保健室のドアが開いた。
開いたドアから、一人の白衣姿の女性が入ってくる。
「・・・キール、あの人がさっき話してた看護婦か?」
「いや、全然違う・・・。」
リッドとキールがこそこそと話をしていると、入ってきた女性がリッドたちに気付いた。
「・・・どこか、怪我でもしましたか?」
「あ、いえ、キール以外は特に怪我をしているって訳では・・・。」
「あ、そうなんですか。・・・で、そのキールさんは・・・?」
「・・・僕だ・・・。」
ベッドの上で、先程の怒りがどこへいったのかというような弱々しい声でキールがうめいた。
「・・・どうしたんですか!?そんなに包帯ぐるぐる巻きで・・・。」
「・・・あなたが来る前にいた看護婦達に・・・。」
キールは淡々とした口調だが、どこかぎこちない。
それは、今目の前にいる白衣の女性のせいなのか、はたまた彼生来の特徴なのか。
「いくらなんでもあんまりでしょう・・・。付き添いの方、少し下がってくれますか?包帯を巻き直しますので。」
そう言うと、てきぱきと女性はキールの包帯を交換し始めた。
そんな中、メルディがその女性に声をかける。
「なぁなぁ看護婦さん。看護婦さんも、ここに勤めているのか?」
メルディがそう聞くと、女性は微笑しながら答えた。
「私は、2−2のミント・アドネードといいます。この学校の、れっきとした生徒なんです。」
「え?生徒なんですか?でもそのカッコ・・・。」
コリーナが、ミントの白衣を見渡しながら言う。
「私はこの学校の生徒であると同時に、保健委員長もやっているんですよ。怪我をしたら遠慮なく来て下さいね。」
「・・・あの看護婦達がいないときに、そうさせてもらおう・・・。」
包帯の交換をしてもらったキールが言う。もはやミイラではなくなっている。
「そういや、その看護婦達ってのは何者なんだ?」
思い出したようにリッドが言う。
「あぁ、多分アルバイトの人たちだと思いますよ。」
「アルバイト!?この学校には、この学校には保健の先生というのはいないのか!?」
「・・・聞いたことはないですね。ここの仕事はほとんど私とウンディーネ先生でやってますから。」
キールの問いにも、穏やかな口調で話すミント。
「・・・ところで、あなたたちは一体・・・?」
「あ、自己紹介してなかったね。私はファラ。こっちがリッドで、キールが彼。
で、こっちがメルディにコリーナ。みんな1−2。改めて宜しくお願いします、ミント先輩。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
と、ファラが一通り自己紹介を終えたところで、保健室のドアが乱暴な音を立てて開かれた。
「あっ、やっぱりここにいた!ミント〜!あそぼ〜!」
入ってきながら大きな声を発したのはピンクの髪のポニーテールの少女。何故か、箒に乗って浮かんでいる。
「アーチェ、保健室なんだからもうちょっと静かにしろよ・・・。」
「全くだぜ。相変わらずデリカシーのねぇ女だな。」
といいながら次に入ってきたのは、2人の男性。
一人は金髪に紅いバンダナを巻いていて、もう一人は青い長髪を束ねている。
「クレスさん、チェスターさん、アーチェ・・・。どうしたんですか?」
「暇だからさ、遊びに来たんだよ〜。・・・ところで、誰がデリカシーのない女ですって?」
「・・・どうやら、自覚もないみたいだな。」
青髪の方がそう答える。
「何さっ!あんただって・・・!」
「悪いんだけど、怪我人がいるの。もうちょっと静かにしてくれないかな?」
と、比較的穏やかな口調で、指を鳴らしながらファラが言う。
「あっ・・・ごめん。」
何故か、金髪のほうが謝る。
「怪我人がいたのか?そりゃ悪かったな。」
「そうよ、あんたが悪いのよ。人のことをデリカシーがないだのなんだのと・・・。」
「・・・本当のことだろ。」
「何ですって〜!大体あんた・・・!」
一旦おさまったように見えた口喧嘩が、また始まりそうな雰囲気である。
「・・・サイレンス!」
ミントが放った法術により、事なきを得た。
「・・・この人たちは、みんな2−2の生徒なんです。」
「ごめんな、五月蝿くして。僕の名はクレス・アルベインだ。」
金髪の方が自己紹介する。
「俺はチェスター・バークライト。で、この生意気な女がアーチェ・クラインだ。」
「・・・・・・!(誰が生意気よっ!)」
アーチェは何か言いたそうだが、とりあえず無視。
「私たちは・・・。」
以下、ミントのときと同じ文なので省略。
「・・・なぁキール、もう動けるんだろ?そろそろ帰らないか?」
いい加減うんざりした口調と表情でリッドが喋る。
窓の外は、もう夕焼けであった。
「そうだな。じゃあこれで・・・。」
と、キールが立ち上がろうとしたとき、いきなり鈍い音がした。皆、一斉にそちらを見る。
「この馬鹿男!よっくも好き放題言ってくれたわね!」
「いってぇなぁ!そんな事するからだろ、暴力女!」
どうやら今の音は、チェスターの頭をアーチェが箒でぶった音のようである。
いつの間にやら、サイレンスの効力も切れていた。
「・・・もう怒ったからね!アイスニードル!」
なんと、いきなり口喧嘩から本当の喧嘩にまで発展した。
「やめて下さい、ここは保健室ですよ!」
「そうだよ、やるんなら外でやりなよ!」
ミントはともかく、ファラは少しおかしい。
舞台を廊下に移し、更に2人の喧嘩は続く。
「誰が、暴力女よ!ファイアストーム!」
「いきなりキレる、お前がだよ!衝破!」
「うるさい!あんたに言われたくないわよ!ゴッドブレス!」
「言われたくなかったら、自分を見直せっ!大牙!」
なんだか、保健室の目の前がただの空間と化してきている。
「あんたが悪いのよっ!ビッグバン!」
「お前が悪いんだっ!屠龍!」
既に、悪口も尽きてきたようである。
「・・・クレスセンパイ、あの喧嘩は止められないのか?」
「・・・僕じゃ多分無理だけど、ミントなら・・・そろそろ止めてやってくれないか、ミント?」
「そうですね、解りました・・・。」
クレスの言葉に、ミントは法術を唱え始める。
「・・・タイムストップ!」
「やれやれ・・・一時はどうなることかと思ったぜ・・・。」
学校の帰り道、リッドが呟く。
「そうだね・・・ミント先輩があの2人の時間を止めてくれてなかったら、私たちまだ学校にいたよね。」
ミントが時間を止めた後、急いでクレスがチェスターの手と足を縛り、アーチェに猿轡をかませていたのだ。
「・・・キール、大丈夫なの?」
「あんなの見たら、この怪我なんてどうってことないって思ってしまうさ・・・。」
どうやら、キールは大丈夫なようである。
因みに、ラシュアンの3人とメルディとコリーナとは帰り道が違う。
「だけどよ・・・あの人たちとは、またどこかで会いそうな気がしないか・・・?」
「そうだな・・・。あれだけの騒ぎだ、きっとチェスター先輩とアーチェ先輩は学校では有名な存在なんだろう・・・。」
「まぁまぁ、2人とも。いいじゃない、先輩に知り合いが出来て。これで学校生活も楽しくなるよ。うん、イケる、イケる!」
「・・・ファラ、ほんとにそう思うのか・・・?」
「あの人たちとは、またどこかで会いそうな気がする」
このリッドの予感は、そう遠くないうちに当たることになる。