゃないか?」
「・・・?げっ、本当だ・・・。」
『大翼竜』・・・風のレベル4、4/3の長距離飛行ができるモンスターだ。
「・・・1体だけじゃないな・・・1、2、3・・・5体もいるぞ・・・。ダークネスのカードか・・・。」
流駆が数を数えながらぼやいていると、麻耶が1歩前に出た。
「・・・流駆さん、炎さん、楓さん、下がっててください・・・。」
「・・・麻耶さん?」
麻耶が懐から取り出したのは、モンコレのカードだった。
「あなた、召喚術師・・・!?」
「出てきて・・・『ダークエルフ邪眼部隊』・・・!」
麻耶が呼び出したのは、ダークエルフの戦士達だった。
魔の2レベルで2/1、アイテムワークを持っている。
「えっと・・・『ブラック・ライトニング』を持たせて・・・。」
「・・・っと、俺らもモンスター呼ばないと!」
我に返ったかのように言う流駆。
既に、ダークエルフたちは大翼竜を相手取ろうとしている。
「いくらなんでも無茶よ!麻耶さん!」
そう楓が叫んだ瞬間、大翼竜はダークエルフに襲い掛かった。先手だ。
「沈んで・・・!『トルクメンの矢』!」
麻耶がカードを翳すと、ダークエルフがいつの間にかブラック・ライトニングに矢をつがえている。
大翼竜がそこに襲い掛かる。矢は放たれた。
矢は狙いを外さず、大翼竜に命中した。それと同時に、凄まじい電撃が大翼竜を襲う。カードに戻った。
「よかった・・・。」
「麻耶さん、次来てる!」
麻耶がその楓の声に振り向くと、大翼竜がダークエルフを切り裂こうとするのが見えた。
応戦しようとするが、手札に矢がもうない。
「・・・そんな・・・!」
「『クロスファイア』!」
唐突に声が響くと、襲い掛かった大翼竜の体の内部から十字の閃光が迸った。
モンスター1体に閃光の1D+1ダメージを与えるスペルだ。
出目は4。5点のダメージを受けた大翼竜は、カードに戻ってしまった。
「・・・危ね〜。間に合ったよ・・・。」
スペルを放ったのは、流駆の『ペルソナ』だった。
聖の4レベル2/4、オールスペルを2つ持っている。かなりのレアカードでもある。
「流駆さん・・・あなたも・・・?」
「もう3体は、様子をうかがっているかな・・・?」
2体の仲間が倒されたことに動揺してか、残りの大翼竜はすぐには攻撃してこない。
「・・・因みに、俺だけじゃない。そこの炎、楓も召喚術師だぞ。」
などと話している間に、3体の大翼竜が意を決したかのように襲い掛かってきた。
「やべ、向こうが早い・・・『エンデュランス』使っても貫かれるぞ・・・。」
「・・・ペルソナがいるなら話は早いわ。流駆、スペルワーク1つ使わせてもらうわよ・・・『ウィンド・カッター』!」
楓が、ペルソナのスペルワークを借りてスペルを撃つ。1体を真空の刃が切り裂き、カードに戻した。
「よし、これなら・・・。『エンデュランス』だ!」
流駆がすかさずスペルを放つ。
しかし、出目は4。ダークエルフは無事なものの、ペルソナはカードに戻ってしまった。
「まずいな・・・麻耶さんは、今手元に矢がないんだろ?」
「はい・・・。こんなときに・・・。」
「ちょっと待て。俺を忘れるな!」
そう言って前に出たのは炎だ。
彼の横には、『オーク錬金術師団』がいた。2レベルの2/2、火のスペルワークを持つ。
「麻耶さん、こいつも含めて攻撃だ。」
「え・・・、でもこれじゃ1体しか・・・。」
確かに、今のユニットの攻撃力は総合しても5。大翼竜1体を倒すのが限度だ。
「いいから。策はあるからさ。」
炎のその言葉を信じ、麻耶は攻撃を仕掛ける。
それにより、大翼竜1体はカードに戻ったものの、もう1体は無事だ。
「俺にしては珍しく考えた策、見せてやる!」
「・・・「珍しく」とか自分で言って、悲しくならないか?」
流駆が呆れ顔で突っ込む。
「ツッコミ無用!喰らえ、『フレイム・ストライク』!」
炎が放ったのは、モンスター1体を炎の槍で貫き、葬るスペルだった。
大翼竜は、そのスペルを受けて、カードに戻った。
「よし、一丁上がり!」
「皆さん・・・すいません・・・。」
「謝る必要なんてないわよ。召喚術師仲間なんだし。」
「そうだな。後でどうしてその力を手に入れたか、お互いに話し合おうぜ。」